誰に尋ねても「そんなものは知らない」と言われる話だが、あのとき感じた恐怖は紛れもなく本物だったので、ここに書き残しておこうと思う。
『本当にあった呪いのビデオ』(以下『本呪ビデオ』)の存在は、多くの人が知っていると思う。(※ほとんどが捏造されたものらしいが……)
しかし、その第一作目が地上波で放送されたことを覚えている人はいるだろうか?
放送されたのは、俺が中学一年生の頃だったと思う。ちょうど『MMR マガジンミステリー調査班』や『怪奇クラブ』などのオカルト番組が流行していた時代で、深夜のテレビ欄で『本呪ビデオ』の放送を見つけた俺は、興味津々で予約録画をした。
翌日は休日だったため、さっそくビデオを再生。恐ろしくも面白い映像の数々に釘付けになった。特に「女の笑い声を検証するシーン」は最高にゾクゾクした。
その夜、もう一度兄貴と一緒に観ようと思い、部屋に呼んで再生。ホラー番組をあまり観ない兄貴も楽しんでいたが、番組の中盤で突然表情が曇った。
「どうした?」と尋ねると、「なんか変なのが映った気がする」と言う。
兄貴の冗談だろうと流し、俺はそのまま視聴を続けた。しかし、兄貴はどうにも気になって仕方がない様子で、番組を見終えた後、
「このビデオ、ちょっと貸してくれないか?」
と言い、そのまま自室に持ち帰った。
しばらくして、兄貴が突然俺の部屋に飛び込んできた。
「どうした?」と聞くと、彼は少し言葉を詰まらせながら、
「あれ……とんでもないものが映ってる」と告げた。
そんなことを言われたら、気になって仕方がない。俺は「ぜひ見たい!」と懇願し、兄貴は渋々ビデオを再生。
「カラオケボックスの監視カメラに映った女の霊の映像があるだろ?1回目の後、2回目と3回目の映像をスロー再生で見てみろ」と言い、
「俺はもう二度と見たくない……」
とだけ言い残し、兄貴は部屋を出て行った。
俺は早速ビデオを確認。
1回目……
ノイズが走り、髪の長い女の霊が座席に座っている。
2回目……
兄貴の言う通りスロー再生で見た。
ノイズの中、一瞬何かが映った気がする。タイミングを計りながら一時停止をすると、そこには確かに先ほどの女の霊がいた。
しかし、座席に座っていたはずの霊が、ドア付近に移動していたのだ。
さらに、髪で顔は見えなかったが、明らかにこちら(カメラ)を見つめているようだった。
ゾッとした。体が震えた。
だが、確認せずにはいられない。俺は3回目の映像を再生した。
3回目……
砂嵐が走るその一瞬。スロー再生でしっかり確認した。
すると、砂嵐の直前、画面中央に黒い影のようなものが映り込んでいた。
巻き戻し、スロー再生し、一時停止。
そこには、カメラの真正面に立つ女の霊が映っていた。
ノイズに紛れて顔の詳細は分からなかったが、その目だけは、はっきりとこちらを睨みつけていた。
全身の血の気が引き、俺は即座にビデオを停止し、テレビに切り替えた。
「なんなんだ、あれは?」
「なぜ、女の霊は移動していた?」
「番組スタッフは、これに気付かなかったのか?」
疑問が次々と浮かぶ。俺は急いで兄貴の部屋へ駆け込んだ。
兄貴は、ただ一言。
「作り物だとしても、おぞましい……」
その日は、互いに沈黙したまま眠りについた。
それからしばらくして、イタコの息子であり、ホラー好きな友人にこの話をした。彼は、
「そんな場面、映ってなかったと思うよ?」
と言う。
「そんなはずはない!」と俺は言い、一緒に家で確認することにした。
友人は、ビデオを再生しながら言った。
「正直、背筋が凍った。でも、俺の持ってるビデオ版ではこの2回目のシーンはカットされてる」
そう、『本呪ビデオ』のビデオ版では、その映像は削除されていた。
実際、後にYouTubeで確認したところ、1回目の映像でぶつ切りにされていた。
つまり、地上波でしか見られなかった“幻の映像”になってしまったのだ。
なぜ、スタッフはこの部分をカットしたのか?
どうして、地上波放送時だけフルで流れたのか?
様々な疑問が残る。
今では、実家にあったビデオも行方不明で再確認することはできないが、兄貴と友人という証人がいる以上、あの映像は確かに存在していた。
今でも『本呪ビデオ』を見るたびに、あのときの恐怖を思い出すことがある……。
ちなみに、カラオケボックスの映像はこちら。
2回目と3回目がばっさりカットされていて……
色々なところに情報を求めたのですが、誰も知らないみたいで。
正直、嘘なんじゃね?と思われてもしかたないですが……
(了)