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もうひとりの支援員 r+1,581

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X学童の話をしてくれたのは、元支援員のMさん(仮名)。

十年以上も前の話になるが、今も細部を忘れられないのだという。

勤務先は住宅街の一角にあった公立の学童保育所。
建物はふたつ、A館とB館に分かれていた。
最初の一年目はB館担当で平穏無事に過ごしたが、二年目、組織の方針で両館が統合された。
そのときから、何かが変わった。

支援員の一人であるMさんは、最長勤務時間の関係で「長」に任命された。
それが引き金だったのか、それとも……元々、そこに“居た”のか。

最初の異変は昼下がり、同僚のC先生とD先生が図書館へ出かけた日のことだった。
誰もいないはずのB館の玄関に、ピンク色のエプロン姿の女が横切る姿が映った。

髪型も仕草もC先生そっくりだったが、戻ってきた彼女はまったく違う格好をしていた。
Mさんが見たものは……上半身だけが不自然に小さく、ガラスの下部に“浮かぶように”映っていたという。
その女の詳細な服装は、以前ここで亡くなった支援員に酷似していた。

C先生とD先生は顔を見合わせ、「やっぱり……」と何かを知っていたようだった。
亡くなった支援員は学童の人間関係で精神を病み、入院先で命を落とした。
その原因になったとされる「長」の女性は厳格で他人に厳しく、自分にも厳しい人だったという。
葬式には本部職員も参列しようとしたが、遺族に拒まれた。

それからというもの、奇妙な出来事が頻発した。
トイレの鍵が勝手に掛かる。
物音がする。
録音した自分の声が、どこかの男のような、くぐもった、気持ちの悪い声に変わっていたこともあった。
再生ボタンを押したD先生の手が震えた。

そして極めつけは、「笑い声」。
出勤してきた同僚に声をかけようとした瞬間、Mさんの口から勝手に「ヒィーヒィー」とも「ヒヒヒッ」ともつかない引きつった声が漏れた。
自分の声ではなかった。
止めようとしても止まらず、しばらくはその声が口をついて出るようになった。

その現象は、D先生と一緒の時間に特に多く現れた。
男子トイレの鍵が掛かるのも、物が落ちるのも、録音が変質するのも、何かが「D先生の周囲」で始まり、彼が異動してから止まった。
一見穏やかで冗談好きな人柄だったが、D先生は「自宅にも幽霊がいる」と軽く話していた。
彼自身が媒介なのか、それとも、何かを“連れて”来たのかは分からない。

小さな女の子が言った「黒い人が玄関を開けてくれた」という話も、鍵の掛かっていた玄関の現実を前にすれば、冗談では済まない。
玄関のカーテンは逆向きに開いていたという。
本来、片側にしかスライドしないカーテンだった。

終盤、もっともMさんの神経を削ったのは、「D先生そっくりな人」が現れた出来事だった。
怒った顔、二匹のリスのエプロン。
明らかにD先生だった。
しかし本人は別の場所から現れた。

――じゃあ、窓の向こうで子供を睨みつけていたあの“D先生”は、誰だったのか。

その後、本部の指示で“お祓い”が行われたが、Mさんたちが連れて行かれたのは見知らぬ家。
そこに飾られていたのは、例の亡くなった支援員の遺影だった。
彼女の家だったのかは、はっきりしない。

やがて時が流れ、Mさんは別の学童に異動。
D先生は再びX学童に戻った。

そうして、再び男子トイレに鍵がかかり始めたという。

ある先生は言ったという。
「人間のほうが、幽霊よりずっと怖いよ」

けれどMさんは、今も心のどこかで思っている。
――いや、あれは、どう考えても“人間”ではなかったと。

[出典:49 :本当にあった怖い名無し:2022/01/10(月) 16:04:41.39 ID:77SyPtNh0.net]

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