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大学の女子寮 r+3404

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これは、母親が学生だった頃に体験したという、不思議な出来事の話だ。

舞台は、約30年前の地方都市。彼女が通っていた大学の女子寮がその現場だった。

母は当時、H県のM大学に通い、寮生活を送っていた。古びた木造の建物は昭和の香りが色濃く残り、廊下に並ぶフローリングのひび割れや、しんと冷えた空気感が、どこか異様な雰囲気を漂わせていた。寮生活の規則は厳しく、先輩と後輩が同室で生活するという独特の形式だったという。

母にはわずかながら霊感があった。ただ、霊を見たり会話をするほどの強い力ではなく、なんとなく気配を感じ取れる程度だ。そんな母が、夏の前期試験を控えたある夜、不思議な出来事に巻き込まれることになる。

その日は夜遅くまで一人で勉強していた。部屋の薄暗い蛍光灯が書きかけのノートを照らし、寮全体が深夜の静寂に包まれていた。他のルームメイトたちは、研究室や友人の部屋で勉強中で、部屋に戻る様子もなかった。

ふと気づくと、部屋の隅に二人の子供が立っていた。5~7歳くらいの、仲睦まじそうな姉弟だ。
「お姉ちゃん、遊ぼうよ」と、少女が母に声をかける。どこか人懐っこい表情を浮かべていた。
寮母の子供たちだろうと考えた母は、勉強の手を止めることなく、机の端に紙とペンを差し出した。「これで遊んでて」と軽くあしらうと、子供たちは机の空いたスペースで楽しそうにお絵描きを始めた。静かな部屋に、クレヨンが紙を滑る音が響く。

しばらくして顔を上げると、子供たちも紙も消えていた。ペンだけが、ぽつんと机の上に残されている。寮母の子供たちなら戻っていったのだろう。そう思い、深く考えることなく勉強を再開した。

それから数日、夜になると子供たちは繰り返し現れた。母が一人でいるときに限り、「遊んで」とせがむ姉弟。紙とペンを渡せば、机の片隅で仲良くお絵描きを始めるのが常だった。母はその状況を不思議とは思わなかったという。試験勉強に追われ、集中していたせいかもしれない。

だが、最後に二人が現れた夜、状況は一変した。

その日も姉弟は「お姉ちゃん、遊ぼうよ」と母に話しかけた。
いつも通り紙とペンを渡そうとした母だったが、少女が母の机の脇を指差して言った。
「一緒に行こうよ。ここから。」

指差した先には、見慣れた白い壁があるはずだった。だがそこには、ぽっかりとした黒い空間が開いていた。どこまでも吸い込まれそうな闇が広がっている。
なぜか、その異常な光景を見ても恐怖は湧いてこなかった。ただ「忙しいから行けない」と言い、再び机に向き直った。姉弟は少し拗ねたような顔をしていたが、やがて姿を消した。それを最後に、二人が現れることはなくなったという。

後日、母は寮母にそれとなく「お子さんはいくつくらいでしたっけ?」と尋ねた。だが、返ってきたのは予想外の答えだった。寮母に子供などいないというのだ。
母が友人たちにこの話をしても、「試験勉強で疲れてたんじゃない?」と流されてしまったが、母自身はあの黒い空間についてこう語る。
「あれは『向こう側』だったのだろう。もしついて行っていたら、私は今ここにいなかったかもしれない。」

机の上が不自然に広がっていたことも、姉弟の存在感が現実と変わらなかったことも、すべてが不気味だ。そして母の最後の言葉が、妙に胸に引っかかる。

「試験勉強のおかげで助かったのよ」と笑う母の顔は、どこか冷ややかで、少し遠くを見つめているようだった。

(了)

[出典:534 :本当にあった怖い名無し:2017/05/02(火) 15:16:49.30 ID:/bacVAp48]

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