「奇妙な話・不思議な話・怪異譚」 一覧

白紙の御神籤 nc+

年明け二日、八坂に初詣を誘った。 行き先は彼女の指定で、国道沿いのあの神社だった。縁結びと縁切りで知られ、昔は神隠しの話も絶えなかったという。 三が日の境内は人で溢れていた。鳥居をくぐり、杉並木の参道 ...

夏の横断歩道を渡る若い男性の後ろ姿。題名は同じ日に見た。

同じ日に見た nw+201

大学二年の夏、祖母に頼まれてお盆の支度をしに車を出した。 午後の陽射しは白く濁り、アスファルトの上で揺れていた。信号待ちで窓を少し下げると、刈り残された草の匂いと排気の臭いが混じり合い、肌に薄い膜のよ ...

名前を植える山 iwa+

フリーカメラマンの梶原から聞いた話だ。 怖いというより、後から体温が下がる類の話だ。 梶原は風景専門で、観光地よりも地図からこぼれ落ちた場所を好む。消えかけた集落、閉鎖された施設、記録に残らない空白地 ...

聞くもの iwa+

記録開始:20XX年7月12日 14:32 「……はい、こちら〇〇です。SNSで募集されていた古民家修復ボランティアの件で来ました。活動支援金が高額だったのは事実です。正直に言えば、それが決め手でした ...

揃う声 iwa+

二十年以上前、俺は「声の仕事」に釣られて、妙な短期バイトに乗った。 決められた文を読むだけ。三週間で五十万。交通費と宿泊費は先払い。数字の強さに理屈は負けた。当時の俺は、声にだけは自信があった。 面接 ...

夜の海辺の道に並ぶ石地蔵と遠ざかる車の赤い灯。題名は存在しなかった三人目。

存在しなかった三人目 rw+2,426

あの夜のことは、いまでも話すたびに喉の奥が冷える。 中学の同級生と再会した席で「怖い体験はあるか」と聞かれたとき、最初に浮かんだのがあの合コンだった。二十代半ば、研究所に籠もる毎日で女の気配とは無縁だ ...

返事をしなかった声 nc+

『ろいろい』という妖怪がいる。 現在は別の山名だが、古くは不出山と呼ばれていた霧の深い山に棲むものだ。 山中で「おーい」と呼ぶ声がする。 人がいるのかと思って声のする方へ向かうと、誰もいない。気づけば ...

冬の朝の路線バスと誰も座っていない座席。題名は僕は降ろされた。

僕は降ろされた rw+4,767

高校時代の記憶は、そこだけが焼け残った紙のように、黒く縁取られている。 あの日のことを話そうとすると、思い出せる場面と、あとで人から聞いたことが混ざる。それでも、朝のバスに乗ったところまでは覚えている ...

青白い光が差す古い畳の角部屋。題名はその部屋だけは使うな。

その部屋だけは使うな rw+1,968

僕は山奥の小さな村で育った。 夜になると、獣の声と風の音しか聞こえない場所だ。街灯はほとんどなく、家々の窓明かりだけが、闇の中に点々と浮かんでいた。 子供の頃、兄と姉にはそれぞれ部屋があったが、僕だけ ...

豪雨の無人駅で線路の向こうに見える待合室と薄い人影。題名は向かいの待合室。

向かいの待合室 rw+2,382

大学生の頃の話だ。 十年以上経った今でも、野宿をするたびに、あの夜のことが頭をよぎる。夢にも何度か出てきた。雷鳴と豪雨の中、無人駅のベンチで眠る俺と、その隅で体育座りのまま動かない男。叫び声を上げて飛 ...

誰も食べていない味噌ラーメン nc+

味噌ラーメンの匂いで目が覚めた 奴の話は、そう始まった。 ベッドに仰向けのまま天井を見つめ、次に窓へ目を向けたという。カーテンの隙間から差し込む朝の光。雀の鳴き声。時計は六時を少し回っていた。そこで、 ...

夜の居間にある古いオルガンと空の椅子、足鍵盤。題名は低音のないオルガン。

低音のないオルガン rw+2,824

家に、古いオルガンがあった。 母が私を産む前に、中古で手に入れたものだと聞かされていた。リビングの窓際、テレビ台と本棚の間に押し込まれるように置かれ、家族の誰も積極的に触ろうとはしなかった。木製の鍵盤 ...

逆さのマスコット nc+

『呪われた人形』がある。 大きさは野球ボールほど。茶色く、怪獣ともぬりかべともつかない、どこかの放送局のマスコットに似た布製の人形だ。 前の持ち主は、俺がバイトしているバーの常連だった。 この店は、客 ...

土偶にされる家 nc+

中途採用で入った会社の宣伝部で、俺は一人の先輩と組むことになった。 入社して十年ほどの人で、頭の回転が早く、誰に対しても明るく、仕事にも私生活にも隙がない。女の子にはモテ、上司からも後輩からも信頼され ...

夜の無人の食品工場と、白いラベルを吐き出す印字機。題名は一日先の印字。

一日先の印字 rw+3,416

あの夜の匂いを、いまも思い出せる。 湿った床と油の混ざった、古い揚げ物のような匂いだ。あの工場で働いていたころの、秋の終わりの話になる。 地方の小さな惣菜工場だった。レシピはすべて本部指定、作るのは日 ...

最初から無かった面 nc+

うちの地方では、神社に奉納する神楽が、ほとんど民間の娯楽のように根づいている。 祭りの時期でなくても、練習の囃子が夜風に混じって聞こえてくるし、一般の家の床の間や応接間に神楽面が飾られているのも珍しく ...

開いたエレベーターの向こうに真っ赤な街が見える。題名は十二階の外にあったもの。

十二階の外にあったもの n+423

あれは幻覚だったのか、それとも私の足が一歩だけ別の世界に踏み入ってしまったのか…… いまだに答えは出ていない。 三年前のことだ。当時の私は学生で、生活費を稼ぐために運送のアルバイトをしていた。社員の男 ...

手摺の向こうの光 nc+

県境に近い二つの町に跨って、人魂が出るという噂のダムがある。 建設の際に沈んだ村の霊だとか、夜中に身を投げた者の魂だとか、由来はいくつも語られているが、共通しているのは「夏の夜、ダムの上を白い光が飛ぶ ...

夏合宿の暗い和室と閉じた押し入れ。題名は禁じられた部屋の十分間。

禁じられた部屋の十分間 r+2,894

小学生の頃、地元の大学がやっていた少年サッカー倶楽部に入っていたことがある。 自慢できるほどの腕前ではなく、昔も今も下手の横好きといったところだ。父親と一緒に参加した、あの夏合宿のことだけは忘れられな ...

返した耳 nc+

『耳無し地蔵』と呼ばれる地蔵がある。 その名の通り、その地蔵には耳がない。顔も体も一体彫りで、後から削がれたような痕が左右に残っている。裸の石肌には、びっしりと経文が刻まれていた。 由来はこうだ。 か ...

暗い鏡の前に置かれた手と、薬指のそばでほつれる赤い糸。題名は余った糸。

余った糸 nw+408

「ちょっと、君の手を貸してくれないかな?」 停車中の車で、運転席のTさんが差し出した手は、ひどく温かかった。窓から入る夜気に比べ、掌だけが妙に熱かった。初対面の相手に触れられること自体が気持ちのいいも ...

おばけ煙突は煙を出さない nc+

『おばけ煙突』と呼ばれる煙突がある。 おばけ煙突といえば、かつて大都会のど真ん中に立っていた四本煙突のあれが有名だが、ここでいうおばけ煙突は、辺鄙な田舎町のはずれ、小高い丘の上に一本だけ残された白い煙 ...

霧の深い山林にうずくまる、人の顔を思わせる蛇。題名は山で顔を盗まれる話。

山で顔を盗まれる話 rw+2,079

彼は昔、中国の山奥まで漢方薬の買い付けに入っていたことがある。 年齢も、顔つきも、話し方も、どこにでもいる穏やかな男だった。だが、酒が進むと、ときおり山の話をする。そのときだけ声の奥に、乾いた音が混じ ...

道路側から来たもの nc+

一年前、深夜のバイトに向かう途中の話だ。 その日は、いつも使っている自転車が潰れていて、仕方なく歩いて行くことにした。距離は大したことがないし、面倒だなと思いつつも、それ以上の感情はなかった。深夜だっ ...

確認しなかったもの nc+

友人の村田から聞いた話だ。 だから、これは伝聞にすぎない。真偽はわからない。 高校一年の夏休み、久しぶりに村田と会った。進学先は別で、駅前で待ち合わせた村田は、見違えるほど派手になっていた。いわゆる高 ...

一度も化けて出なかった人 nc+

祖父はよく言っていた。この世でいちばん恐ろしいのは、祖母だと。 私が生まれる前の話だ。祖母は山へ入るのが日課だった。春先はタケノコ、秋は茸、冬前には薪の様子を見に行く。猟師の嫁というより、山に属する人 ...

開いたリュックの中にある、カエルの絵が付いた閉じたお守り

中に入っているもの rw+2,240

大学三年の夏、あの夜のことは今もはっきり思い出せる。 当時、駅前の飲食店でアルバイトをしていて、閉店作業が終わると決まって終電はなかった。寮までは自転車で十分ほど。深夜の道を走るのは疲れているはずなの ...

何も連れていない nc+

私の住む集落の近くに、犬の死ぬ道がある。 そこを通った犬は、死ぬ。そう言われている。 道自体は、どこにでもある農道だ。リンゴ畑の真ん中をまっすぐ貫き、徒歩二十分ほどで小さな商店に出られる。晴れた日は風 ...

列車の窓越しに見える、駅名のない夕暮れのホーム

西葛西と南砂町のあいだ rw+3,953

釣りだと思われても構わない。 ただ、あの時に見たものを、このまま胸の奥に溜め込んでおくのが耐えられなくなった。それだけだ。 その日も、いつもと同じ時間に東西線に乗っていた。 夕方五時前。仕事が終わり、 ...

配置の一致 nc+

品子叔母は、いつも唐突にやってきて、唐突に去っていく人だった。 連絡も予告もない。呼ばれた記憶もない。気づくと玄関に立っていて、気づくともういない。家族の誰も、そのことを不審に思っていなかったのが、今 ...

受話器が外れた電話機と「三度目を待たない」の題名

三度目を待たない rw+2,686

あれは、夏の終わりの夜だった。 湿気が肌に貼りついて、息を吸うたびに肺の奥までぬるい空気が入り込んでくる。昼間の熱を抱えたアスファルトが、足の裏からじわじわと体温を奪っていくような、逃げ場のない夜だっ ...

折れた木の物差しと、その先に続く影

目盛りの外 iwa+

十センチで折れた物差しに、見えない残りが続いている。父の道具箱に残された短い木片から始まる、志那羽岩子名義の創作怪談。

たきにかえった nc+

私の住む集落の近くに、「拾いの滝」と呼ばれる滝がある。 子供のころから、そこに行けば子供が拾えるのだと聞かされてきた。拾うと言っても、迷子を見つけるとか、捨て子を保護するといった話ではない。滝壺で何か ...

空き部屋の黒いキャリーバッグと「動く跡」の題名

動く跡 rw+3,039

二階の奥の部屋に、ひとつだけ残っていた。 不動産営業をしていた頃の話だ。売却理由は借金。珍しくもない。築十数年の二階建てで、外壁も床もまだ使える。軽く手を入れれば十分に売れる。同行した業者も同じ見立て ...

返却箱の上に浮いた本と暗い図書館

返却口の内側 iwa+

返却箱から出した一冊だけ、重さが戻らない。紙一枚を挟んで触れたものは、やがて箱の外へ。志那羽岩子名義の創作怪談。

薄暗い裁縫机に置かれた針山と待ち針

針山の奥 iwa+

母の裁縫箱に残った針山。抜いた針の穴が塞がらず、布の下のものが針を手放そうとしない。独立した創作怪談。

水深1m以上 nc+

時々、雨も降っていないのに、水たまりができていることがある。 たいていはただの水たまりだ。アスファルトのくぼみに溜まった水で、しばらくすれば蒸発して消える。だから誰も気に留めない。だが、ごく稀に、見て ...

無人のショッピングモールのエレベーターと「ショッピングモールで世界がズレた話」の題名

ショッピングモールで世界がズレた話 rw+6,345

先日、あのときの少年と再会した。 その顔を見た瞬間、忘れていたショッピングモールでの出来事を思い出した。記憶がまた薄れる前に、書き留めておこうと思った。 五年ほど前のゴールデンウィーク。私の現実は、確 ...

鎧の音が来る rw+4,551

これは私自身、いまだに現実だったと断言できない出来事だ。 夢だったと言われれば否定する材料もない。だが、あの音だけは、今も身体の奥に残っている。だから書き残す。 物心ついた頃から、私の家は落ち着く場所 ...

発見 rcw+2,970

突然だが、俺の話をさせてほしい。 小学校二年生のある日、母に激しく叱られた。理由は思い出せない。ただ耳に残っているのは「お前なんかうちの子じゃない」という言葉だ。叫び声のように投げつけられ、胸の奥が冷 ...

一度、受け入れられた nw+296

今でも、あのとき見た深海の青を思い出すと、胸の奥が静かにざわつく。 それは恐怖ではない。だが、安らぎでもない。 もっと厄介な何かだ。 数年前の夏、私は趣味のスキンダイビングで沖に出ていた。酸素ボンベは ...

高さが合う日 nc+

私の姉は、首吊り紐に付きまとわれている。 今も続いている話だ。 最初にそれを見つけたのは、姉が小学校五年生の時だった。校庭の隅にある、懸垂用の背の高い鉄棒。使われていない時間帯だったはずなのに、その一 ...

混ざる声 ncw+485

学生時代に一度だけ、口外すまいと固く決めた出来事がある。 だが年月を経ても胸の底に沈殿したまま、夜になると耳鳴りに紛れて浮かび上がってくる。黙っていれば腐るだけだと、最近になって思うようになった。だか ...

定刻通りに来ない駅 rw+2,830

京急大師線に乗っていた日のことだ。 あれが現実だったのか、それとも眠気に引きずられて見た夢だったのか、今でも自分では判断がつかない。判断できないまま、あの時間だけが記憶の底に沈まず残っている。 午前中 ...

誰も知らない常連客 rw+2,937

あの婆さんを、店の誰も知らなかったと聞いたのは、何年も後のことだ。 けれど俺は、その人の家へ行った。 菓子を食べ、話をして、また店へ戻ってきた。 平成の始め頃、俺は小学一年生だった。 親父は、近所のス ...

的場浩司のテンシンキアクリョウキョウ/聞いちゃいけない歴史的都市伝説 rw+5,789

そのノック、三回目だけ場所が違う これは、テレビ番組『やりすぎ都市伝説』で紹介されたエピソードをもとにした話だ。 奇妙な伝承の数々が語られる中でも、この話は特に不気味で、人々の記憶に焼き付いているらし ...

祖母もいた nw+431

祖父が亡くなったことを知ったのは、葬儀が終わったあとだった。 そのころ私は引っ越したばかりで、携帯料金も払えず、親にも新しい住所を知らせていなかった。実家から何度も連絡が来ていたらしいが、私には届かな ...

六地蔵は五つしかない nc+

私の住む集落には、六地蔵がある。 だが、どう見ても地蔵は五つしかない。 小学校二年生の頃の話だ。 学校の帰り道、六地蔵の前を通った。 どれも相当古く、風化していて顔の判別はつかない。苔に覆われ、ひとつ ...

夜の集会所のドアから漏れる光と点検票

消灯確認票 iwa+

週に二度、小さな集会所の閉館を任されていた。 夜の利用者が帰ったあと、机を拭き、忘れ物を確かめ、部屋の電気を消す。鍵を掛ける前に点検票の四つの欄へ印をつける。会議室、和室、調理室、廊下。それで終わる仕 ...

聞こえる部屋 rw+600

平成の始め、高校一年の夏休みを前にして、父の会社が潰れた。 床が抜けた、という比喩は正確じゃない。音もなく、気づいたら立っている場所がなかった。担任に頭を下げ、夕方から弁当工場で働き始めた。昼は授業、 ...

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