近所の国道での出来事を聞いた。
片側二車線の交通量の多い道路で、押しボタン式信号の横断歩道がある。その日、そこを何人かが横断していた。
その場を通りかかった男性は、渡るつもりはなかったので、ゆっくり歩いていた。しかし、ふと視界の端に、明らかに不自然な速度で近づいてくる車があった。
追い越し車線側の車は停車していたが、走行車線側には停車している車はなく、一台の車が速度を落とすことなく走ってきていた。次の瞬間、その車はノーブレーキのまま横断歩道に突っ込んだ。
運悪く、ちょうど横断中だった女性が、その勢いのまま跳ね飛ばされた。
やっとのことで車が停止したが、すでに遅かった。エアバッグが作動したかどうかは、目撃者も混乱していて覚えていなかった。ただ、呆然とする運転手の姿が目に映った。
「うわ……」
男性は衝撃で思考が止まりつつも、すぐに携帯で通報した。しかし、倒れた女性はまったく動かず、路面には大量の血が広がっていた。すぐそばに駆け寄る勇気はなかったが、彼女の命が助からないことだけは、すぐに理解できた。
横断歩道の中央に女性が倒れているため、後続の車も動けず、道路にはすぐに長い渋滞ができた。男性は咄嗟に「事故!事故!」と並ぶ車に向かって叫んで回ったが、後から思えば冷静さを欠いた行動だったと思う。あまりにも突然の惨事に、どうすればよいかわからなかったのだ。
そのうち、運転手と助手席の同乗者が車から降りてきた。二人とも中年の女性だった。彼女たちは、倒れた女性を見下ろしながら、大きな声で叫び始めた。
「あんた!飛び出してきたら危ないでしょ!」
「なんでいきなり渡ってるの!」
信じられないことに、彼女たちは被害者を責め始めた。
目撃者は、最初、彼女たちが混乱して状況を理解できていないのかと思った。しかし、警察が到着し、事情を聞いていくうちに、その考えは甘かったと気づいた。
この二人は、会話に夢中になっていて、信号を見ていなかったのだ。そして、自分たちが信号無視をしたことにすら気づいていなかった。さらに驚いたのは、彼女たちが「話していたから」「ちゃんと前を見ていなかったから」という理由を、不注意の言い訳ではなく、自己正当化の材料にしていたことだった。
まるで、「だから仕方がなかった」とでも言いたげな態度だった。
警察官の表情が険しくなっていく。
「轢いたのは事実だから」
「言い訳しても遅い」
「あんたが人を殺したんだよ」
警官の声が次第に荒くなっていき、ついには大声で叱責した。
「あんたは人を一人殺したという自覚が持てないのかっ!」
その言葉が響いた瞬間、目撃者は改めて「死んだんだ」と実感した。
事故の惨状だけでなく、運転手の態度が、何よりも胸を締めつけた。なぜこんな無責任な人間に、大切な命が奪われなければならなかったのか。
その日以来、彼はその横断歩道を通るたびに、あの光景を思い出すようになった。
同じような話をどこかで聞いたことがある。
ある女性が運転する車が子供を二人はね、一人を数十メートル引きずった末にようやく停止した。だが、車から降りた彼女は、周囲に向かってこう叫んだのだ。
「私は悪くない!」
何もかもが理不尽で、ただ、やるせなかった。
[出典:10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/01/12(木) 15:21:21.21 ID:cr8jYNDw0]