ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

三分間の走行 rw+8,401

更新日:

Sponsord Link

その夜、私は終電を逃した。

スタジオを出たのは一時を過ぎていた。湿った夜気が肺の奥にまとわりつく。背中のギターケースが重く、思考も鈍い。仕方なく流しのタクシーを拾った。

「〇〇通りまで」

運転手は五十代くらいの男だった。白い手袋をはめ、ミラー越しに穏やかな笑みを向ける。

「〇〇通りに住んでるってことは、〇大の学生さん?」

「はい」

「近くにボウリング場がありますよね。私、あそこ好きでしてね」

ありふれた世間話だった。私は曖昧に相槌を打った。

数分後、同じ声がした。

「〇〇通りに住んでるってことは、〇大の学生さん?」

一瞬、返事を忘れた。

「……はい」

「近くにボウリング場がありますよね。私、あそこ好きでしてね」

まったく同じ抑揚。語尾の伸ばし方まで。

偶然だと思おうとした。だが次の信号で止まったとき、メーターに目が留まった。走行時間は三分。乗ってから、もう十分は経っているはずだった。

青に変わり、車は進む。

見覚えのあるコンビニの看板が左に流れた。

その数分後、また同じ看板が左に流れた。

私は何も言わなかった。言えなかった。

「〇〇通りに住んでるってことは、〇大の学生さん?」

三度目だった。

私は今度は答えなかった。

運転手は少し間を置き、穏やかに続ける。

「近くにボウリング場がありますよね。私、あそこ好きでしてね」

その直後、足元で小さな衝撃音がした。アクセルでもブレーキでもない、床を踏み鳴らすような音。一定の間隔で、トン、トン、と。

信号は青のまま変わらない。交差点を抜けても、また同じ交差点が現れる。

私はようやく声を出した。

「ここで、降ります」

目的地とは違う場所だったが、構わなかった。

「あれ、そうかい? ここじゃ遠くないかい?」

穏やかな声。

車は静かに路肩へ寄った。メーターは三分のままだった。

料金を払い、ドアを開ける。湿った夜気が一気に流れ込む。

外に出て振り返ると、そこは見覚えのあるコンビニの前だった。だが私は、そこを二度、三度と通り過ぎている。

ドアが閉まる直前、運転手が言った。

「……〇〇通りに住んでるってことは、〇大の学生さん?」

同じ笑顔だった。

タクシーは走り去った。曲がった先は、さっきも曲がった角だ。

私は歩いて帰った。

翌朝、財布の中の領収書を確認した。乗車時間は一時十二分から一時十五分までの三分間。走行距離は一・二キロ。

その区間は、歩いて十五分はかかる。

いまでも夜にタクシーを拾うとき、住所を告げるのをためらう。

〇〇通りに住んでるってことは、と聞かれたら、私は何と答えるのだろうか。

[出典:58: 本当にあった怖い名無し 2015/05/23(土) 18:30:38.27 ID:xoXqerud0.net]

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間
-,

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.