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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

ズレた記憶 r+2,438

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この話は、都内でフリーランスの仕事をしている飯田さん(仮名)から、酒の席でぽつりと打ち明けられたものだ。

当人は「ただの記憶違いかもしれないよ」と何度も前置きをしていたが、その話を聞いていた誰もが、酒の酔いが一気に醒めていくのを感じた。理由は単純だ。話の中に、「日常」のかたちをした、奇妙な歪みが潜んでいたからだ。

***

最初に違和感を覚えたのは、街の風景だったという。

昼下がりの陽がぼんやり落ちかけた時間。いつも通る駅前の道沿いを歩いていた時のことだった。角を曲がると、そこにあるはずの居酒屋が消えていた。そこには工事中の仮囲いがあり、中から建築音が響いていた。

「あれ?建て替えですか?」

近くの喫煙所にいたサラリーマン風の男に何気なく聞くと、「何言ってんの?」と鼻で笑われた。

「あそこ、ずっと空き地だったじゃん。やっと居酒屋が入るってんで、今みんな期待してるとこだよ」

そんなはずはない、と心の中で呟いた。確かに、大学の頃のサークル仲間とそこで何度も飲んだ。つい数年前にも、あの店で一人飲みをして、酔いすぎて転倒しかけた記憶がある。カウンターの端には、いつもカエルの置物があって、壁には昭和のアイドルのポスターがずらりと貼ってあったはずだ。

でも、それを証明できるものは何もない。写真もレシートも、SNSの投稿もなかった。誰かと共有した記憶があるはずなのに、相手に話しても、全員が「そんな店知らない」と言った。

それが最初だった。

***

それ以降、日常の至るところで「ズレ」を感じるようになった。ある日、幼馴染の優作と再会した時もそうだった。

「お前、由香って覚えてるか?」

飯田がそう尋ねた瞬間、優作の表情が固まった。

「誰それ?」

「は?中学の時、隣のクラスにいた子だよ。陸上部の。お前、ずっと好きだったじゃん」

「そんな子、いたっけ……?」

由香は確かに存在した。飯田の中では、彼女の汗の匂いさえ思い出せるのに。優作の目はまるで、見知らぬ人を見るようだった。

それだけではない。中学校の卒業アルバムを見ても、由香の顔がどこにも載っていなかった。その代わりに、知らない女子が笑っていた。名前は「南野理央」。記憶のどこにもない名前だった。

「そんなの、ありえないだろ」

思わずアルバムを何度もめくった。だが、由香の痕跡はどこにもなかった。

***

原因かもしれない、と飯田が語った出来事がある。

二十歳の頃のこと。いつものように商店街を歩いていると、向こう側から「何か」が来たという。

それが何だったのか、今となってはまったく思い出せない。形も、色も、音さえも不明。ただ、目の前を通り過ぎた瞬間、強烈な立ち眩みが襲った。世界がぐるぐると回り、時間が一瞬にして引き延ばされたような感覚だけが残っていた。

その後からだった。記憶が他人と食い違い始めたのは。

気のせいだと思い込もうとしたが、次第に無理が出てきた。家族に、七歳の頃に母親が交通事故で重傷を負った記憶を話すと、両親ともに「そんなこと一度もなかった」と否定した。

「お前、なんかのドラマと混同してんじゃないの?」

そう父親が笑った時、飯田は本気で自分が狂ったのだと思った。

***

追い打ちをかけたのは、友人に連れられて行った気功師の一件だった。

肩凝りの改善と聞いて、半信半疑で訪れた治療院。そこでは、いわゆる“気の力”で人を吹っ飛ばすパフォーマンスが行われていた。

順番が回ってきた時、飯田は内心で期待していた。自分も吹き飛ばされるのだろうと。

ところが。

気功師が掌を向けて何度か試みた末、突如として後方に吹き飛ばされたのは、施術する側のその人だった。

一瞬、空気が凍った。

気功師は無理に笑顔を作り、「いやー、たまにこういうのありますからね」と言ったが、顔は明らかに動揺していた。

帰り際、飯田にぽつりと言った。

「……あなたの気は、普通じゃないです」

その言葉に、飯田は思わず詰め寄った。

「普通じゃないって、どういう意味ですか?」

答えを求めたが、気功師はまるで逃げるように距離を取った。友人もそれきり、飯田に連絡を取らなくなった。

***

「俺ね、もう人に会うのが怖いんだよ」

飯田はそう言って、酒をぐいとあおった。

中学の同窓会に出た時も、知っているはずの人がいなかったり、見知らぬ人から「小学校から仲良かったじゃん」と話しかけられたりした。記憶の齟齬はもはや偶然ではなく、構造の破綻のように感じられたという。

「この世界が本当に俺がいた世界なのか、最近、わからなくなる」

冗談ではない。笑い話にもならない。もし異世界や時空のズレが本当にあるのなら、自分はもう戻れないし、戻ったところで再び他人になるだけだ。

「……もしかしたら、あの日、商店街ですれ違った“何か”に、すり替えられたのかもな」

そう言った時の彼の声は、とても静かで、笑っているようにも聞こえた。

けれど、その目だけが、まるでこの世のものではない何かを見ているような、遠い色をしていた。

[出典:972 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2017/09/07(木) 13:23:40.14 ID:0cppgHn+0.net]

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