ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ ほんとにあった怖い話

旧日本軍の遺物 r+5471

更新日:

Sponsord Link

軍霊の涙

これは、元自衛隊員の男性が語ってくれた話だ。

彼が自衛隊に入隊したのは高校を卒業してすぐのことだった。入隊直後は忙しい日々の連続だったが、七月のある日、駐屯地内の資料館の掃除を命じられた。資料館には旧日本軍に関する展示物が並び、その多くが歴史的価値を持つ品々だという。駐屯地祭で一般開放されるため、その準備の一環としての掃除だった。

「歴史とか興味なくてさ、正直気が重かったんだ。でも、戦闘訓練とかよりラクでいいかな、って思ったぐらいだったんだよね」と彼は言う。
同期の中には軍事オタクの者もいて、掃除そっちのけで興奮気味に展示物を眺めていたが、彼自身はただ淡々と作業を進めていた。

掃除が始まると、彼はショーケースの中を任された。ケースの奥に古びた手紙のようなものがあった。ラップで丁寧に包まれているそれを手に取った瞬間、何かがおかしくなった。薄汚れた紙には、かろうじて文字が残っているが、読み取れるほど鮮明ではない。だが、その時、説明できない感情が彼を襲った。

――ただ涙が止まらなかった。

読み取れない文字の羅列を目にしただけで、込み上げる悲しみが身体を支配し、涙が滝のように流れた。涙を拭く間もなく、彼の心はどこか遠く、別の世界へ引きずり込まれるような感覚に囚われたという。その後の記憶は途切れていて、次に気が付いた時には医務室のベッドの上だった。

「お前、何やったんだ?」
復活した彼は、別班の班長に呼び出され、問い詰められた。班長は心霊的な現象に詳しい人物だったようで、彼の身に起こった不可解な出来事について真剣に調べたかったらしい。

班長の話では、演習場の一部や資料館の展示物の中には、旧日本軍に関連する「何か」が日常的に存在しているという。そうした霊的な存在が新人の心に干渉することも珍しくないらしい。だが彼自身には幽霊を見る能力も信仰心もなく、どうして涙を流したのか、なぜあんな感情に支配されたのか、自分でも説明できなかった。

後に聞かされた話では、彼が触れた手紙は、特攻隊員が家族に宛てた最期の手紙だったという。その特攻は不発に終わり、彼の命は無駄に消えた。提供した遺族にとっては悲劇そのものの証拠だったのだ。

班長はこう言ったそうだ。
「お前がもし、手紙にちょっかいでも出してたら、確実に取り憑かれてたな」
冗談めかして笑ったその顔が妙に真剣だったのが忘れられないという。

同期会でこの話をするたびに、彼は少しだけ慎重になるそうだ。何も知らないまま無闇に触れてはいけないものが、この世には確かにある、と。

そして何より、あの手紙に触れた瞬間に溢れた涙が何を意味していたのか――その答えだけは今も分からないままだ。

[出典:775 :本当にあった怖い名無し:2011/06/18(土) 08:30:27.05 ID:YRHnQlpi0]

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, ほんとにあった怖い話

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2025 All Rights Reserved.