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犬喰いの石 r+2,357-2,722

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今でも、あの図書館の薄暗い匂いを思い出すと、胸の底に鈍い違和感が蘇る。

十年前、偶然出会った旧友と語らったときのことが、未だに私の心を蝕み続けている。

その日は珍しく空気が澄んでおり、夕方の光が窓から斜めに差し込み、埃がきらめいていた。友人と並んで外のベンチに腰を下ろし、取り留めもない話を続けていたとき、唐突に彼は「知り合いの子供がな……」と切り出した。

その子供は、ある日を境に箸もスプーンも拒むようになり、器に顔を突っ込んで犬のように食べるようになったらしい。家族は気が狂ったように医者を巡ったが、何の診断も下らず、最後には霊能者めいた人物のもとへ縋ったという。その者の口から語られたのは、子供が日々小便をかけていた「石」の話だった。神が宿る石を穢した罰として、食事の仕方が奪われた……そう説明されたのだ。家族が石を清め、供物を捧げて謝罪したところ、奇妙な犬食いは嘘のように治まったという。

その話を聞いた当時、私は半信半疑ながらも、どこかで不気味な納得を覚えていた。だが数年後、私自身に異変が降りかかり始めた。

夜、家の中にひとりでいると、背後から鋭い視線を突き刺されるような感覚が走る。誰もいない廊下から、湿った足音が近づいては消える。ふと寝室の鏡を覗くと、自分の顔の輪郭が微かに歪み、知らぬ影が背後に立っている気配があった。

恐怖に耐えかね、紹介された真言宗の寺を訪れたとき、私はそこで一人の女性と出会った。彼女もまた、子供の異常な食べ方に苦しんでいた。僧侶は子供を一瞥すると「無縁仏が幼い身に入り込んだ」と断じた。もし放置していれば、子供の理性は削がれ、魂までもが変質しただろう……と。

驚くべきことに、対策を講じた後、その子の知的な遅れも徐々に改善したという。私は女の話を聞きながら、十年前に友人が語った「石の祟り」の子供の話と重なることに気づき、全身の血が冷えた。あまりに似すぎていた。どうして今まで両者を結びつけなかったのか。そして、なぜ今この時期に、自分の周囲にも怪異が広がりつつあるのか。

僧侶が呟いた言葉が耳から離れない。「その子は、神さんの子だ」――それだけを残して、説明を避けた。その響きが、私の背骨を凍り付かせた。

やがて私はネット掲示板に経緯を書き込んだ。返ってくるのは嘲笑や疑念ばかりだった。
「犬食いをしているのはあんたじゃないのか」
「寺より医者に行け」
「霊感商法だ」

私は否定した。病院では異常なしと診断された。僧侶も高額な布施を求めはしなかった。ただ千円ほど包んだだけだ。だが、批判者たちは止まらなかった。
「医師法違反だ」
「通報する」
「インチキ坊主だ」

私は苛立ち、何度も書き込んだ。だが画面の向こうから返る罵声は尽きない。やがて疲れ果て、私は「胸糞が悪い、帰る」とだけ残し、スレッドを去った。

しかし、その後も背後の視線は消えなかった。寺で出会った女の子供は改善したというのに、私の異常は治らないままだ。掲示板で罵られた言葉が、奇妙に胸に残る。「あんたも犬食いをするのか?」――私は笑って否定した。だがある晩、無意識のうちに、茶碗に顔を突っ込み、舌で飯粒を掻き集めている自分に気づいてしまったのだ。

その瞬間、背後の視線が、ゆっくりと私の中に溶け込んでいくのを感じた。もう自分のものではない咀嚼音が、暗い部屋に響いていた。

[出典:383 :本当にあった怖い名無し:2010/11/15(月) 06:17:13 ID:+Y8zdWHkP]

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