高校三年の夏、仲の良かった友人と意味もなく自転車で100kmほど離れた海まで、旅行と称して出かけた時のこと。
114 本当にあった怖い名無し 2005/08/30(火) 07:27:58 ID:NgP+M1S10
いきあたりばったりで金もないので、ある夜を片田舎の駅で過ごすことにした。
駅の前にあるベンチで寝るんだが、この時までこんなに苦痛だとは思わなかった。
背中は痛いし、動けないし、しかも蚊が多い。
耳の周りをプンプン飛び回ってゆっくり寝られる状態じゃなかった。
しかし、自転車を漕いでいるのと、海で遊んでいるのとでかなり疲れており、駅から移動する気力もないため、新聞紙をかぶって無理やり寝ようとしていた。
どのくらい経ったのかは分からないが、周りが妙に寒く感じるのと同時に、蚊の羽音も消え、駅の改札の前にある外灯が出す、ブーンと言う音しか聞こえなくなっていた。
寝ぼけていたので、蚊も寝たのかと思った記憶があるが、その後、何だか焦げ臭い匂いが漂ってきた。
こんな時間に焚き火?かと思ったが駅前で焚き火をしているわけでもなく、当然火事でもない。
そんなに驚くことでもなかったのだが、回りの静けさと臭いのせいで少し怖くなり、友人を起こそうと思ったが、彼はすっかり熟睡しているようで、小さい声では起きる気配もない。
自分も疲れで体が痛い、ベンチから起き上がるのが面倒くさく、気にしないようにもう一度寝ようと思って頭を横にした。
おそらく一分くらい経ったかと思った頃、遠くの方からかすかに列車の走る音が聞こえてきた。
もうすでに夜中を過ぎているこの時間に列車?と不思議に思ったが、工事やら何やらで夜中に列車が走ることもあろうかと思った。
だが、どうやらこの駅で列車が止まるような感じらしい。
よくよく考えると、この列車の音はかなり遠くの音のようで、聞こえてはいるんだが、なんだか霞がかかったように聞こえている。
ここの駅は小さな改札があるだけなので、本当に列車が来ればかなり大きな音が聞こえるはずだった。
この時、背筋に寒気を覚えて友人をどうしても起こさなければと思ったが、列車が停止して(ように思えた)、音が静かになった瞬間、今度は寝ているベンチの直ぐ近くから人の足音とささやき声が聞こえてきた。
何を話しているのかはボソボソと言う音からは聞き取れなかったが、雰囲気的には楽しい話ではないらしい。
足音も歩くと言うよりは、足を引きずると言ったほうが的確なものだった。
本当のところは飛び起きて逃げ出したい心境だったが、かぶっている新聞紙をちょっと上げて足音のする方向に目をやってみた。
すると、列をなして数十名と思しき人が、列車の方へと歩いていくのが見えた。
人と言っても、ちょうど膝上くらいから透き通っているような感じで、新聞紙をどけて見たところで上半身は見えないのが一目瞭然だった。
とんでもないものを見てしまったと思ったが、恐怖で身動きできないのと、逆に顔を隠すと周りで何が起こっているのか分からなくなるので、とりあえず身動きせずに観察していたが、どうやらこの足音の主達はみんな男のようで、汚れた皮のブーツのような靴、薄い茶色のズボンを履いていた。
また、それぞれ荷物?をもっているようで、大きな麻袋や風呂敷のようなものが時おり目についた。
何分かが過ぎて、最後と思しき人が目の前を通り過ぎたと同時くらいに列車が動き出す音が聞こえ、列車の音が遠ざかるとともに、周りの状況も元に戻っていくようだった。
耳には周りの虫達の声や、遠くの車が走る音が聞こえ始め、焦げ臭さもいつの間にかなくなっていた。
しばらく新聞紙を半分かぶったままの状態だったが、蚊が再び耳の周りで羽音を響かせ始めたところで我に返り、そばのベンチで寝ている友人を起こしに行った。
当然、友人はいままでの臭いや列車の音、足音等は一切知らず、説明しても『はぁ』と言った感じで、まともには取り合ってくれなかった。
翌朝、地元の人にそれとなく話を聞いてみたが、特にその地域で変わった事件や歴史があるわけでもなく、どう考えてもその駅と体験した事象とが結びつかない。
ただ、あの時感じた雰囲気では、戦時中もしくは戦後の兵隊達の隊列のような感じがしたのだが、ひょっとしたら列車のレールに沿って常に移動しているのかも知れない……
(了)