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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

水道カメラが拾った《目》nw+

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もう五年以上前の話だ。

あの現場の記録番号はいまでも覚えている。だが番号より先に浮かぶのは、あの“目”だ。

当時、俺は下水道の調査を請け負う設備保全会社にいた。暗く、臭く、酸素濃度を気にしながら作業するのが日常だった。Φ二〇〇、直径二〇センチの管内をカメラ付きの自走機で点検する。人は入れない。入る必要もない。それが前提の仕事だった。

郊外の住宅地。築三十年超のエリアで、老朽化点検の依頼が入った。マンホールを開け、ケーブルを送り込み、ラジコンを走らせる。タブレットには、ライトに照らされた管内の映像が映る。ぬめり、水流、沈殿物。ひび割れや継ぎ目のズレがないかを確認する、いつもの作業だ。

二十メートルほど進んだところで、映像の上半分に色が差した。

最初は反射だと思った。だが近づくにつれ、輪郭が浮き上がる。丸い目。赤いリボン。ピンクの縁取り。

キティちゃんのシールだった。

管の天井近くに、三枚。等間隔で縦に並んでいる。汚泥にまみれていない。水流に剥がされた様子もない。貼られたばかりのように、はっきりしていた。

「……見えてるよな」

隣で佐々木が息を止めたまま言った。

Φ二〇〇に人は入れない。小学生でも無理だ。水位もある。内部に足場もない。布設は昭和末期。記録上、人が入った形跡はない。

流れてきた偶然? 三枚が、あの位置に、あの向きで?

ラジコンを停止させ、角度を変えた。拡大した。間違いない。内壁に、内側から貼られている。水の流れに逆らう向きで。

その場では、作業を続けた。シールを過ぎた先には異常なし。指定区間を終え、マンホールを閉じた。

だが帰社後も、あの映像が頭から離れなかった。

布設図面、改修履歴、過去の調査記録。どこにも人の侵入はない。そもそも侵入できない設計だ。俺は上司に映像を見せた。

数分、無言で再生を見続けたあと、上司は言った。

「役所には“調査不能”で上げろ」

「でも、原因は――」

「深入りするな」

怒鳴りもしない。ただ、命令だった。普段と違う、説明を拒む声色だった。

報告書には「途中より障害物により進行不可、映像不明瞭」と記した。シールのことは書かなかった。社内でも、その現場の話題は出なくなった。

問題は、その日の最後だ。

帰る前、もう一度だけ映像を確認した。停止させたフレームを拡大していたとき、左端に黒い影があるのに気づいた。

シールの裏側。ほんの隙間のような暗がりに、丸い黒点がある。

最初はノイズかと思った。だが再生を数コマ戻すと、それはわずかに位置を変えていた。

目だった。

シールの絵柄の目ではない。もっと小さく、光を反射しない黒。こちらを向いている。ラジコンのライトを受けて、細く絞られたように見えた。

その瞬間、ケーブル越しに、向こうからもこちらを見ている感覚が走った。管の奥ではなく、画面の向こう側から。

以後、俺は現場に出られなくなった。マンホールの蓋を開けるたび、暗闇のどこかに貼られている気がした。あの三枚が。あの裏側が。

内勤に回してほしいと申し出たとき、上司は理由を聞かなかった。ただうなずいた。

映像はサーバーに残っている。削除もされていない。だが誰も開かない。開けば、あれがまたこちらを認識する気がするからだ。

たかが子ども向けのシール。だが、あれは「入れない場所」に貼られていた。

人が入れない場所に、貼った手があった。

そして、貼られた側から、見返す目があった。

あれは下水管の奥にあったのか。それとも、画面越しに、こちら側へ出てきていたのか。

いまでも、ときどき思う。

あの三枚は、目印だったのではないかと。

ここにいる、と知らせるための。
あるいは、ここを見ろ、と誘うための。

あの日、俺は確かに視線を交わした。

あちらが、先に気づいていたのかもしれない。

それだけが、消えない。

[出典:407 :本当にあった怖い名無し 警備員[Lv.4][新芽]:2024/11/29(金) ]

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