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俺がトラックドライバーを辞めた理由【語り継がれる名作怖い話】r+9,986

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オレは以前、仕事でトラックに乗っていた。四トンのルート便ドライバーだ。

毎朝四時ごろには、その日運ぶ荷物を自分のトラックに積み込む。出発時間はルートによって異なるため、積み込みを終えた後、トラックの寝台で仮眠をとるのが日常だった。

これは二年ほど前の話になる。ちょうど節分が終わったばかりで、二月中旬のことだった。

その日もいつものように出勤し、倉庫で荷物を積んでいた。休日出勤だったので、事務所にも倉庫にも誰もいない。先輩も休日出勤の予定だったが、予定表を見ると昨夜の便で既に出発していた。

オレは八時までに出発すればよかったため、積み込みを終えた後、いつものように寝台で仮眠を取ることにした。寝台は運転席と助手席の後ろにあるスペースで、そのさらに後ろが荷台になっている。ただし、直接つながっているわけではなく、二枚の壁で仕切られていた。

日が昇ると眩しいので、顔にタオルをかけて横になった。どれくらい寝ていたのか分からないが、突然、荷台側の壁をドンドンドンッ!と叩く音が聞こえた。

驚いて飛び起き、すぐに確認した。

オレの会社のトラックはアルミキャビンで、開口部は後部のゲートと側面のハッチの二か所しかない。ゲートは運転席側から電気的にロックしていたので、もし誰かが荷台に入ったとすれば、ハッチからしかあり得ない。

しかし、確認するとハッチが開いていた。

まだ完全に目が覚めていなかったオレは、ハッチから顔を突っ込んで荷台内を見たが、誰もいなかった。荷物が荒らされた形跡もなく、泥棒ではなさそうだった。

その一件で目が覚めてしまい、コーヒーを飲もうと事務所へ向かった。すると、先輩が休憩室のソファーで寝ていた。昨夜出発し、今帰ってきたようだった。

「さっきの悪戯、先輩かよ!」

しかも寝たふりしている。寝起きの悪いオレはムカつき、狸寝入りしている先輩を無視して、コーヒーも飲まずに配送に出発した。

その日のルートは約200km、五件の取引先へ荷物を届けるコースだった。朝九時に会社を出発し、五件目に到着したのは二十時。

途中、トラックのエアブレーキが完全に故障し、走行不能になった。空荷ならなんとかなったかもしれないが、過積載気味の状態だったため危険すぎた。急遽サービス会社に連絡し、路上で応急処置をしてもらったが、その影響で三件目以降の取引先への到着が遅れ、クレームを受けた。

五件目でも小言を言われ、頭を下げながら最後の荷物を降ろしていたとき、ふと気づいた。

「荷台の壁を叩く音で目が覚めたのに、荷台の一番奥に荷物が天井近くまで積み上げられている……?」

先輩の悪戯だと思っていたが、これでは荷台に入ってもキャビン裏の壁を叩くのは不可能だ。外から叩くことも構造上ありえない。

すーっと血の気が引いた。正直、訳が分からなかった。

それでも仕事は続く。荷物をすべて降ろし、取引先のスタッフにもう一度謝罪し、帰ろうとした。そのとき、スタッフの一人がオレを呼び止めた。

「お連れの方、荷台に乗せたままでいいんですか……?」

「……いいんです!」

確認する気にはなれなかった。というより、できなかった。

ラジオを最大音量にし、何も考えないようにして会社へ戻った。休日で誰もいない事務所へ行くと、朝見たときと同じ姿勢でソファーに横たわる先輩の姿があった。

「あの時ほど先輩の存在が嬉しかったことはない……」

だが、すぐに異変に気づいた。

先輩の肌の色が、生きている人間のそれではなかった。

急いで救急車と警察を呼び、事情聴取を受けた。帰宅したのは翌日の三時を過ぎていた。

後日、先輩の死因を知ることになった。

司法解剖の結果、大量のアルコールと睡眠薬が検出され、自殺と判断された。死亡推定時刻は、オレが朝、先輩を見た三時間後。

つまり、あの時先輩はまだ生きていた。

「あの時、もし異変に気づいていたら……」

後悔で涙がこぼれた。しかし、同時に疑問が浮かんだ。

「だったら、あの壁を叩く音は何だったんだ?」

さらに詳しく聞くと、先輩がアルコールと薬を摂取したのは、オレが積み込みをしていた時間帯だったという。つまり、先輩の悪戯の可能性は低い。

それから数日後、警察から出頭要請があった。社長も同席した。

警察の話は衝撃的だった。

先輩は自殺する二日前の夜、飲みに出かけ、そのまま早朝に出勤。そして、先輩が走ったルートの途中、山間部で遺体が発見された。

遺体は損傷が激しく、検視の結果、交通事故による可能性が高いとされた。

つまり、先輩は事故を起こし、その遺体を配送途中に遺棄した。

さらに、会社のトラックを調べた結果、オレが乗っていたトラックの荷台内から血液反応が検出された。

あの壁を叩く音は、先輩の霊だったのか、それとも事故の被害者だったのか。

もう、どうでもいい。

オレは次の日、会社を辞めた。

二度とトラックには乗らない。

最後に。

車を運転している以上、誰でも加害者になる可能性がある。この話を通して伝えたかったのは、そのことだ。

どうか、車の運転には気をつけてほしい。

それが、せめてもの供養になると信じている。

[初出:127 :2002/02/22 21:18]

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