ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

中編 r+ 定番・名作怖い話

見つけた rw+5,925-0422

投稿日:

Sponsord Link

兄が帰ってきたとき、すでに何かが終わっていた。

旅行のことはほとんど聞いていない。どこへ行ったのか、何をしたのかも曖昧なままだ。ただ、帰ってきた兄は、部屋から出てこなくなった。

扉越しに声をかけても反応がない。昼になっても、夜になっても、同じだった。

ようやく返ってきたのは、低く擦れた声だった。

「袈裟代から電話があったら……俺はいないと言ってくれ」

それきり、また黙った。

夕方、家の電話が鳴った。俺が出た。

『……袈裟代ですけど、良一君はいますか』

兄の言葉が頭に残っていた。

「すみません、今ちょっと出かけていて」

少し間があった。

『……見つけた』

それだけ言って、切れた。

受話器を置いたあとも、耳に残ったままだった。

見つけた、という言い方が、どこかおかしかった。

夜、インターホンが鳴った。

母が応対に出る。モニターも見ずに、声だけで誰かを確認したようだった。

『袈裟代ですけど……』

こんな時間に来るはずがない。そう思ったが、母は迷わず玄関へ向かった。

そのとき、二階から音がした。

兄の部屋の扉が、内側から鳴った気がした。

カチャリ、と玄関が開く。

すぐあとに、母の悲鳴が重なった。

俺は立ち上がろうとして、そのまま止まった。

体が動かないというより、動く必要がないような感じがした。すでに何かの応対が終わっていて、そこに割り込めないような。

父も同じ姿勢で固まっていた。

開いたままの扉の向こうから、足音が近づいてくる。

ゆっくりと、一定の速さで。

玄関から、こちらに。

視界の端に、黒い布が見えた。

袈裟代だった。

以前見たときと、同じ服だった気がする。

ただ、歩き方が違っていた。

何かを探しているような動きなのに、迷っている様子がなかった。

壁に触れる手も、空をなぞる手も、どこにも触れていないのに、次の場所を知っているように動いた。

リビングの前を通り過ぎるとき、彼女は止まった。

こちらを向いた気がした。

目が合ったかどうかは分からない。

ただ、さっきの電話の声が、そのまま近くに来たように感じた。

「……嘘ついたら、だめじゃない」

小さく言って、また歩き出した。

階段の方へ向かう。

上る音が、ひとつずつはっきり聞こえた。

やがて、二階で何かが動いた。

すぐあとに、兄の声が上がった。

それ以上は、覚えていない。

気がつくと朝だった。

父はリビングで座ったまま、母は玄関のそばで倒れていた。

二人を起こしてから、三人で二階に上がった。

兄の部屋の前で、足が止まる。

中に、誰かがいる気がした。

ノックをして、名前を呼ぶ。

返事はなかった。

ドアを開ける。

中には、兄だけがいた。

生きてはいた。

ただ、こちらを見ていなかった。

何かを探しているように、視線だけがゆっくり動いていた。

呼びかけても、反応はない。

俺たちの方を向くこともなかった。

部屋のどこかを、ずっと見続けていた。

袈裟代は、いなかった。

あの夜のあと、一度も姿を見ていない。

ただ、電話のことを思い出す。

あのとき、彼女は何を見つけたのか。

兄だったのか。

嘘だったのか。

それとも――

あの家の中で、もう一つ、何かを。

(了)

[リライト前出典:原著作者「怖い話投稿:ホラーテラー」「海星さん」 2010/09/22 01:09]

📚 この怪談の続きは、Kindleで

伝聞怪談コンプリート合冊

サイト未公開の話を多数収録。Kindle Unlimitedなら追加料金なしで読み放題。

【合冊版】558ページ・100円のお得セットあり

伝聞怪談1 伝聞怪談2 既刊6冊

Sponsored Link

Sponsored Link

-中編, r+, 定番・名作怖い話
-

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.