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三角屋敷 r+5,085

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物心ついたころには、すでにその家はあった。

いつ建ったのかもわからない。ただ、あぜ道を歩いて学校へ通う毎日の中に、それはずっと風景の一部として立っていた。
田んぼが削られ、新しい家が並び、川が整備され、昔ながらの土の匂いが少しずつ薄れていく。そんな新興住宅地の中に、問題の家――いまでは「三角屋敷」と呼ばれている家――は建っていた。

小学一年から五年の夏までは、その家の存在なんて特別気にもしなかった。和風建築のわりにどこか浮いて見えたが、それだけだった。ところが、大場君が転校してきた夏以降、状況は変わった。彼がその家に住むことになって、はじめて僕は「家B」の存在に気づかされたのだ。

その話をする前に、向かい側の「家A」のことを語らなければならない。あれを知らずに「家B」の奇妙さを説明しても、ただの噂話にしか聞こえないだろうから。

家Aの玄関を開けると、わずか一メートル先に小さな祠が立っている。門と玄関の間、まるで家の出入りを遮るような位置に。普通の一戸建てなのに、ど真ん中に祠。異様としか言いようがなかった。土地の古い住人が、田んぼの上に新しい家を建て直したとき、敷地にあった地蔵をどこかに移した。それが原因だったらしい。
新しい家は何事もなく完成し、そこで暮らしが始まった。だが、ある日を境に家の中から赤ん坊の泣き声が響くようになったのだ。夜も昼もなく、四六時中。近所の誰もが赤ん坊の存在を耳にし、音の出所を探した結果、声は家Aの地下から聞こえてくるとわかった。いくら祓っても効果はなく、結局「地蔵を元の場所に戻せ」と霊能者に言われ、慌てて祠を家の前に据え直したという。
以来、家Aは僕ら子どもたちの間で「赤ん坊の家」として恐れられる存在になった。

けれども本当に異常だったのは、むしろその向かいに建っていた家Bだった。

大場君が引っ越してきたのは五年生の夏だった。彼は明るい性格で、すぐに友達になった。だが彼の家――家B――には、どこか影がつきまとっていた。彼の母親の表情はいつも疲れ切っていて、言葉にしない何かを背負っているように見えた。転校してきて一ヶ月もしないうちに、大場君の一家は再び引っ越していった。理由もわからないままに。

その冬、僕自身も別の土地へ移った。友人たちとも自然と疎遠になり、家Bのことも忘れてしまった。
ところが先日、幼馴染の木内の結婚式で十年ぶりに故郷に戻り、再会した時に、あの記憶は再び呼び起こされた。

宴の席で僕が何気なく「まだあの祠の家はあるんだな」と口にした瞬間、木内は不意に目を細めてこう言った。
「地蔵の家もだけど……向かいの家、覚えてるか?」
僕は即座に大場君の家のことを思い出した。「すぐ引っ越したよな」
木内はうなずき、「理由、知ってるか?」と問うてきた。僕は首を振った。

木内の話はぞっとするものだった。
大場君の家だけでなく、その後も入居した家族は次々に出て行き、十年ほどで十世帯以上が入れ替わったという。原因はただひとつ。そこに住むと、人ならざるものを見てしまうからだ。老婆が廊下を徘徊し、庭には知らない少女が佇み、屋根には男が立って外を見下ろす。誰かが、いつも、どこかにいる。大場君の母親は精神を病んでしまい、耐えられなくなって逃げ出した。
ボヤ騒ぎも三度起きた。どれも原因不明。
お祓いも何度となく行われたが、一向に収まる気配がなかった。テレビ局が取材に来て霊能者を呼んだこともあったらしいが、家に入る前に霊能者が倒れ込み、そのまま企画は中止になったという。

「何でそんなことが起きるんだ?」と僕が問うと、木内は肩をすくめた。
「誰にもわからん。ただ事実として、あそこには人が定着しない。俺も見たんだ。窓に何人も立って、俺を見てるのを」
彼は声を潜め、「あの家、今は三角屋敷って呼ばれてるんだ」と告げた。土地の形が三角形で、いかにも歪んでいるかららしい。「今も空き家だよ。帰る時に見てみろ」

式の帰り道、好奇心に勝てず家Bの前に立ち寄った。
県道沿いに建つその家は、正面を土嚢で固められ、入口すら塞がれていた。見るからに異様で、あの頃と同じ気味の悪さを放っていた。近づく勇気はなかった。

その時、ふと忘れていた記憶がよみがえった。小学生の頃、集団下校の最中、僕は確かに見ている。家Bの屋根の上に、何人もの人影が立ってこちらを見下ろしていた。そいつらはゲラゲラ笑いながら僕らを見ていたのだ。友人たちと一緒に泣きながら走って逃げた。長い間、あれは夢か勘違いだったと思っていた。だが、木内の話を聞いて、それが事実だったのだと悟った。

帰路につきながら、僕は振り返らなかった。背後にあの笑い声がついてくる気がしたからだ。

[出典:319:2005/02/12 01:04:26 ID:yLlZQABK0]

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