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中編 r+ ほんのり怖い話

戦火の残響と夏の怪 r+2728

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僕の友人に、オカルト愛好家で霊感がそこそこ強いKという男がいる。

ある日、彼に「今までで一番怖かった体験って何だ?」と聞いてみた。

Kは少し考えた後、微笑みながらもどこか遠くを見るような表情で答えた。「んー……それは、ぐるぐるの時だな」

「ぐるぐる?」

「ああ、ぐるぐる」

以下は、そのときKから聞いた話だ。

十年ほど前、小学五年生のとき、俺の通っていた小学校で「南中山にぐるぐる様が出る」という噂が流れ始めた。噂の発端は六年生の肝試しだった。ぐるぐる様の特徴は「身体のどこかが回転していて、全身が黒い」というものだった。

俺は噂に興味がなかったが、姉貴は違った。

「あんた、晩飯が終わったら南中山に行くから準備しなさいよ」

「南中山? ぐるぐる様の噂の山だろ?」

「そう、ぐるぐる様。面白そうじゃない?」

当然、父さん母さんには内緒で、絶対に反対されるに決まっていたからだ。決行は夜の十一時。俺は渋々了承した。

その夜、姉貴と俺はこっそり抜け出した。自転車は一台しかなく、俺が前で漕ぎ、姉貴は後ろの荷台に座った。南中山までは自転車で二十分ほどの距離。夜風を受けて姉貴は楽しそうだったが、俺は必死だった。

山の入り口に到着し、歩行者用の階段を上り始めた。噂ではぐるぐる様は北側に出るらしい。

暗闇の中、姉貴が懐中電灯で周囲を照らしながら進む。姉貴は噂について話し始めた。「最近の噂って一貫性がないよね。だから、お母さんや周りのじいちゃんばあちゃんに聞いて話を集めたの。ぐるぐる様は黒くて、片腕がなくて、何もしてこない。ただそこにいるだけ」

その時、俺の視界の端に黒い影がちらついた。何かがいる、と直感的に分かった。そしてそこに「それ」がいた。そいつは全身が黒く、ぐるぐると渦を巻くようにねじれていた。頭から腰まで、カタツムリの殻のようにぐるぐると回っていた。その異様な姿に、俺は声を上げることもできず立ち尽くしていた。

「ちょっとライト貸して」と姉貴が言い、俺は恐る恐るライトを差し出すと、姉貴はぐるぐる様に近づいていった。そしてそいつの前でしゃがんだ。

「ライトを消して」と言われ、俺は言われるままライトを消した。暗闇の中、数秒か、もっと長い時間が経ったように感じた。ただ震えて立ち尽くしていた。

「もういいよ、つけて」

姉貴の声がして、俺はライトをつけた。そこには姉貴だけが立っていて、ぐるぐる様の姿は消えていた。

「どっか行っちゃったみたいだね」

帰り道、俺は震える声で聞いた。「あのとき、ぐるぐる様と何をしてたんだ?」

姉貴は答えた。「ただ見てただけだよ。足に残ってたV字の跡をね。下駄の鼻緒の跡だと思うよ」

「それがどうしたってんだよ?」

「左側が特に火傷してたからね。爆弾に巻き込まれたんだと思う。あの子、戦争で亡くなったんだよ」

ぐるぐる様は、戦争で亡くなった子供だった。その事実を知った瞬間、これまでの恐怖が一気に形を変え、哀れみや悲しみが胸を締め付けた。彼もまた、理不尽な運命に巻き込まれた犠牲者だったのだと感じ、その存在が単なる恐怖ではなく、深い悲劇の象徴に思えてきた。

次の日、俺は学校でぐるぐる様の噂を広めた。ぐるぐる様はただの幽霊じゃない。戦争で亡くなった誰かなんだと。

「平和に感謝だーっ!」

帰り道で突然、姉貴が叫んだ。「平和に感謝しろよ!」と。俺は驚いて自転車を倒しそうになったが、振り返ると姉貴は笑っていた。その叫びは、ぐるぐる様との対峙を終えた緊張を解きほぐし、自分たちが安全な場所に戻ってきたことを強く実感させるためだったのだろう。

————

「ってわけで、あれが一番怖かったかな」

十年後、Kの学生寮で、俺たちは酒を飲みながら話していた。

「姉貴がいたなんて初耳だな」と俺が言うと、Kは「今度紹介するか?」と笑った。「いや、遠慮しとくよ。なんか凄そうな人だし」

「ぐるぐる様って今もいるのかな」と俺が聞くと、Kは答えた。

「いや、本当に怖かったのは、その後だな。家に帰ったら抜け出したことが親にバレて、猛烈に怒られたんだよ。そのときのオカンが一番怖かったな」

そう言ってKは「うははは」と笑った。

(了)

[出典:http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/study/9405/1401772436/]

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