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短編 r+ 凶悪殺人事件

茨城上申書殺人事件~映画『凶悪』のモデルとなったおぞましい事件 #4,6748

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雑誌の記者に話を持ちかけたのは、あれが初めてだった。

自分の喉の奥に長い針が刺さったような感覚が続いていて、黙っていれば楽になれるのか、しゃべってしまえば地獄が開くのか、ずっと迷っていた。けれど、あの「先生」の顔を思い浮かべると、沈黙のまま腐っていくくらいなら口を割ってしまえ、と自分を追い立てる何かがあった。

刑務所の壁は分厚いが、耳の奥にへばりつく記憶までは閉じ込められない。
目をつぶると火の匂いがよみがえる。夜の焼却炉に突っ込まれた肉の焦げる臭い。あの時、新聞紙が丸められ、火がつけられた瞬間のことを、いまでも鮮明に思い出す。火は躊躇せず、皮膚を、骨を、そして名前すら焼き尽くしていった。

男は首にネクタイを巻かれ、何も言えないまま横たわっていた。
名前を呼ぶこともできず、ただ「六十くらいの誰か」という存在になった。遺体は灰になり、灰すら誰のものか判別がつかなくなった。だが「先生」は唇を舐めながら言った。「これで億は転がり込む」
その声音は、金の重みを愛おしむようで、死人の呻きよりも濃く心臓に響いた。

それで終わりではなかった。
十一月の冷え込みの中、水戸の駐車場でひとりの老人が車に押し込まれた。七十を越えた資産家。小さく縮んだ背中を「先生」が踏みつけ、北茨城の土地に掘られた穴に沈めた。
砂が雨のように降りかかる中、老人はか細く声を漏らした。
「助けてくれ」
耳に届いた最後の言葉だった。その土地はすぐに売られ、老人の生きた証は名義変更の書類と、掘り返された後の空虚な土しか残らなかった。

その時、自分はどうしていたのか。
ただ立って見ていた。血が騒ぐどころか、頭の中が氷のように冷えていた。「金は人間を喰う」その事実を、掘り返した土の中に埋め込むようにして飲み込んだ。

しかし、もっと酷いものを目撃することになる。
翌年の夏、阿見町のカーテン屋の親父が「先生」の獲物になった。病を抱えて衰えた体に、一ヶ月にわたって酒を押し込む。焼酎、日本酒、そして最後には強烈なウォッカ。
「死ぬときは静かに死ぬんだ」
「先生」がそう囁いた瞬間、親父は喉に押し当てられた瓶の口から濁った液体を胃に流し込み、痙攣し、呼吸を止めた。
死体は山に捨てられ、保険金は分配された。紙幣が束になって机に積まれていくのを見ながら、自分はなぜか笑っていた。もう笑う以外の選択肢がなかった。

けれど「先生」は、報酬を支払わなかった。
自分が逮捕され、勾留されている間に、すべてが反故にされた。舎弟が自殺した時、その財産までも「先生」に奪われたと知った瞬間、腹の底から何かが裏返った。
「先生」は自分にとって、父親でも兄貴でもなかった。ただの怪物だった。

だから上申書を書いた。
火を、土を、酒を。焼却炉の赤、掘り返した泥、ウォッカの透明な毒。それらを紙に書き殴り、役人の机に差し出した。
手が震えていた。告発すれば自分の罪も増す。それでも黙っていれば、死ぬまで「先生」の影を抱え続けることになる。

その後どうなったかは世間も知っているはずだ。
裁判になり、「先生」は無期懲役を受けた。保険金に群がった家族たちも鉄格子の中に押し込まれた。事件を仲介した工務店の男は、正月の前日に車の事故で死んだと聞いた。偶然か、それとも「先生」の手がまだ外に伸びていたのか。

それでも、火の匂いは消えない。
夜、独房の中でまぶたを閉じると、また新聞紙に火がつく音が耳の奥で爆ぜる。黒煙が立ち上り、誰のものともわからない声が混じって響く。「助けてくれ」「返してくれ」「飲みたくない」
どれが誰の声なのか、もうわからない。ただ、あの声の群れが自分を責めているのか、あるいは「先生」を求めているのか、判断できなくなっている。

記者は最後にこう聞いた。
「あなたは後悔していますか」
その問いに答えようとしても、言葉が出なかった。後悔しているのかどうかさえ、自分にはわからない。

ただ一つ確かなのは、「先生」の笑い声がまだ耳に残っているということだ。鉄格子の向こうからでも、夜ごとに近づいてくる。やがて、この声に飲まれてしまうだろう。
そうなったとき、誰が「怪物」だったのか、きっとわからなくなる。

茨城上申書殺人事件

概要

死刑判決を受けて上訴中だった元暴力団組員の被告人が自分が関与した複数事件(殺人2件と死体遺棄1件)の上申書を提出。

元暴力団組員が「先生」と慕っていた不動産ブローカーが3件の殺人事件の首謀者として告発された。

元暴力団組員に取材を続けていた雑誌『新潮45』が2005年に報じたことによって、世間から大きく注目されるようになり、「先生」が関与した1つの殺人事件について刑事事件化した。

元暴力団組員が上申書で告発したきっかけは、「先生」が首謀した殺人事件の報酬を受け取る約束が、直前に別の刑事事件で逮捕・長期勾留されたことで「先生」に反故にされたこと、世話を頼んだ舎弟が自殺した際に舎弟の財産が「先生」の手により処分されたことであった。

石岡市焼却事件

1999年11月中旬に「先生」が金銭トラブルを巡ってネクタイで男性の首を絞めて殺害し、茨城県石岡市のある会社まで運び、敷地内の焼却場で、「先生」が新聞紙を丸めて火を付け廃材と一緒に焼いた。

被害男性は推定60歳代だが名字しかわからなかった。遺体が焼かれて残っていないだけでなく、身元確認も困難な状況となった。

この事件で「先生」は「億単位の金」を入手した。

北茨城市生き埋め事件

1999年11月下旬に「先生」が埼玉県大宮市(現さいたま市)の資産家男性(当時70代)を水戸市の駐車場で拉致して北茨城市の「先生」の所有地まで運んで穴を掘り、穴の中に入れて生き埋めにして殺害した。

男性の土地はいったん「先生」名義になった上で、その後売却された。

被害男性は特定されており、男性の住民票移動や土地登記の移動も上申書の通り裏付けられた。

しかし、「先生」所有の土地で遺体が見つからなかった(「先生」が証拠隠滅のために、遺体を掘り起こして別の土地に移したという情報がある)。そもそも、被害男性は身寄りがないため、DNA鑑定しても本人確認が難しいという問題があった。

この事件で「先生」は約7000万円を入手した。

日立市ウォッカ事件

「先生」が2000年7月中旬から借金を抱えていた茨城県阿見町のカーテン店経営者(当時67歳)を日立市内の事務所等で軟禁状態に置き、糖尿病と肝硬変を患っていた被害者の体調悪化を狙って、1ヶ月間にわたって大量の酒を与えた。

同年8月中旬に「先生」の自宅で高アルコール濃度のウォッカを無理やり飲ませ、病死に見せかけて殺害。
遺体を七会村(現城里町)下赤沢の山中の林道に運んで遺棄した事件。

8月15日に遺体が発見された。当初は警察から「事件性無し」と処理した結果、残された家族は生保会社2社から約1億円の生命保険金を手にしたが、大部分の保険金は「先生」たちによって山分けされた。

刑事裁判

告発されていた3つの殺人事件の内、日立市ウォッカ事件が保険金殺人として刑事裁判となった。

裁判の結果、首謀者である「先生」は無期懲役、死亡現場に立ち会った元暴力団組員は懲役20年(別事件で死刑確定)、保険金殺人の依頼をした死亡者家族3人に懲役13~15年が言い渡された。

また、死亡保険金が振り込まれた口座を不正開設した詐欺罪で死亡者家族2人が懲役1年執行猶予3年となった。

また、事件捜査中の2006年12月31日に、殺人事件の依頼を仲介したとされる工務店経営者(当時52歳)が交通事故死している。
[出典:Wikipedia]

映画・凶悪

『凶悪』(きょうあく)は2013年の日本映画。ノンフィクションベストセラー小説『凶悪 ある死刑囚の告発』(新潮45編集部編、新潮文庫刊、ISBN 4101239185)を原作とした社会派サスペンス・エンターテインメント映画であり、白石和彌監督の初の長編作品でもある。

ストーリー

スクープ雑誌「明潮24」に東京拘置所に収監中の死刑囚・須藤から手紙が届く。記者の藤井は上司から須藤に面会して話を聞いて来るように命じられる。藤井が須藤から聞かされたのは、警察も知らない須藤の余罪、3件の殺人事件とその首謀者である「先生」と呼ばれる男・木村の存在だった。木村を追いつめたいので記事にして欲しいという須藤の告白に、当初は半信半疑だった藤井も、取材を進めるうちに須藤の告発に信憑性があることを知ると、取り憑かれたように取材に没頭して行く。

キャスト

藤井修一 - 山田孝之: スクープ雑誌「明潮24」の記者。モデルは『新潮45』編集部の宮本太一。
須藤純次 - ピエール瀧: 死刑囚。元暴力団組長。
木村孝雄 - リリー・フランキー: 「先生」と呼ばれている不動産ブローカー。
藤井洋子 - 池脇千鶴: 藤井の妻。認知症の姑の介護に疲れ果てている。
牛場百合枝 - 白川和子: 被害者の妻。夫・悟の殺害を木村たちに依頼。
藤井和子 - 吉村実子: 藤井の母。認知症。
五十嵐邦之 - 小林且弥: 須藤の舎弟。須藤に心酔している。
日野佳政 - 斉藤悠: 木村から須藤に託された舎弟。
佐々木賢一 - 米村亮太朗: 須藤のムショ仲間。須藤を裏切って殺される。
遠野静江 - 松岡依都美: 須藤の内縁の妻。
牛場悟 - ジジ・ぶぅ: 牛場電機設備の経営者。借金まみれの呑んだくれ。
芝川理恵 - 村岡希美: 「明潮24」編集長。藤井の上司。モデルは当時の『新潮45』編集長の中瀬ゆかり。
森田幸司 - 外波山文明: 森田土建社長。木村の共犯。事故で植物状態に。
牛場利明 - 廣末哲万: 悟の女婿。舅の殺害を木村たちに依頼。
福森孝 - 九十九一: 木村の共犯。身寄りのない老人を探して木村に紹介。
牛場恵美子 - 原扶貴子: 悟と百合枝の娘。利明の妻

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