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わたしの隣に立っていた子 rw+2,365-0212

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エジソンの竹で知られる京都市のはずれ。

暑さが肌に貼りつく初夏の日、母に連れられて遠縁のFさんの家を訪ねた。

まだ「市松人形みたい」と言われていた頃の話だ。あれは褒め言葉ではない。そう言われるたびに、わたしはわたしの顔を疑った。鏡を見ると、自分より少し遅れて動く影がある気がした。目を逸らせば、そこに残っているようで、怖かった。

Fさんの家は洋館だった。団地の四階の灰色の景色とは違い、そこだけ空気がよそよそしい。二階のバルコニーからは一面の竹林が見えた。竹は風が吹くとざわざわと鳴る。会話のようでもあり、擦れ合う歯の音のようでもあった。西陽に照らされ、金色に光るその先が、昼なのに深かった。

退屈に耐えきれずテーブルの下で足を揺らしていると、廊下の奥の扉の隙間に動くものを見た。男の子だった。青白い顔で、じっとこちらを見ている。目が合うと、すっと消えた。

母に家の中を見ていいかと聞くと、Fさんは微笑んだ。整いすぎた微笑みだった。置き物の口元のように、形だけが動いた。

二階へ上がると、その子は待っていた。案内するように部屋を次々と見せる。「ここは鍵がかかってても、こっちから開くよ」「このベッド、跳ねると気持ちいいよ」と得意げだった。

兄は無言で後ろを歩いていた。わたしが振り返ると、兄はいつも少し離れている。男の子と会話をしているのは、わたしだけだった。

古いオルガンを開けると、埃と湿った木の匂いが立ち上る。鍵盤を押すと、音が一拍遅れて鳴った。男の子は笑った。「ここ、好きなんだ」と言った。

外が暗くなり始めた頃、彼はバルコニーを指差した。「次はあそこに行こうよ」

竹林は昼とは違っていた。黒い。奥行きがなく、ただ塊のように立っている。わたしの名前を呼ばれた気がした。風ではない。確かに、呼ばれた。

「お母さんに聞いてからね」と言うと、男の子の顔から色が抜けた。ぴたりと動きを止めたまま、わたしを見ていた。

階段を降りると、Fさんは「探してたのよ」と言った。母は何事もなかったように笑い、夕飯に出かけた。

車の中で聞いた。「男の子、いるの?」

母は「ああ、息子さんね」と答えた。そこで話は終わった。

数年後、再びその家を訪れたとき、Fさんは言った。「あの頃、家が重かったの。あなたたちが来てから、軽くなったのよ」

母は曖昧に笑った。

二階の部屋は片付いていた。だが、ベッドの下に木琴があることを、わたしは知っていた。泣いて欲しがると、母に叱られた。「勝手に家の中を探るなんて」と。

探っていない。教えられただけだ。

兄に聞いたことがある。「あのときの子、覚えてる?」
兄は首を振った。「誰のこと?」

竹林は今も残っている。洋館はない。

夢に見る。真っ暗な竹の間に、男の子が立っている。昔と同じ顔で、同じ高さで。わたしの名前を呼ぶ。

目が覚める直前、いつも気づく。

呼ばれているのは、わたしだけではない。

あのとき、わたしが振り返った先に、もう一人、誰かが立っていたことを。

そして今、思い出そうとしている。
あの家で、わたしは本当に二人だったのか。

(了)

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