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短編 家系にまつわる怖い話

歪んだ家【ゆっくり朗読】3241-0103

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お嬢様育ちで世間知らずな母が、俺と弟と妹を連れて父と離婚したのは俺が小学校低学年の時。

母の実家が地方都市のそこそこの名家っだったんで、自由で裕福な暮らしが出来ると思ったらしい。

しかし祖父母は激怒し1年足らずで絶縁状態となり家を追い出され、地元でも評判の悪い土建屋のオッサンと再婚した。

オッサンはいかにも成金で趣味の悪い男だったが、両親に絶縁され頼る者が無かった母からすれば最高の男だったんだと思う。

しばらくのホテル暮らしのあと、オッサンの家に引っ越す事になった。

オッサンの家は無理に増改築をしたのか、大きいのだが和風の家にプレハブ小屋みたいのを足した感じで、歪な感じだった。

しかしガキで何も知らないオレ達は、無邪気にデカい家を見て喜んでた。

オレ達が家に入ると、入れ替わるようにオッサンの息子(義理の兄)が家を出て行った。

兄は俺達兄妹に優しかったから、自分達のせいで出て行ったのかな?と思うと兄に凄く申し訳なかった。

その後もオッサンに虐待されるでもなく無事に過ごしていたのだが、俺が中三の夏に奇妙な事が起こり始めた。

それは、家族で居間にいると二階から異音が鳴り始めた。今で言うと壁ドンみたいな音が。

居間の真上の二階の部屋は「仕事道具があるから」という理由で立ち入りを禁じられ、鍵がかかってて入る事は出来なかったから、最初は「荷物が崩れたんだろう」ぐらいにしか思ってなかった。

オッサンもネズミかなんかだと言ってたので気にしないようにしてたが、だんだん異音が鳴る頻度が増え、仕舞いには赤ちゃんの鳴き声が聞こえ始めるようになった。

オッサンに聞いても何も返事をせず、母も黙ったままだった。

結局、家族はバラバラに部屋で食事を取るようにして異音を聞かない様にしていた。

そんな状況でもなんとか第二志望の高校に合格できて、中学最後の春休みになった。

たまたま自分一人が家にいた時に兄が帰ってきた。

「探し物しにきただけだから」と言う兄に、半年ほど起こってる異音と泣き声について話してみた。

兄はまじめに聞いてくれて、「ちょっと待ってろ」と言って居間の棚から知らない鍵を持ってきた。

そして「誰にも言うなよ」と言って、二階の入ってはいけない部屋の前に連れてきてくれた。そして鍵を開けて入った。

俺はてっきり御札だらけとかの怖い部屋を想像してたんだが、いたって普通の和室だった。

ただ、襖の後ろに張られた一枚ずつの御札と、仏壇と異様なほどに供えられた人形を除いては。

人形の数は三〇~五〇ぐらいだったと思う。

兄に「誰の仏壇?」と聞くと、「俺の姉らしい」と答えた。

「らしい?」って聞くと、「生後数ヶ月で死んだ」と答えた。

それからの兄の話を要約すると、オッサンの最初の子供で早々に亡くなった事について最初の奥さん(兄の母)は、さんざん責められイジメられたらしい。

そして二年後に兄が生まれたのだが、娘が欲しかったオッサンは奥さんをさらにイジメたそうだ。

イジメの内容は端折るが、奥さんは次第に仏壇のある部屋に篭るようになった。

普通に家事はするが和室に篭る時間が増えていく奥さんを、オッサンはさらに暴力と言葉でさんざん嬲り、それはヒドイ状況だったそうだ。

兄は自分に構ってくれず修羅場を続ける二人を、他人事のように眺めてたそうだ。

そんな状況がしばらく続き、兄が小学生高学年になった年に奥さんはその部屋で死んでた。

自殺した形跡もなく、ただ動かなくなってたと兄は言った。(実際に警察も来たが心筋梗塞と言われたらしい)

その時点で自分も正直、母親のバカさ加減が原因とはいえなんでこんな家で暮らさなきゃいけないのか分からなくなったし、それとオッサンがこの家を離れないのも疑問に思った。

で、兄に聞いた。「なんでそれでもこの家に住んでるの?」と。

兄は「ここ離れたらお袋が出るんだってよ。鬼の形相で」と言う。

俺の疑問を感じ取ったのか、兄は話を続けた。

葬儀を終わらせて、オッサンの実家に休養を兼ねて行ったらしいんだが、オッサンは毎夜、亡くなった奥さんが動かない赤ちゃんを抱いてオッサンに縋りつく夢を見たらしい。

夜中に何度も目覚め狼狽しているオッサンを見て、親族は疲れてるんだろうと同情こそすれノータッチだったそうだ。

オッサンは兄にその事を何度も話して同意を求めたらしいが、兄は自分で見てないので曖昧に相槌を打ってたらしい。

そして何故か家に帰るとその夢を見ることも無く、オッサンはだんだん元に戻っていった。

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ある日、オッサンが納骨も終わって落ち着いたぐらいに、「今夜は帰らん」と言ってどっかに行った。

兄が夜一時過ぎにトイレに行ったら、オッサンが血相変えて帰ってきて、仏間に飛び込んで念仏みたいのを唱えてた。

それで、また母親が出たんだなと理解したそうだ。

さらに、兄が中学に上がる頃から異音が鳴るようになり、赤ちゃんの鳴き声がするようになった。

家の中でしか寝れないし、原因不明の物音と赤ちゃんの泣き声にいたたまれなくなったオッサンは、霊能者にすがりまくったらしい。

兄は、「ガキだったから分からないけど、親父は凄い大金使ったと思う。効果が無ければ霊能者に電話でがなりたて、また新しい霊能者を探す。そんなのが一年間ぐらい続いたよ」

と言った。

ちなみに、兄はその頃から非行に走って家にあんまり帰ってなかったそうだ。

そんなこんなでなんとか霊媒師を見つけ鎮める方法を教わり、今に至るらしい。

そしてオッサンは仏間から離れるように寝所を増築して、少しでも仏間から距離を取ろうとした結果、歪な増築を繰り返した家になった。

「じゃあ供養されたんじゃないの?まだ聞こえてるよ」と聞くと、

「お祓いしてからかなり時間が経ったから、効果が無くなったじゃね?」と無表情で兄は答えた。

「とにかく、こんな家に関わった以上、長くいるとオマエまでなんかあるかも知れないから、高校でたらこの家を離れろ。大学でも就職でも良いから家を出ろ」と言われた。

最後に、「弟と妹にこの話をするかどうかはお前に任せる。まだ二人とも子供だから慎重に時期を見計らって話せよ」と言って、再び鍵をかけた。

それからは見知らぬ人達が家を出入りするようになった。たぶん霊媒師だと思った。

その頃から家の中は変なお香の匂いと、訳の分からない念仏みたいのが聞こえ続け、近所から苦情が来る毎日。

俺の高校の入学式にも両親は顔も見せず、家族バラバラで部屋で過ごす日々が続いた。

夏頃に異音と泣き声は無くなった。

どっかの霊媒師が成功したみたいだと俺は思ったが、誰も居間に寄り付かなかった。

その後、俺は高校三年になり東京の大学に進学が決まり、母とオッサンと縁を切りたかったので新聞奨学生の手続きをしてた二月の終わりに、また異音が鳴り始めた。

しかも今度は家中で聞こえるようになった。

俺は話すタイミングはここしかないと思って、卒業式の次の日に弟と妹に兄から聞いた話をした。

当然その夜に母とオッサンに呼ばれさんざん怒られた。

その頃、兄は連絡がつかなくなっていたので素直に兄に教えてもらったと話し、オッサンが母に言ってなかった前妻への暴力、この家を出るために自分がタイミングを見計らってた事などすべて話した。

母は前妻への暴力とかは知らなかったらしく激しく狼狽していたが、これ幸いに全て吐き出し、そのまま家を出て友人の家に泊まり上京した。

その後の顛末は、弟から聞いた話しでは母は実家に詫びを入れ、家に離婚届を置いて、実家に帰り家業の手伝いをしてる。

弟と妹はそのまま母について行き、祖父の元で暮らす。

母が置いていった離婚届が提出されていなかったらしく、事後処理は弟がして大変だったようです。

自分は大学入る際に、先輩に手伝ってもらいオッサンの戸籍から抜け、実父の姓に戻り何事も無く暮らしてます。

今回書こうと思ったのは、祖父が先日百五歳で大往生し葬儀で実家に帰った際に、オッサンが例の家の仏間で自殺したことを知らされたからです。

ただ自分を含め家族はあの家から逃げ出したので、オッサンが一人でどうしてたか分かりません。

(了)

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