「 kowainetの記事 」 一覧

下りだけの道、志那羽岩子。作品共通タイトル画像。

下りだけの道|第三章 二人の先頭 iwa+

古賀七重さんは、訪ねてきた僕より、姉に多く話しかけた。 「写真は来月まで飾るの」 「まだ日にちは決めてないんです。直人の絵が間に合えば」 「その言い方は、頼む前から遅れる人にしてる」  七重さんが笑う ...

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下りだけの道|第四章 七百メートル iwa+

十月八日の朝、姉は玄関で僕の靴を見て、紐の先がほどけかけていると言った。山へ行くからというより、小学校へ送っていた頃の口調だった。僕が結び直しているあいだに、姉は車の助手席へ荷物を置いた。紺の上着に灰 ...

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下りだけの道|第五章 待っていた場所 iwa+

翌九日、姉が帰ってきたとき、僕は食卓で橋の絵を直していた。霧生山とは関係のない町の観光冊子で、川沿いの遊歩道から見る古い橋だった。先月撮った写真には工事用の足場が写っていて、依頼主からは完成後の姿にし ...

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下りだけの道|第六章 下山予定 iwa+

十二日の朝、姉から、冷蔵庫に残っている煮物を父と食べておいてほしいという連絡が来た。僕は自分の部屋にいたので、父さんに言って、と返した。姉は「あ、そうだった」と送ってきた。数日実家で過ごしただけで、家 ...

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下りだけの道|第七章 追いつくまで iwa+

十四日の朝、父は湯を沸かす前に、食卓の紙を全部持ち上げた。輪染みを作らないためだった。姉の予定表、写真の控え、僕が印刷した古い記録。それらを一束にして台所の棚へ置き、茶碗を三つ出しかけたところで、一つ ...

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下りだけの道|第八章 道を外れた人 iwa+

小屋跡で待った時間が、何分だったのかは覚えていない。佐井さんの時計を一度見て、僕の電話と少し違うと思った。その差を確かめる必要があるような気がして、画面を開いたり閉じたりした。そこへ戻ってきた隊員の人 ...

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下りだけの道|第九章 黄色い背中 iwa+

姉の上着は濡れていた。僕が肩をつかむと、痛い、と言った。力を緩めても、姉は僕を見ていた。こんなところまで来て何をしているのか、と言いたそうな顔だった。僕は同じことを聞きたかったが、最初に出たのは、何で ...

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下りだけの道|第十章 上がる足 iwa+

姉は長いあいだ、立とうとしなかった。僕は急がせたかったが、急がせるたびに足を痛めることが分かった。動かす前に言って、と姉に叱られ、僕は自分の膝の位置を変えるときまで説明するようになった。姉は鬱陶しいと ...

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下りだけの道|第十一章 言わなかったこと iwa+

父に、姉も僕も下りた、と伝えた。父は、どっちが怪我をした、と聞いた。姉の足だと言うと、医者へ行くんだな、と確認した。行くと答えた。父は分かったと言い、それから黙った。電話が切れていないことは、息の音で ...

無音の試聴室、志那羽岩子。作品共通タイトル画像。

無音の試聴室|第一章 四十三秒 iwa+

八人が振り向いた。 私のヘッドホンでは、何も鳴っていなかった。画面の手前に座っていた女性は、膝の鞄を押さえながら振り返った。隣の男性は天井を見て、そのあと左側の通路へ顔を向けた。奥の六人にも少しずつ差 ...

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下りだけの道|第十二章 紙の中の道 iwa+

一月に入って、姉から額の寸法が送られてきた。  店の奥に飾る写真をようやく決めたらしい。僕が描くはずだった展示に添える絵は、まだ仕上がっていなかった。姉は急がなくていいとも、もういらないとも言わなかっ ...

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無音の試聴室|第二章 八人の向き iwa+

舟橋会館の前庭には、植えたばかりの低い木が並んでいた。 建物の外壁は薄いベージュで、入口の大きなガラスだけが午後の日を強く返していた。旧館を覚えていない私にも、すべてが新しくなったわけではないことは分 ...

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📖無音の試聴室|作品案内・全12章 iwa+

無音の試聴室:全十二章 八人が振り向いた。私のヘッドホンでは、何も鳴っていなかった。 会館の記録映像に残された四十三秒。字幕を作る「私」は、聞こえた声と録音の食い違いをたどっていく。 第一章 四十三秒 ...

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無音の試聴室|第五章 雨の日の声 iwa+

伊原千鶴さんは、私たちが玄関に入る前に、傘をどこへ置くか教えてくれた。 雨はやみかけていたが、沖野さんの長い傘の先から、水がぽたぽた落ちていた。千鶴さんは古い鉢の受け皿を持ってきて、これなら倒れてもい ...

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無音の試聴室|第三章 第二試聴室 iwa+

その日のうちに、沖野さんが古い室名表を探してきた。 問題の部屋は第二試聴室で、二階の調整室横に第一試聴室があった。第一のほうは録音したものを少人数で聞く部屋として使われ、現在も名称が残っていた。舞台下 ...

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無音の試聴室|第四章 三つの返事 iwa+

三月九日の午前、沖野さんから届いた一覧表には、音の種類を書く欄がなかった。 保管箱の番号、媒体、表面に記された題名、データの長さ。その四つだけが、細い罫線で区切られていた。二月に資料のデジタル化を請け ...

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無音の試聴室|第六章 待たされた人 iwa+

神尾忠さんが会館に来ることになった三月十三日、私は午前中から打合せ机で古い映像を見ていた。 同じ日付の資料に含まれる、上映には使われなかった長い撮影記録だった。再生の速さは変えず、確かめたい動作の手前 ...

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無音の試聴室|第八章 外されなかった線 iwa+

三月十六日、沖野さんは再開館式で歴史映像を上映しないと決めた。 映像全体を捨てるわけではなく、出演した人へ返す作業や、記録としての整理は続ける。当日は同じ場所に写真を掲示し、舞台上の催しを紹介する短い ...

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無音の試聴室|第七章 確認の丸印 iwa+

三月十四日、私の作業机には、同じ三つの言葉が違う場所に置かれていた。 会館の作業票に印刷されたもの、千鶴さんの練習録音から私が書いたもの、神尾さんが昨日の聞き取りで言及したもの。付箋には、作業票、私物 ...

無音の試聴室、志那羽岩子。作品共通タイトル画像。

無音の試聴室|第十一章 再開館 iwa+

三月三十日、舟橋会館の入口には、来場者が傘を持たずに並んでいた。 朝の雨が上がり、前庭の新しい植込みに水滴が残っていた。子供の発表に来た家族、昔から会館を利用していた団体の人、散歩の途中に寄ったらしい ...

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無音の試聴室|第九章 廊下の合図 iwa+

三月十八日の十一時二十二分に、私は会館の通用口へ着いた。 受付の代わりに置かれた長机には、工事担当者の名前と、出入りした時刻を書く用紙があった。井草さんの名前の横に、十一時〇七分とあった。私は自分の時 ...

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無音の試聴室|第十章 訂正の日 iwa+

宮坂さんは、その日のうちに帰宅した。 膝の打撲について治療を受け、ほかに急いで処置する異常は見つからなかったと、本人から連絡があった。なぜ立ちくらみがしたかについては、本人も結論を聞いていない。私への ...

前任者への連絡は不要、志那羽岩子。作品共通タイトル画像。

前任者への連絡は不要|第二章 水曜日の食事 iwa+

志那羽岩子『前任者への連絡は不要』、第二章 水曜日の食事。小野寺というのは、作業室から駅へ向かう途中にある食堂だった。お

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無音の試聴室|第十二章 空室の記録 iwa+

四月十二日、私は舟橋会館へ最後の確認用原稿を持っていった。 表紙には「内覧時の音声と旧第二試聴室に関する記録」と書いた。仮に付けていた「音声事故」の題名は、その下に残した訂正履歴の中にある。  原稿に ...

食堂の作業台にある秤と空の白い茶碗

空の重量 iwa+

昼だけ開く食堂で、洗い物の仕事を始めた。 客席は十二席で、店主の奥さんが注文を取り、店主が厨房に立つ。私の仕事は、戻ってきた食器を洗い、閉店前に残ったご飯を小分けにすることだった。 一人前は百八十グラ ...

濡れない来客 rw+9,013-0123

父親の顔を一度も見たことがない。 物心ついた頃から、家には母と私しかいなかった。 母は明るい人だった。近所づきあいもそつなくこなし、多少のトラブルでは動じない。子どもの頃の私は、母がいれば大抵のことは ...

帰路を示すもの rcw+6,299

これは、祖母から幾度も聞かされた曽祖父の戦中の体験談である。 けれど私は、それを単なる戦争の記憶として聞いたことが一度もない。耳にするたび、話の底に沈んだ何かが、少しずつ形を変えてこちらを覗き返してく ...

家族の話をやめない人 rw+4,720

これは、俺の職場での話だ。 先輩のことを思い出すと、今でも喉の奥がひやりと冷える。尊敬できる人だ。仕事は正確で、無理をしない。派手さはないが、最後まで投げ出さない。その積み重ねで、社内外から信頼を集め ...

兄がいた場所 nc+

七年前、兄が病気で亡くなった。四歳上で、子供の頃から私の前を歩く人だった。 叱ることはあっても怒鳴ることはなく、いつも少し離れた場所から見ているような人だった。 兄が最初に実家へ現れたのは、葬儀から一 ...

光の角度 ncw+451-0121

夜の工事現場で倒れていた男は、俺の懐中電灯の光を避けるように目を細めた。 当時、俺は新米の現場監督だった。先輩と二人で、仮囲い、型枠置き場、資材ヤード、飯場の外周を順に見回っていた。作業用のライトは消 ...

封印の二打 rw+4,801

関西の港で働いていたのは、今から十三年ほど前のことだ。 まともな職に就けず、日雇いに近い形でコンテナの荷降ろしをしていた。 海を渡ってくる鉄の箱。外側は無機質な塊だが、中身は国も言葉も違う土地の気配を ...

温泉宿で聞いた一言が、三年追いかけてくる話 rw+4,749

三年前のことを、いまでもはっきり覚えている。 あれは、妻と三歳になる長男を連れて、温泉宿へ一泊した時のことだ。仕事の疲れを癒やすための、ごくありふれた家族旅行だった。 夕食前に大浴場で汗を流し、のぼせ ...

三か月ごとの石 rw+1,713

大学生の頃、駅前のファーストフード店で深夜バイトをしていた。 油と洗剤の匂いにまみれた時間のなかで、ひとりだけ妙な働き方をする先輩がいた。三か月働いて三か月休む。それを何度も繰り返す。リーダーからは露 ...

火を通せ nw+349

川崎は、生のトマトを食べない。 ピザの上に乗っているものは平気だし、ミネストローネも食う。缶詰のホールトマトを潰してパスタを作ることもある。ただ、サラダに入っている輪切りや、弁当に添えられたプチトマト ...

備品庫から戻ってきたもの nc+

真夏の昼、私は沿岸の気象観測所に応援として放り込まれた。 台風期の欠員を埋めるための短期配置で、期間は三か月の予定だった。港から船で一時間ほどの小島で、観測塔と事務棟と宿舎が一体になった、要するに逃げ ...

暗い玄関の革靴と古い金属の靴べら。文字は「靴べら」「創作怪談」。

靴べら iwa+

靴を脱いだあとの玄関で、もう一度だけ踵が鳴った。 右の靴を引き抜いたばかりで、私は椅子に腰を下ろしていた。両足はタイルから浮いていたし、階段を上がってくる人もいなかった。壁に掛けた金属の靴べらが、揺れ ...

【意味がわかると怖い話】景色に隠されたメッセージ~あなたはこの暗号を解読できるか!?#+4,743

【ゆっくり怪談】景色に隠されたメッセージ~あなたはこの暗号を解読できるか!? こんな話を聞いた。 友人と二人でバイク旅行に出る予定をたてたのだが、運が悪いことに直前に盲腸になり、入院してしまった。 「 ...

名前だけが残った家 rw+3,757

【意味がわかると怖い話】ロアニの家【解説付き♪】 子供の頃、家から歩いて十五分ほどの川沿いに、誰も住んでいない古い家があった。 今思えば、あれを廃墟と呼ぶのは少し違う。崩れ落ちるほどではなく、屋根も壁 ...

朝から昼まで rw+3,871

あいつは十年かけて、五分の道を歩いてきた。 工事屋として独立したばかりの頃、俺はとにかく人手に困っていた。現場は取れても、職人が足りない。腕のいい者ほど予定が埋まっているし、空いている者には空いている ...

片づけてしまった夜 nw+596

その晩、私は一人で酒を飲んでいた。 仕事が一段落し、特別な理由もなく、ただ缶を開けただけだった。冬の終わりで、部屋は乾いていた。換気のつもりで、寝る前に少しだけ窓を開けていたのを覚えている。 風が入っ ...

🚨火曜日の❌️ nc+

この話を最初に耳にしたのは、ある研修の懇親会だったという。 酒の勢いもあって、誰かが「県立図書館って、閉架書庫が迷路みたいだろ」と軽口を叩いたとき、隣にいた中年の女性職員が、ほんの一瞬だけ箸を止めた。 ...

出られなかった電話 nw+604

父は、生きているあいだ、霊だの呪いだのといった話を本気で軽蔑していた。 占い番組が流れていれば舌打ちをし、心霊特集が始まれば無言でチャンネルを変える。 「見えた」とか「感じた」とかいう言葉を、感情の弱 ...

洋服直し店の作業灯と、黒い糸で深く裾を縫い留めた灰色のカーテン。タイトルは折り返し。

折り返し iwa+

父から引き継いだ洋服直しの店で、カーテンの丈直しも引き受けている。 駅へ抜ける商店街の端にある、間口二間ほどの店だ。ズボンの裾上げを待つお客さんには入口の椅子へ座ってもらい、その場で仕上げる。夕方にな ...

郵便受けの女 rw+7,425

二週間前に今の部屋へ移った。 鍵も新しく、郵便受けも内側からしか触れない構造だ。深夜三時を過ぎても、何の音もしない。静かすぎるほどだ。だが静寂は安心にはならない。前の部屋で起きたことが、まだ身体のどこ ...

震える文字は誰のものか rw+1,737-226

東京・品川に、今も営業を続けている古いビジネスホテルがある。 昭和四十二年十月十六日の夜明け、その二階奥の二〇八号室に清掃係が入った。白い浴衣の帯が鴨居から垂れ、その先で女が揺れていた。室蘭から来てい ...

口元が緩む rw+5,754

中学時代の同級生から聞いた話だ。 小さな町にある、築年数だけが取り柄のようなコンクリート校舎での出来事だという。雨上がりの午後になると、教室の奥に黒板拭きの湿った匂いが残る。そんな時代の話だ。 最初は ...

二本目の指 rw+6,174

心の整理がついてきたから、こうして文字にしている。 俺には二人の大切な友達がいた。 原田と大場。 小学校からの付き合いで、社会人になってからも、三人でよく酒を飲んでいた。 去年のちょうど今頃も、いつも ...

取ってはいけない予約 rw+4,696

京都の三条にある飲み屋で聞いた話だ。 語ってくれたのは、三十代半ばの男だった。勤め先の同期会で幹事を任され、店の手配から連絡まで一手に引き受けたという。話し方は落ち着いていて、怪談を面白がって盛るよう ...

藤原くんシリーズ【全話コンプリート】#5.258

【ゆっくり怪談】藤原くんシリーズ【全話コンプリート】 藤原君はおかしい .クラスメイトの藤原君はどうもおかしい。 と気付いたのは、半年前くらいに、たまたま席替えで隣りの席になったときのことだった。 ど ...

【未来人予言まとめ】俺2062年から来た未来人なんだけど、なんか聞きたい事ある? #341,144

このページは「2062年から来た」と名乗る人物の書き込みを、話題別のQ&Aとしてまとめたものです。未来人であることや予言の実現を確認した資料ではありません。地震・災害、政治、国際情勢などの見出しから、 ...

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