ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ 後味の悪い話

その井戸に決して近づいてはいけない r+6,020

更新日:

Sponsord Link

昭和初期、戦争の影が色濃く落ちる頃。

とある地方の山深い村に、十一歳の少年が暮らしていた。父は遠い戦地へ赴き、母と二人きりの慎ましい日々。少年は生まれつき内気で人見知りが強く、学校にも馴染めず、友達と呼べる存在はいなかった。

彼の日課は、一人で裏山に入り遊ぶことだった。勝手知ったる山の中は、彼にとって唯一の安息の地。木々のざわめきも、獣の気配も、慣れ親しんだもの。たとえ日が傾き、辺りが薄闇に包まれようとも、怖さは感じなかった。

ただ一ヶ所を除いては。

山の林道から少し分け入った場所に、忘れ去られたような社がある。鳥居は傾き、社殿は雨風に晒され朽ちかけている。訪れる人もなく、ただ静かに時を重ねているだけだ。少年が真に恐れるのは、その社の裏手にあるものだった。

古井戸。

なぜこんな山中に井戸があるのか、少年は知らない。知っているのは、それが底知れぬ恐怖を秘めた井戸だということだけ。戦地へ行く前の父が、何度も言い聞かせたからだ。

「あの井戸だけは、絶対に近寄るな。一度落ちたら、二度と生きては戻れん。地獄に通じているという言い伝えがある。ましてや、中を覗き込むなんてもってのほかだ」

父の真剣な眼差しと共に語られた言葉は、少年の心に深く刻み込まれていた。それが子供を危険から遠ざけるための方便だと薄々気づいてはいても、社の周囲に漂う陰鬱で湿った空気は、父の言葉に妙な現実味を与えていた。本当に地獄の入り口なのかもしれない。どちらにせよ、子供が一人で近づくには、あまりにも勇気のいる場所だった。少年は父の教えを忠実に守り、その社には決して近づかなかった。

しかし、その年の夏が終わろうとする頃、すべてが変わる事件が起きた。

***

じりじりと暑い夏が始まろうとしていた頃、少年に初めて友達ができた。近所に越してきた、彼より二つ年下の男の子。学校には通っておらず、いつも家の中にいるようだった。

母のお使いでその家を訪ねた時、初めて顔を合わせた。線が細く、少し儚げな印象の男の子だった。彼は喘息という病を患っており、療養のために空気の綺麗なこの村の親戚に預けられているのだと、後で母から教えられた。

「町育ちの子だから、きっと寂しい思いをしているわ。あなたが仲良くしてあげなさいね」

母にそう言われても、内気な少年が自分から訪ねていくことはできなかった。母はそれを察してか、何かと理由をつけては少年を男の子の家へお使いに行かせた。

二度、三度と顔を合わせるうちに、ぎこちなかった二人の間にも少しずつ言葉が交わされるようになった。男の子は、少年の知らなかった世界のことを話してくれた。少年は、山の草花や虫の名前を教えた。やがて、二人はかけがえのない友達になっていた。

遊びはいつも男の子の部屋の中だった。喘息のため激しい運動はできず、せいぜい家の周りをゆっくり散歩するのがやっと。窓から見える、鬱蒼と生い茂る深い山々は、外に出られない男の子にとって、神秘と冒険に満ちた場所に映っていたのかもしれない。

「ねぇ、あの山の奥には、何があるの?」

ある日、男の子が窓の外を眺めながら尋ねた。

「あの山の中にはね…近づいちゃいけない場所があるんだ」

少年が、あの古井戸の話をしたのは、ほんの軽い気持ちからだった。少しだけ友達を驚かせてやろう、そんな悪戯心が働いたのだ。

「本当?そんな怖い井戸があるの?」

男の子は少し顔をこわばらせながらも、好奇心に目を輝かせ、少年の話に聞き入った。

「本当だよ。すごく、すごく深いんだ。石を投げ入れても、いつまでたっても底に落ちる音が聞こえないんだって」

少年は得意げに、父から聞いた話に少しだけ尾ひれをつけて語った。もちろん、石を落とすどころか、井戸に近づいたことすらなかったのだが。

「怖そう…。でも、ちょっとだけ見てみたいなあ」

男の子は興奮した様子で呟いた。

「無理だよ。病気のお前が歩いて行けるような場所じゃない。それに、本当に危ないんだ」

少年は少し兄貴風を吹かせてたしなめたが、男の子は不満そうな顔を隠さなかった。

それから数日が過ぎ、蝉の声も弱まり、夏の終わりが近づいていたある日。少年は家で一人、留守番をしていた。本当は男の子の家へ遊びに行きたかったが、母は村の集会所での寄り合いに出かけており、固く留守番を言いつけられていた。何か村にとって大事な話し合いがあるらしかった。

がらんとした家の中で、ただじっと母の帰りを待っていると、不意に玄関の戸が開く音がした。母が帰ってきたのだと思い、少年は立ち上がって玄関へ向かう。しかし、そこに立っていたのは、母ではなく、あの男の子だった。

「どうしたんだよ!?」

予想外の訪問者に、少年は驚きの声を上げた。男の子が一人で少年の家まで来るのは初めてのことだった。狭い村とはいえ、喘息持ちの彼が一人で歩いてくるのは危険が伴う。

「ちょっと、退屈しちゃって」

男の子は照れたように俯いた。

「一人で来たのか?大丈夫なのか?」

「うん。こっちに来てから、あんまり発作も起きなくなったし、大丈夫だよ」

「とにかく上がりなよ。お母さんは?」

「うちも。叔父さんたち、みんな寄り合いに出かけちゃった」

やはり、と少年は思った。男の子の叔父夫婦が、彼が一人でここまで来ることを許すはずがない。

「黙って出てきたんだろ?後で怒られるぞ」

「平気だよ。叔父さんたち、今日は遅くなるかもしれないって言ってたから。それまでに帰ればバレないよ」

「でも、やっぱり家にいた方がいい。心配だから、僕も一緒について行くよ」

少年の脳裏に、男の子の叔父の厳しい顔が浮かんだ。口数が少なく、村の子供たちからも少し怖がられている人物だ。いつだったか、遊びに行った帰り際に呼び止められ、「あいつは病弱だから、絶対に無理をさせんでくれ。ましてや、山なんかに連れて行くんじゃないぞ」と、低い声で釘を刺されたことを思い出した。

「ねぇ」男の子が、意を決したように言った。「ちょっとだけ、山の方に行ってみない?」

***

日は西に傾き、木々に覆われた社の周辺は、昼間でも薄暗いが、今はもう夜の帳が下りたかのようだった。少年は、古井戸の前に立ち尽くし、ただ小刻みに震えることしかできなかった。

ついさっきまで、隣で他愛ない話をしていた友達の姿は、もうどこにもない。

少年は必死で体の震えを抑えつけ、おそるおそる井戸の中を覗き込んだ。

底の見えない、漆黒の闇。本当に地獄まで続いているのではないかと思えるほど、深く、冷たい闇が口を開けていた。

あの男の子は、今、この闇の中にいる。

ほんの少し、社の様子を遠くから眺めて、すぐに帰るつもりだったのだ。それなのに。少年が一番恨めしく思うのは、自分の中に巣食っていた、くだらない悪戯心だった。

どうしても井戸の中を覗いてみたい、と男の子が駄々をこねた時、とっさに湧き上がってきた悪戯心。「危ないからダメだって!」そう言いながら、ふざけて男の子の背中を軽く、本当に軽く、押しただけだったのだ。

「わっ!」

小さな悲鳴と共に、男の子の体はバランスを崩し、まるで闇に吸い寄せられるかのように、井戸の中へと落ちていった。あっけないほど、一瞬の出来事だった。

そして今、何度呼びかけても、井戸の底からは何の返事もない。

***

陽が完全に落ちた頃、少年は自宅に戻った。どうやって山を下り、家までたどり着いたのか、記憶は曖昧だった。母はまだ帰っていなかった。

体の震えは止まらず、拭っても拭っても、冷たい汗が噴き出してくる。少年の心を支配していたのは、恐怖だった。友達を死なせてしまったことへの恐怖というよりは、これから自分の身に何が起こるのか、という未知への恐怖。

やがて母が帰宅し、その顔を見た瞬間、少年は何も言葉を発することができず、糸が切れたように意識を失った。

次に気がつくと、少年は自分の布団の中に寝かされていた。額には冷たい濡れ手拭いが乗せられている。

「目が覚めた?」

枕元から母の声がした。体を起こそうとしたが、母が優しくそれを制した。

「だめよ、まだ寝てなさい。すごい熱があったんだから」

言われてみれば、頭が割れるように痛く、世界がぐらぐらと揺れている気がした。

「ごめんねぇ。具合が悪かったのに気づかないで、留守番なんかさせちゃって…」

母の労わるような声を聞きながら、少年の朦朧とした意識の中に、あの忌まわしい出来事が蘇る。決して思い出したくない、あの井戸の暗闇と、男の子の最後の悲鳴。

「お母さん…僕…」

少年が何かを言いかけた、その時。玄関の戸を叩く音が響き、母は立ち上がって応対に出た。

聞こえてくるのは、母と男の人の話し声。それが村の駐在さんの声だと気づいた瞬間、少年の体は再び激しく震えだした。自分を捕まえに来たのだ、と直感的に思った。

しかし、二人の会話の内容は、少年の予想とは異なっていた。

「…いま消防団の連中で山狩りしとるんだが、なにせ年寄りばかりでのう。人手が足りん。もう少し明るうなったら、悪いが、あんたたち女衆にも手伝ってもらえんかのう」

「はい、わかりました。それで、何か手がかりは…?」

「いや、さっぱりじゃ。…とりあえず、明日の朝一番で、あの社の辺りを重点的に探してみるつもりだ。あそこには、ほれ、古井戸があるだろう。万が一、ひょっとして、ということもあるからな…」

駐在さんの最後の言葉を聞いて、少年の心臓は凍りついた。

***

翌日、少年は一人、布団の中で母の帰りを待っていた。母は早朝から山狩りの手伝いに出かけたまま、まだ戻らない。熱は少し下がったようだが、体は鉛のように重かった。

昼過ぎ、近所のおばあさんが、おかゆを作って様子を見に来てくれた。母に頼まれたのだろう。

「みんなで朝からあっちこっち探してるんだけどねぇ、さっぱり見つからないみたいだよ。可哀想に…」

おばあさんは、少年の額の手拭いを替えながら、溜息混じりに言った。

しばらくの沈黙の後、少年は意を決して尋ねた。

「…あの、社の、井戸は…?」

「ああ、あの井戸かい?駐在さんたちが朝一番で調べてみたそうだよ。でも、何もなかったって。みんな、あそこに落ちたんじゃないかって心配してたんだけどねぇ。一体どこへ行っちゃったんだろうねぇ…」

少年の頭の中は、真っ白になった。

井戸の中から何も見つからない?そんなはずはない。あの男の子は、確かに、あの井戸の底にいるはずなのだから。

おばあさんが帰り、しばらくして母が戻ってきた。疲れ切った表情だったが、少年の前では努めて平静を装っているようだった。さりげなく、もう一度井戸のことを尋ねてみたが、母の答えもおばあさんと同じだった。井戸の中からは、男の子の痕跡はおろか、争ったような跡さえ見つからなかった、と。

「あんたは心配しないで、今は早く良くなることだけ考えて、ゆっくり寝てなさい」

母はそう言うと、少年の頭を優しく撫で、再び捜索に戻っていった。

また一人になり、少年は混乱した頭で必死に考えた。なぜだ?なぜ男の子は見つからない?おばあさんも、母も、駐在さんも、みんなで自分に嘘をついているのだろうか?それとも、本当に…。

考えれば考えるほど、熱に浮かされた頭は重くなり、現実と悪夢の境が曖昧になっていく。押し潰されそうな不安と罪悪感、そして高熱にうなされ、少年はその夜もほとんど眠ることができなかった。

***

山々が赤や黄色に染まり始める頃、男の子の捜索は正式に打ち切られた。

「神隠しじゃ」「山の神様の祟りじゃ」

村の古老たちの中には、そんな噂を囁く者もいたが、本気で取り合う者は少なかった。ただ、やり場のない不安と悲しみが、村全体を重く覆っていた。

遺体が見つからないまま、男の子のささやかな葬儀が執り行われたのは、冷たい雨が降る十一月のある日のことだった。少年は、その葬儀には行かなかった。

「ちゃんと行って、手を合わせておあげなさい」

母は静かにそう諭したが、少年は頑なに首を横に振った。男の子の叔父夫婦や、町から来たという憔悴しきった両親の顔を見る勇気が、どうしても湧いてこなかったのだ。母は、少しだけ悲しそうな、それでいて何か諦めたような目で少年を見つめると、それ以上は何も言わず、一人で葬儀へと出かけていった。

雨の中、小さくなっていく母の後ろ姿を、少年は玄関の戸口からただ黙って見送った。

村の大人たちの目に、少年はどう映っていたのだろうか。おそらくは、たった一人の友達を突然失い、ショックで塞ぎ込んでいる可哀想な子供。そう見えていたに違いない。だから、葬儀に少年の姿がなくとも、誰も特に不審には思わなかった。

葬儀が終わり、男の子の話題が大人たちの口に上ることも次第に少なくなっていった。それでも、少年の心の中では、疑問が渦巻き続けていた。

なぜ、男の子は見つからなかったのか?

時折、あれはすべて自分の見た悪夢だったのではないか、という気さえしてくる。だが、違う。ふとした瞬間に蘇る、あの日の出来事。男の子の背中を押した時の、柔らかく、温かい感触が、今も生々しくこの手に残っているのだから。

本当に、あの井戸は地獄に通じていたのかもしれない。井戸に落ちた男の子は、そのまま真っ直ぐに地獄へ堕ちていき、今も暗闇の底で泣き叫んでいるのではないだろうか。馬鹿げた空想だとわかっていても、そう考えずにはいられなかった。

年が明け、季節が巡っても、少年が再び山で遊ぶことは、もうなかった。

***

深い闇の中を、一人の青年が歩いている。月明かりだけを頼りに、慣れたはずの山道を、息を切らしながら登っていく。肩には、ずしりと重い、大きな荷物。もし、村の人間が今の彼の姿を見れば、すぐに誰だかわかっただろう。かつてこの村に住んでいた、内気で友達のいなかった、あの少年だと。

もう何年も足を踏み入れていなかった山道は、記憶の中よりも険しく感じられた。それでも青年は、背負った荷物を落とさぬよう、一歩一歩、慎重に歩みを進める。

馬鹿げている。自分でもそう思う。けれど、今の彼には、もうこれしか縋るものがなかったのだ。

あの日、あの忌まわしい夏の日。友達を井戸に突き落としてしまった日から、彼の人生の歯車は静かに狂い始めていた。

事件から一年ほどが過ぎた夏の昼下がり、父の戦死の報せが届いた。母は、ただ声を殺して泣いていた。その年の秋、少年は母と二人、逃げるように村を出た。

慣れない土地で、母は必死に働いた。親戚の家に肩身の狭い思いをしながら身を寄せ、女手一つで彼を育ててくれた。泣き言一つ言わず、ただ息子の成長だけを願って。その母の期待に応えようと、青年も必死に勉強し、町の大きな銀行に就職することができた。それが、母の唯一の自慢であり、生きる支えだった。

だというのに。

華やかな都会の空気に当てられ、いつしか青年は賭け事にのめり込んだ。最初はほんの遊びのつもりだった。だが、負けが込むうちに借金が膨らみ、ついには、勤め先の銀行の金にまで手をつけてしまった。その事実を知った時の母の顔を、青年は生涯忘れることができないだろう。驚き、悲しみ、そして深い絶望。

「大丈夫、お金のことはお母さんが何とかするから。だから、お願いだから、正直に話して、謝りましょう…?」

涙ながらに懇願する母を、その時、青年は初めて心の底から邪魔な存在だと感じた。何度突き放しても、諦めずに彼の過ちを正そうとする母。その細い首に、青年はほとんど無意識のうちに、両手をかけていた。

気づいた時には、母はもう動かなくなっていた。

***

そして今、青年は再び、あの古井戸の前に立っていた。二度と訪れることはないと思っていた、忌まわしい記憶の場所に。

全身から噴き出す汗は、険しい山道を登ってきたせいだけではない。闇に目が慣れてくると、うっすらと浮かび上がる古井戸の黒い口が、子供の頃に父が語った通り、本物の地獄への入り口のように見えた。

「そうだ…ここに落とせばいいんだ…ここなら、誰にも見つからない…」

追い詰められた青年の心には、かつての馬鹿げた空想が、唯一の希望として現実味を帯びていた。あの時、男の子が消えたように、母もきっと消えてくれるはずだ、と。

地面に横たえていた母の体を、ゆっくりと持ち上げる。毛布にくるまれた、驚くほど軽くなった体。井戸の暗闇に向かって両手を離そうとした瞬間、さすがに強い躊躇いが生まれた。

だが、逡巡は一瞬だった。次の瞬間には、母の体は闇の中へと吸い込まれ、井戸の底へと消えていった。どさっ、という鈍い音が闇に響くまで、一秒とかからなかったかもしれない。

青年は、はっと我に返り、慌てて井戸の中を覗き込んだ。誰かに見られることを恐れ、使うのをためらっていた懐中電灯をポケットから取り出し、震える手でスイッチを入れる。

小さな光の円が、井戸の底を照らし出す。そこに浮かび上がったのは、紛れもなく、毛布にくるまれた母の姿だった。毛布がめくれ、覗いた顔は、まるで何かを訴えかけるかのように、じっとこちらを見上げている。

深い、深いと思っていた井戸。地獄にまで通じていると信じていた井戸の深さは、せいぜい五メートルほどしかなかった。地獄どころか、すぐそこに、母はいる。

あの夏の日、男の子を突き落としてしまった時には、あんなにも底知れぬ闇に感じられたのに。

「大丈夫だ…死体は消える…あの時みたいに、きっと消えるんだ…」

青年は自分に言い聞かせるように呟いた。あの時だって、男の子は忽然と消えたではないか。だから、母も…。

しかし、その必死の期待とは裏腹に、懐中電灯の光が照らし出す先に、母の姿は変わらずそこにあった。時間が経っても、消える気配など微塵もない。

「お願いだ…!消えてくれ…!頼むから、消えてくれよぉっ…!」

青年は、まるで幼い子供のようにその場にうずくまり、嗚咽を漏らしながら、ただ泣きじゃくることしかできなかった。

あの夏の暑い日、息子が過ちから友達を井戸に突き落としてしまう瞬間を、偶然にも目撃してしまった母。我が子を殺人者にしたくない一心で、その夜、人知れず井戸に下り、男の子の小さな亡骸を密かに引き上げ、誰にも気づかれぬよう、遠い山の奥深くに埋めて、すべてを隠し通してくれた母。

たった一人で、その重い秘密と罪悪感を背負い続けてきた、優しい母。

その母は、もう、この世のどこにもいないというのに。

(了)

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, 後味の悪い話
-

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2025 All Rights Reserved.