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短編 r+ ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

俺が車中泊をやめた理由 r+30,114

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車中泊って、他人にはなかなか理解されない趣味だと思う。

週末や連休前、特に予定もない夜なんか、ただふらっと車を走らせて、静かな場所を見つけては車の中で寝る。泊まる場所を決めてない気ままな移動、それ自体が目的というか……逃避というか。
でも、近頃は落ち着ける場所を探すのもひと苦労で、警察に職質されたり、酔った大学生にドアをノックされたり。車の窓ガラス越しの人間って、無性に無防備に感じるらしく、無遠慮な視線やら声やらを受けることがある。

あれは去年の八月、盆が過ぎて夜がやや涼しくなり始めた頃だった。
その日は特にどこへ行くと決めておらず、街の灯が少なくなるに連れて、ハンドルを自然と山の方へと切っていた。
思い出したのは、ある山奥にある古びた展望台の駐車場。今はもう建物の中には入れず、半ば廃墟のようになっている。昼間に訪れる者もおらず、夜になると、長距離トラックの運転手たちが車を停めて仮眠を取っている姿をよく見かけた。

その夜も、駐車場にはトラックが二台。ひとつは奥の端に、もうひとつは街灯のやや外れた場所に停まっていた。俺はその中間、ちょうど真ん中あたりの街灯の真下に車を停めた。
後部座席を倒し、毛布を敷いて、スマホで動画を見ながら身体を横たえる。エアコンを切ると、虫の音と、木々のざわめきが耳にしみ込んできた。
やがて目が重くなり、スマホの画面が指の上で滑り落ち、静かに眠りの底へと沈んでいった。

どのくらい経っただろう。突然、意識が浮上した。
喉が渇いていた。前の座席に置いたバッグからペットボトルを取ろうと身体を起こしたとき、車の後ろの方で「コツン」と小さな音がした。
まるで小石がボディに当たったような乾いた音。反射的に振り返ったが、窓越しの闇に何も見えず、ただ気のせいかとジュースを口に運び、再び眠りについた。

朝方、四時半ごろ。尿意で目が覚めた。外はまだ薄暗く、空気には夜の名残りが残っていた。
展望台の建物にはトイレもなく、仕方なくその裏手にまわり、草の影で用を足す。
そのとき、不意に「バンッ」と大きな音が響いた。反射的に振り返ると、どうやらトラックの一台のドアが閉まったようだった。
俺と同じように目が覚めたのだろうと、軽く会釈しつつ車へ戻ろうとしたときだった。

ひとりの男が声をかけてきた。
眼鏡をかけた、俺と同じくらいの年齢の青年。
「昨日、寝れなかったんじゃね?怖かったろ?」
なにを言ってるんだと思い、「え、何が?」と聞き返すと、彼の顔が驚きに変わった。
「気付いてねえの?マジかよ」

彼の話はこうだった。

夜、トラックの中でDVDを見ていたら、俺の車が街灯の下に入ってきた。
この山奥で普通車は珍しい。カップルかと思い、何となく気にしていたらしい。
DVDが終わり、後部座席で寝ようとしたとき、ふと俺の車を見ると、フロントのボンネットに女が立っていた。
最初は彼女かと思ったが、ボンネットに両手をつき、じっと車を押さえつけるように立っていたという。
薄暗い中、彼女の顔は見えなかったが、シルエットが異様だった。痩せていて、髪が長く、スカートをはいていたそうだ。
気持ち悪くなり、視線を外したが、再び目を向けると今度は運転席の窓のすぐ横に立っていた。

ガラスにぴったり手をつき、中を覗き込むような体勢だったという。
「ありゃヤバい」と直感し、息を殺して様子を見ていると、女が突然、彼の方に「グイッ」と顔を向けてきたらしい。
その瞬間、彼は身をかがめ、カーテンを閉め、震えながら眠ったという。

俺は笑って済ませようとしたが、彼の顔色があまりに真剣で、ふざけている様子もなかった。
彼は「車、見た方がいいって。絶対なんか痕残ってる」と言い出し、半信半疑で見に行った。

ボンネットの先端が、確かに小さく凹んでいた。
触ると微妙にザラついていて、何か重いものが載ったような感じだった。
さらに後ろを見ていた彼が、「こっちにもある」と言う。
エンブレムのすぐ上、爪か小石のような傷がいくつか走っていた。

そのとき、もう一台のトラックから壮年の男が降りてきて、静かに歩み寄ってきた。
そして、まるで待ってましたというように言った。

「……女の話だろ?」

俺たちが驚いて顔を見合わせると、彼は淡々と話し出した。
夜中、ウトウトしていると、俺の車の窓の横に誰かが立っていた。
じっと車の中を覗き込んでいて、不審に思ったが、まあ誰かの同乗者かと気にしなかった。
すると女は突然、横を向き、こちらに背を向けて歩き始めた。
そして、自分のトラックの前方に立ち、ジーッとフロントガラスを見上げた。

「いやぃゃいやぃゃいやぃゃ」

そうつぶやいた彼の声に、眼鏡の青年の顔がみるみる青ざめていった。
「え……その後どうなったんすか?」と訊くと、
「気持ち悪くなって寝た」と、あっさり言った。

俺はこの地元に何年も住んでいるが、そんな話は一度も聞いたことがなかった。
男たちも、何度もこの場所を使っているが、見たのは初めてだと言う。

「どんな女だったんですか?」と訊くと、二人とも同じことを言った。
「ガリガリで髪が長くて……スカート履いてた」
そして、口をそろえて「お前の知り合いじゃねえの?」と聞いてきた。

俺はもちろん、まったく心当たりがなかった。
ただ、その夜を境に、車中泊をやめた。
怖いからではない。車の傷が、予想以上に高くついたからだ。

金属に残ったのは、重さではなく、感触だったのかもしれない。

[出典:50 :本当にあった怖い名無し:2015/09/27(日) 02:10:49.02 ID:Nt/huOqn0.net]

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