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短編 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

因果応報【ゆっくり朗読】8300

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知り合いに中途半端な歳で上京してきたフリーターの坂本というのがいるんだが

数人で家飲みしていた時に、上京の理由を坂本に結構しつこく訊いた奴がいた。

坂本は最初嫌がっていたが、酔っていたからか「絶対引くなよ」と前置きして話し出した。

坂本は普通に地元の大学を出て、地元の企業に就職した。

ずっと実家暮らしだったそうだ。

ある夕方、たまたま早上がりをした坂本が家路を歩いていたら、向かいからやってくる女の人影が突然坂本に駆け寄ってきた。

人影……

その女は

「坂本さん、久しぶり!元気だった?」

とさも親しげに言うが、坂本にはその女に憶えがない。

だからといって「あんた誰?」と訊く訳にもいかず、

「あ、久しぶりー、元気だったよ、そっちは?」

と無難な答えを返した。

すると女はニコニコしながら鞄から紺色の小さな手帳を取り出して、表紙を坂本に見せつけた。

金文字で書いてあったのは『障害者手帳』の5文字。

だが、女に何か障害があるようには見えない。

坂本が「え、どうしたのそれ……」と言い終わると同時に、女はその手帳を開いて見せた。

そこにあったのは女の顔写真、障害等級2級の記載、そして女の名前と『精神障害者』の文字。

その名前を見て坂本はようやく気づいた。

女は坂本が中学の三年間、いじめ続けた同級生の道代だった。

絶句した坂本と向かい合った道代はニコニコしながら、

「坂本さん、私の事覚えてなかったでしょう。寂しいなぁ、私はこの十年、一日だって坂本さんのこと忘れたことなかったのに……」

と言った。

そして、

「でも、良いでしょう。今はこの手帳が私を守ってくれる。人一人殺したとしても、手帳持ちだって判ったらきっと報道規制がかかると思うの。事情が分かれば情状酌量の余地もあるだろうし……
でも、今日は無理ね。刃物も紐も持ち合わせがないの。坂本さん、私よりずっと大きいから、素手じゃ返り討ちにされて保護室行きに決まっているわ。またの機会にね」

と言って、道代は手をひらひら振りながら去って行った。

去って行く道代の背中を見ながら、坂本は腰を抜かしていた。

坂本は言った。

「顔は笑っていたけど、目は怖いくらい真剣だった。あの時道代がナイフでも持ち合わせていたら、本当に殺されていた」

その邂逅の後、坂本はいつ道代に出くわすかと真剣に怯えるようになった。

道代が住んでいるのは同じ中学校の校区内。

思い立てば包丁を持って坂本の自宅を訪問することだって出来る。

坂本はすっかりノイローゼ状態になってしまい、とにかく此処から離れなければと思って、

「誰が尋ねても絶対に自分の居場所は明かさないでくれ」

という言葉を置いて、僅かな荷物とともに夜逃げ同然に上京してきたのだという。

精神障害ニ級の人間が一体どれだけヤバいのかは知らないが、道代は間違いなく自身の人生を坂本に台無しにされたと思って、今も坂本への報復の術を考えているのだろうし、坂本は道代への行為の結果が自分に返ってくることを恐れて、平穏な生活という名のレールから脱落してしまった。

因果応報というか何というか……

あまり聞きたくない上に忘れがたい話だった。

[出典:http://toro.2ch.sc/test/read.cgi/occult/1442606421/]

(了)

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