自分が小さい頃に通っていた保育園。
今、その保育園で、昔の友達が働き始めた。久しぶりに会ったそいつと、酒を飲む機会があった。話してるうちに「そういや、あの頃の担任の先生、まだ働いてるよ」って聞かされて、なんか無性に懐かしくなってさ。自分の小さかった頃の話、聞いてみたくなったんだ。
気まぐれで誘った飲み会、担任の先生も来てくれて、懐かしい顔ぶれに酒が進んだ。思い出話に花が咲いて、楽しかった……はずだった。最初は。
「〇〇って、あの頃さ……雨の日、変だったよな」
友達がふと口にした。
「何が?」と聞き返すと、「いや……外で遊べない日はさ、一人で、ずっと部屋の隅っこで『あやとり』とか『人形遊び』してたろ?」
そんな記憶、全然ない。
俺、男ばっかの三人組で、毎日走り回ってサッカーとか鬼ごっことかしてたはずだ。保育園も、放課後も、休日も、四六時中つるんでた。
「そんなキャラじゃないし、混ざれば良かったじゃん?」って笑いながら言ったら、友達が真顔になって返してきた。
「いや……あの時、お前、誰かと遊んでる雰囲気だったから。小さいながらも、なんか気味悪くて、混ざれなかった」
冗談にしては口調が重すぎた。担任の先生もそれに頷いて、「確かに、あれは不思議だった。雨の日だけは妙に大人しかったから、放っておいた」って。
……俺、そんなだったか?
さらに聞いた話が気味悪かった。
雨の日の夕方、他の子は親が次々迎えに来て帰るけど、うちは大体最後だったらしい。その時間になると、俺は『おままごと』を始める。先生が近づくと、ものすごく怒るから、誰も近づけなかった。
「相手、誰だったの?」って聞いたら、先生も友達も口を濁した。
「いや、ひとりで……何人かと会話してる感じだった」
正直、怖くなってきた。
その記憶、ほんとに一切ないんだ。
その後、家に帰って、気になって親にも聞いてみた。
そしたら、また訳のわからん話が返ってきた。
小学校に上がっても、雨の日になると変だった、と。
授業中、突然立ち上がって校庭に出ていって、『お花屋さんごっこ』や『鉄棒』『バスケ』を始める。相変わらず誰かと楽しそうに喋りながら。
先生から何度も苦情が来たらしく、母は精神科にも連れて行った。けど、異常は見つからなかった。むしろ医者のほうが「子供にはよくある」とか言って話にならなかったらしい。
これが小学校二年の夏まで続いた。
そして、秋――うちは引っ越して別の市へ。新しい小学校に転校した途端、その奇行はぱたりと止まったそうだ。
でも、やっぱり俺にはまったく記憶がない。まるで他人の話を聞いているみたいだった。
そんなことがあったんだって、笑い話のつもりで受け止めていたんだ。
「まじ俺ガイジだったな」って、自分でも笑ってた。
……最近までは。
今、自分には三歳になる娘がいる。
あの日も雨が降っていた。普段は外に出たがらないくせに、雨の日に限って玄関を開けて出て行こうとする。
「どこ行くの?」と聞いても、返事はない。
ただニコニコしながら、庭に出て行く。レインコートも着ず、長靴も履かず。
後をつけてみた。
花壇の前でしゃがみこんで、何かを並べてる。
枯れた雑草や泥だらけの石ころを並べて、「いらっしゃいませー」とか言ってる。
『お花屋さんごっこ』……?
背中がゾッとした。
名前を呼んでも、振り返らない。視線の先、誰もいない空間に向かって、楽しそうに話してる。
……俺と関係あるのか?
遺伝なのか?
それとも、あれは――
俺に、ついてきてる……?
[出典:493 :本当にあった怖い名無し:2020/07/19(日) 19:27:57.97 ID:Cpw61/uO0.net]