深夜二時過ぎ、玄関が壊れそうな勢いで叩かれた。
寺の息子である佐伯が、大学の夏休みに帰省していたときの話だ。
一階の自室でゲームをしていると、ドンドンドン、と間断なく音が続いた。インターホンは鳴らない。ただ、叩く音だけが、何かを急き立てるように響いていた。
二階で寝ていた両親もやがて起きてきた。佐伯が「警察を呼ぶか」と言うと、住職である父は少し考え、「明かりをつけよう」とだけ言った。
玄関の灯りが点く。だが、外の様子はすぐには見えない。叩く音は止まったままだ。
父が扉を開けると、若い男が五人、肩を寄せ合うように立っていた。全員、汗をかき、息が荒い。怯えているようにも、何かを隠しているようにも見えた。
「お願いします。今すぐ、お経をあげてください」
一人がそう言った。声は震えていた。
話を聞くと、女友達が車の中で突然暴れ出したという。心霊スポットに行った帰りだと。男五人で押さえつけているが手に負えない、悪霊に取り憑かれているに違いない、と。
「車はどこですか」
佐伯がそう尋ねると、男たちは一瞬だけ視線を交わした。
「すぐそこです」
門の外を指差す。しかし、暗闇で車体は見えない。エンジン音も、誰かの叫び声も聞こえなかった。さっきまで叩き続けていたはずの焦りは、なぜかそのときだけ静まり返っていた。
父は男たちの話を最後まで聞いたあと、静かに言った。
「申し訳ないが、うちは除霊はしない。宗派の決まりだ。できることはない」
その言い方は淡々としていた。男たちが必死に食い下がっても、同じ言葉を繰り返した。門の外を一度も見ようとはしなかった。
やがて男たちは力なく頭を下げ、闇の中へ引き返した。
佐伯は、去っていく背中を見送った。車のドアが閉まる音はしなかった。エンジンがかかる気配もない。ただ、気配だけが薄れていった。
玄関を閉めたあと、父は何も言わなかった。母も、車を見に行こうとは言わなかった。
翌朝、門の前には深いタイヤ痕が残っていた。夜のうちに雨は降っていない。だが、土は不自然に抉れていた。五人分の足跡は、門から玄関まで続いているのに、戻る足跡はなかった。
「見に行かなくてよかった」
朝食の席で、父がぽつりとそう言った。
何を、とは言わなかった。
後日、俺がその話を聞き、「車の中の女はどうなったんだ」と尋ねると、佐伯は少し黙った。
「さあな。あいつら、車を見せなかったからな」
そう言って笑ったが、そのあと、妙なことを付け加えた。
「あの夜、父さん、外を一度も見なかったんだ。門の向こうを。叩いてたのが誰かも、確かめなかった」
それだけ言って、話は終わった。
佐伯の寺には今も墓地が隣接している。夏になると、肝試しに来る若者は絶えないという。
ただ、あの晩のように、玄関を叩く音がしたことは、それきりないらしい。
門の外に、本当に何がいたのか。
誰も、確かめていない。
[出典:792: 本当にあった怖い名無し 2015/07/07(火) 20:22:17.98 ID:brkCHjrY0.net]