夜中に麻雀をしていたのは、大学のサークル仲間四人だった。
名前は仮に、I、O、M、そして俺だ。夏休みも半ばを過ぎ、誰かが「どこか行くか」と言い出したのがきっかけだった。
Iが笑いながら言った。「肝試し行こうぜ。定番だろ」
特に反対もなく、車を出し、夜道を走った。目的地は、地元では有名だが、あえて名前を出すほどの場所でもない古いトンネルだった。
車を降りた瞬間、空気が変わった。真夏なのに、息が冷たい。湿気が消え、音が吸い取られたように静かだった。冗談を言い合いながらも、全員が無意識に声を落としていた。
懐中電灯を頼りに道を進んでいると、Mが急に足を止めた。
「今、声せんかった?」
誰も聞いていない。そう答えたが、Mは納得せず、何度も後ろを振り返っていた。
しばらくして、今度はIがおかしくなった。歩き方が不自然になり、道の端、暗い斜面の方へ寄っていく。呼び止めても、引き戻しても、ぼんやりとした目でそちらを見続ける。無理やり立ち位置を変え、その場をやり過ごした。
トンネルの手前まで行ったが、中に入る気にはなれなかった。全員で引き返すことにし、帰りは二人一組で歩いた。俺はMと、IはOと組んだ。
帰り道、Iの様子はさらに異様だった。急に歩く速度が上がり、笑いながら何かを小声で繰り返している。
「いかん……これは、いかん……」
Oが声をかけても、Iは「後で話す」とだけ言い、前を向いたままだった。
車に戻ると、Iは落ち着くどころか、震え出した。目だけが忙しなく動き、何かを追っているようだった。誰も何も言えず、そのままIの部屋まで送った。
Iはソファに座らせた途端、力が抜けたように動かなくなった。呼びかけても反応が薄い。しばらくして、ようやく絞り出すように言った。
「トンネル出てからずっと……後ろにいる。近い。息がかかっとる」
それ以上は何も話さず、そのまま朝まで小刻みに震え続けた。
数日後、再びIに会った。
拍子抜けするほど、いつも通りだった。いや、それ以上に明るかった。
「なぁ、あれからさ」
そう前置きして、Iは笑った。
「部屋の隅に、ずっとおるんよ。夜になると出てくる。でも慣れた。で、次どこ行く?」
その瞬間、背中が冷えた。
取り憑かれたことではない。
何かが“いる状態”を、もう異常だと思っていないことが、何よりも恐ろしかった。
(了)
[出典:804 本当にあった怖い名無し sage New! 2011/11/12(土) 21:05:07.34 ID:1DRlgvCsO]