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中編 r+ 集落・田舎の怖い話

笑っていたのは誰だったか rcw+10,064-0126

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二〇〇六年の盆休み。

あの夜のことを思い出すと、今でも喉の奥がひゅっと冷える。

俺の家系には、盆の間は海にも山にも近づくなという決まりがあった。理由は誰も説明しない。ただ、昔からそうだという一点だけが強く残っている。小さい頃、二つ上の先輩が盆に山へ入ったと聞いた祖父が、怒鳴りながらその先輩の髪を掴み、地面に叩きつけた光景を俺は見ている。大人が理性を失うほどの何かが、盆にはあるのだと、その時に刷り込まれた。

けれど高校に進学し、市内の学校へ通うようになると、その感覚は急に揺らいだ。クラスメイトたちは、盆に海へ行き、山でキャンプをし、何事もなかったように夏休みを過ごしていた。誰も死なないし、誰も壊れていない。自分の家の決まりが、急に時代遅れの迷信に思えてきた。

盆の真っ只中、友人からキャンプの誘いが来た。
「海行こうぜ。夜はバーベキュー。肝試しもしよう」
画面を見た瞬間、迷う前にOKと返していた。

親には、市内の友達の家で集まるだけだと嘘をついた。父も母も疑わなかった。盆の夜は大人も酒を飲む。俺が何をしているかなど、深く考えない。

友人の兄が車を出し、俺たち五人は海沿いの町営キャンプ場へ向かった。昼は普通の海だった。浮かれて泳いだ。ただ、波の合間に、やけに長い海藻が浮かんでいるのが見えた。髪の毛みたいだった。沖で首だけ出して立っているように見えた男が、一度だけこちらを向き、そのまま沈んだ。浮かんでこなかった。誰も何も言わなかった。

写真を撮った。
後で見返すと、全員の膝のあたりに、顔のようなものが写っていた。俺の顔は、はっきりと青白かった。

夕方になり、バーベキューをしながら、この後どうするかという話になった。自然に肝試しの流れになった。行き先は山の中の神社だった。大学生の間では有名な場所らしく、友人の兄は妙に楽しそうだった。

車で向かう途中、おかしなことが続いた。オートマの車が理由もなく止まり、一本道の先に懐中電灯の光が見えたのに、すれ違う人間はいなかった。街灯が、一斉に消えた。

それでも、恐怖はなかった。代わりに、意味のない高揚感があった。頭の芯が痺れて、笑いが込み上げてくる。怖くもないし、楽しくもない。ただ、正常から外れていく感覚だけがあった。

神社に着いたのは、夜十時を過ぎていたと思う。鳥居をくぐった瞬間、全員が勝手に散らばった。俺は境内の隅にある小さな池の縁にしゃがみ込んだ。涙が止まらなかった。笑いながら泣いていた。

境内の中央で、友人の兄が声を上げた。
「来いよ。ほら、これ」
手には縄があった。どこから持ってきたのか分からない。兄はそれを嬉しそうに振り回していた。周りを見ると、皆すすり泣いていた。理由は分からない。ただ、近づきたくなかった。

その瞬間、俺の携帯が大音量で鳴った。
親に連絡を入れる時間だった。

音に驚いて尻もちをついた。隣にいた友人も腰を抜かした。空気が一気に変わった。笑いも泣き声も消えた。俺たちは正気に戻り、兄を引きずるようにして駐車場へ戻った。

兄はずっと、もう一回行こうと言い続けていた。

夜が明けてからも、兄は同じだった。
「覚えてない。でも、すごく幸せだった」
縄を拾ってからの記憶が抜け落ちているらしい。ただ、達成感と幸福感だけが残っていると言った。弟の腕には、深い爪の痕が残っていた。

家に帰ると、祖父母に叱られた。特に祖母は異様だった。理由を聞いても何も言わず、翌朝、黙って俺を連れ出した。

俺は後になって祖父に聞いた。
なぜ盆に海や山に行ってはいけないのか。

祖父は、理由は忘れたと言った。ただ、昔からそう決まっている。それだけだと。

今は大学生になった。あの兄も結婚して普通に暮らしているらしい。
それでも夏が来るたび、思い出す。鳥居の前で、笑いながら泣いていた俺たちが、何に近づいてしまったのかを。

あの笑いは、俺たちのものじゃなかった。

[出典:879 :2010/09/17(金) 19:11:36 ID:dJ+Cl42o0]

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