自分の地元はかなりの田舎で、耳の遠いじいちゃんやばあちゃんがたくさん住んでいるような場所だ。
そんな地元では、8月と12月に「一二様」という行事が行われる。普段は地域の行事に参加しない足の悪いばあちゃんも、この日だけは俺に休みを取らせて車で送迎を頼んでくる。
今回も「8月3日の一二様のお祭りに行きたいから休みを取ってくれ」と頼まれた。その日はたまたま仕事が休みだったので、送り迎えをすることにした。
当日、ばあちゃんを車に乗せて「一二様のお祭り」が行われる公民館近くの祠へ向かった。道中、俺はばあちゃんに聞いた。
「一二様のお祭りってなんなの?」
するとばあちゃんは地元の方言でこう答えた。
「おまん、一二様知らんがぁか。一二様ってのはこの地域の神様だすけ。こうやってお参りに行くがど。」
俺はばあちゃんの答えに少し呆れながらも、こう言った。
「足も悪いんだから無理して出なくてもいいんじゃないの?今日は休みだったからいいけど、俺だってそんな毎回都合よく休み取れるわけじゃないんだよ?」
ばあちゃんは怒ってこう言い返してきた。
「あったかさ!(馬鹿もの)…一二様にお参りしねーとバチあたらぁど!」
そんなやりとりをしている間に公民館の駐車場に到着した。ばあちゃんは「終わったら電話するすけ、携帯持っとけなぁ」と言い残して祠へ向かった。
2時間後、ばあちゃんから電話が来た。
「迎えに来てほしい」という内容だったが、声に元気がないのが気になった。
公民館の駐車場に行くと、ばあちゃんが近所のおじいちゃんやおばあちゃんと話をしていた。みんな青ざめた顔をしていて、奇妙な空気が漂っていた。
暑さで溶けそうだった俺は、急いで帰りたい一心で「迎えに来たぞ、乗って」とばあちゃんに声をかけた。ばあちゃんは挨拶を済ませて車に向かってきたが、どこか後ろめたい表情をしていた。
帰りの車中、俺は「何があったんだ?」とばあちゃんに尋ねたが、ばあちゃんは答えなかった。しつこく問い詰めると、ようやくぽつりとこう言った。
「御神体が…なかったんど。」
俺は一瞬肩透かしを食らったような気分になった。「そんなことか」と安堵したが、ばあちゃんは続けた。
「確か40年前だったかや。前にも御神体がなくなったことがあったんど。その年の12月の一二様の日かねや、集落の小野寺さんが失踪したんど。それでな、最後に目撃されたのが祠の近くだったってがぁだ。警察も探したんだけど、とうとう見つからなかった。ただ不思議なことに、御神体はちゃんと祠に戻ってたんど。」
俺は思わず聞き返した。
「じゃあ、また誰かいなくなるの?」
ばあちゃんはそれ以上何も言わなかった。
あと2ヶ月で12月の一二様の日がやってくる。それまでに何が起きるのか、ばあちゃんは何を知っているのか。その答えは、まだわからない。
[出典:258:田舎の名無し2013/10/03(木)21:58:33.62ID:YqfvpVvW0]