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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

砂嵐の予告 nc+

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中学生の頃、眠りに落ちる直前に、必ず見る映像があった。

夢と呼ぶには浅すぎて、現実と呼ぶには輪郭が曖昧な時間帯。目は閉じているのに意識はまだ起きていて、体だけが先に沈んでいく。思考がほどけ、言葉が形を失う直前。その瞬間にだけ、唐突に現れる。

テレビの砂嵐だった。

白と黒の粒が画面いっぱいにざわめき、音のないノイズが視界を満たす。当時すでにブラウン管は減っていたが、幼い頃に刷り込まれた映像だったから、迷うことはなかった。あれは砂嵐だと、すぐに分かった。

そして毎回、その中央に、同じものが浮かび上がる。

女の子の顔だった。

日本人形にも、こけしにも似た、感情の読み取れない顔立ち。切れ長の目は伏し目がちで、口元はわずかに形を作っているだけ。笑っているのかどうか、判断できない。喜びも悲しみも拒絶も、どれも当てはまらない表情。

最初に見たときは、心臓が跳ね上がった。反射的に目を開け、布団の中で息を整えた。天井はいつも通りで、部屋に異変はない。気のせいだと思って、再び目を閉じる。

すると、また砂嵐が戻ってくる。

女の子の顔も、同じ位置にあった。

それを何度か繰り返すうちに、恐怖は薄れていった。驚きよりも、既視感のほうが勝つようになった。「ああ、またか」そう思い、そのまま眠りに落ちる。それがいつの間にか、習慣になった。

出現の頻度は妙に正確だった。毎日でもなく、週に一度でもない。月に一度、必ず現れる。前触れもなく、逃げ場もなく、ただそのタイミングでだけ、同じ映像が差し込まれる。

そして翌日、決まって月のものが来た。

当時の私は生理痛も軽く、周期も安定していなかった。いつ来るか分からないものだと思っていたし、それが普通だとも思っていた。だが、あの顔を見た翌日だけは、例外なく確実だった。

次第に、私はあの映像を「予告」として受け取るようになった。

怖さよりも、実用性が勝った。ナプキンを用意できる。体育の授業や外出の予定も、心構えができる。「来るな」と思えば、準備ができる。それは、不思議なほど役に立った。

砂嵐の中の女の子は、何も語らない。視線が合うこともあれば、合わないこともある。だが一度も動いたことはない。表情が変わったこともない。ただ、そこにある。

中学生の私は、それ以上深く考えなかった。霊だとか、前兆だとか、そういう言葉を当てはめる発想もなかった。体のどこかが、そういう映像を見せているのだろう。それくらいに思っていた。

高校生になり、大学生になり、大人になった。いつの間にか、その映像は現れなくなった。最初は見逃したのかと思ったが、一ヶ月、二ヶ月と続き、やがて理解した。もう来ないのだと。

少しだけ、寂しかった。

怖いはずのものだったのに、長く付き合った癖のような感覚が、消えてしまった気がした。予告のない生活に戻っただけなのに、何かを失ったような気分だった。

それから何年も経ち、私は結婚し、娘を産んだ。

夜、娘と同じ布団で眠る生活が始まった。小さな体の温もりと、規則正しい寝息。眠りに落ちる直前、かつて自分がいた境目に、今は娘がいる。

ある晩、ふと、思い出した。

砂嵐の中の、あの顔を。

思い出そうとした瞬間、胸の奥がざわついた。輪郭が異様なほど鮮明に浮かび、忘れていたはずの細部まで、正確に再生される。

そして、気づいてしまった。

隣で眠る娘の顔に、よく似ている。

目の形。口元。無防備に力の抜けた、眠っているときの表情。似ているという言葉では足りない。同じ配置。同じ余白。同じ「まだ何者にもなっていない顔」。

ぞっとした。

理屈ではなかった。血の気が引き、過去と現在が一瞬で重なった。時間がねじれ、境目が溶ける感覚。

考えてみれば、妙だった。

なぜ、あの顔は女の子だったのか。なぜ、月に一度だったのか。なぜ、成長とともに消えたのか。なぜ、役目を終えたはずのものが、今になって記憶として浮上したのか。

そして、なぜ――あれは、こちらを見ていたのか。

私は、娘の寝顔から目を逸らした。見続けてはいけない気がした。もし、このまま見ていたら、砂嵐が戻ってきてしまう。そんな確信があった。

娘は何も知らない。ただ静かに眠っている。私の過去も、あの映像も、何ひとつ知らない。

だが、私の中には分かってしまったことがある。

あの顔は、来るものを告げるためだけに現れたのではない。

あれは、引き継がれるものだ。

時間を越えて。体を越えて。血を越えて。

予告が必要な期間だけ、現れ。必要がなくなれば、沈む。そして、次の境目に差し出される。

もし、いつか娘が、眠りに落ちる直前に、テレビの砂嵐を見るようになったら。もし、その中に、見覚えのある顔が浮かんだら。

私は、そのとき何も言えないだろう。

便利だったとも、慣れていたとも、説明できない。ただ、そっと目を閉じて、「ああ、またか」と思うだけだ。

それが、この家系で、受け取る側に許された、唯一の態度なのだから。

(了)

[出典:125 :名無しさん@おーぷん:2014/08/21(木)23:42:26 ID:X1M5X0CvI]

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