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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

ふすまの前 nw+613

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学生時代、週末になると決まって友人Aの家に集まり、夜通しゲームや無駄話をしていた。

Aの家は二階建ての一軒家で、二階にもトイレがある。集まるのは決まって、わたしとAと、もう一人の友人Bの三人だった。深夜二時を過ぎる頃まで起きているのが常で、眠くなった者から雑魚寝する、そんなだらしない週末だった。

最初に異変に気づいたのは、いつだったか覚えていない。ただ、毎週のように一階から音がした。ドアが閉まる音、床が軋む音。バタン、ミシミシと、誰かが家の中を歩いている気配だった。最初は、Aの家族がトイレに起きてきたのだろうと思っていた。

ある晩、何気なくAに聞いた。
「ご両親、結構遅くまで起きてるんだね」
Aは少し間を置いてから、首を横に振った。
「もう寝てるよ。とっくに」

その言い方が妙に真剣で、それ以上何も聞けなかった。Aはこういう話題を嫌う人間で、冗談で流すことをしない。

さらにおかしなことに、Bにはその音が聞こえていなかった。わたしとAは確かに聞いているのに、Bはまったく気づかず、ポテトチップスを食べながら画面を見ている。からかっているのだと思ったが、Bは本気で不機嫌になった。どうやら本当に聞こえていないらしかった。

決定的だったのは、ある夜だった。

いつものように一階から音が始まった。今度は足音だった。ミシ……ミシ……と、階段を上がってくる音。ひとつ、またひとつ。三人とも声を失った。Bも黙り込み、画面から目を離した。

足音は二階に達し、廊下を進み、そして、わたしたちがいる部屋の前で止まった。

ふすま一枚向こうに、何かがいる。そうとしか思えなかった。視線ではない。ただ、存在がそこにあるという圧が、部屋の空気に染み込んでくる。誰も動けなかった。

しばらくして、足音は消えた。気配も、嘘のように消えた。結局その夜、誰もふすまを開けなかった。

社会人になってから、久しぶりにAと会ったとき、あの音の話を思い出して聞いた。Aは少し考えてから言った。
「あの部屋にあったピエロの人形、捨てたら止んだよ」

カーテンレールに吊るしてあったマリオネットだったらしい。フリーマーケットで買ったものだという。それ以上、Aは何も話さなかった。

今でも時々考える。
あの夜、ふすまを開けていたら、そこに何が立っていたのか。
考えないようにしても、答えは浮かばないままだ。

[出典:758 :おさかなくわえた名無しさん:2007/01/28(日) 22:39:12 ID:doQc27N9]

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