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三十一人目の出席番号《月うさぎ2》 iwa+

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担任のことを書きます。書かないほうがいいのかもしれません。でも、たぶん、書かないほうがよくない気がします。

うちの担任は国語の先生です。三十代くらいの女の先生で、静かな人です。怒鳴ったりはしません。声も小さいです。だから余計に、教室が静かになります。

先生は黒板に字を書くとき、同じところを何度もなぞります。消して、また書いて、少し離れて見て、それでも気に入らないみたいで、またなぞります。丸をつけるときも、ゆっくり二回なぞります。丸の線が少し太くなります。

ある日、私が教科書を読まされました。声がうまく出ませんでした。読み終わったあと、先生が言いました。

「ちゃんと、増えてるね」

小さな声でした。私だけに聞こえる距離でした。

何がですかとは聞けませんでした。先生は黒板に向き直って、文の終わりに句点を打ちました。そのあと、もう一つ打ちました。丸が二つ並びました。誰も指摘しませんでした。先生も消しませんでした。

放課後、職員室に行ったとき、先生の机のノートが開いていました。中に丸がたくさん描いてありました。大きさはばらばらで、重なっているものもありました。丸と丸のあいだに、小さな字で書いてありました。

「見る人が、増える」
「見られる人も、増える」

その下に、クラスの出席番号が並んでいました。私の番号の横に、小さな丸がありました。線がまだ濃くて、新しい感じがしました。

後ろから声がしました。

「勝手に見ちゃだめだよ」

振り向くと先生が立っていました。怒っていませんでした。保健室の先生みたいな声でした。

「心配しなくていいから」
「ちゃんと、学校の中だけだから」

何がなのか、聞けませんでした。先生の目が少し光って見えました。涙みたいでした。でも、まばたきすると普通の目でした。

帰り道、校門の前で呼び止められました。

「最近、植物の世話してる?」

していませんと答えました。先生は少し考えてから言いました。

「枯らすと、増えないから」

その意味も聞けませんでした。

家に帰って教科書を開くと、今日読んだページの余白に丸がありました。鉛筆の跡です。消しゴムでこすっても、うっすら残ります。紙の奥に沈んでいるみたいです。

次の日、クラスの人数を数えました。三十人のはずなのに、三十一人いる感じがしました。ちゃんと席はあります。名簿にも名前があります。出席番号もあります。でも、その子のことを誰も話しません。

先生だけは、きちんと名前を呼びます。

呼ばれるとき、その席のあたりの空気が少し重くなります。風が止まったみたいになります。私は見ないようにしています。前だけ見ています。

でも、前を向いているときのほうが、背中に視線が増える気がします。

今日、もう一度数えました。三十二人いました。

名簿は変わっていません。先生は何も言いません。ただ、黒板に句点を打ちます。丸が増えます。

もし、あなたも数えたなら。

あなたのほうにも、丸はついているかもしれません。

[出典:472 :月うさぎ ◆x7J8mY2Q:2004/04/19(月) 22:04:37 ID:Wr9nTxQm]

[投稿者:志那羽岩子 ◆PL8v3nQx6A]

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