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向かいに建っていた家 rcw+5,522-0107

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物心ついたころには、すでにその家はあった。

いつ建ったのかは誰も知らない。少なくとも、僕が小学校に上がる前から、あぜ道の先にそれは立っていた。田んぼを埋め立て、川を直線に引き直し、新しい分譲住宅が少しずつ増えていく中で、その家だけが取り残されたように、風景の奥に居座っていた。

和風建築だった。瓦屋根で、古くも新しくもない。だが周囲が変わっていくほどに、そこだけ時間の流れが歪んでいるように見えた。いつからか、近所ではその家を「三角屋敷」と呼ぶようになった。理由は曖昧で、土地の形が三角形だという者もいれば、家の造りそのものがどこか歪んでいるからだと言う者もいた。

小学校一年から五年の夏までは、その家を特別に意識したことはなかった。視界に入っても、ただそこにあるだけの建物だった。異変が起きたのは、大場君が転校してきてからだ。

その前に、向かい側に建つ家の話をしておかなければならない。僕らが「家A」と呼んでいたその家は、玄関を開けると一メートルほど先に小さな祠が置かれていた。門と玄関の間を塞ぐような位置で、通るたびに身体をよじらなければならない。普通の一戸建ての敷地のど真ん中に祠がある光景は、子ども心にも異様だった。

噂では、その土地に元々あった地蔵を、家を建てる際に別の場所へ移したのが原因だと言われていた。新しい家が完成してしばらくは何も起きなかったが、ある日を境に、家の中から赤ん坊の泣き声が聞こえるようになったという。

昼夜を問わず、途切れることなく。近所中が気づき、誰もが耳を澄ませた結果、声は地下から響いているとわかった。何度祓っても収まらず、最後に霊能者が「戻すしかない」と言い、地蔵を敷地内に戻して祠を建てた。泣き声はそれで止んだ。

因果ははっきりしていた。触れてはいけないものに触れ、元に戻したら収まった。それだけの話だ。だから家Aは恐れられはしたが、どこか納得できる存在でもあった。

本当におかしかったのは、その向かいにある家Bだった。

大場君が引っ越してきたのは五年生の夏だ。明るく、人懐こく、すぐにクラスに馴染んだ。放課後に一緒に遊び、彼の家にも何度か行った。だが、家の中はどこか落ち着かなかった。家具の配置が頻繁に変わり、カーテンは昼間でも閉められていることが多かった。彼の母親は常に疲れた表情で、視線が定まらない。こちらを見ているようで、背後を見ているようでもあった。

転校してきてから一ヶ月も経たないうちに、大場君の一家は姿を消した。理由は聞かされなかった。急な引っ越しだった。

その冬、僕自身も別の土地へ移った。友人たちとの付き合いは自然と途切れ、家Bのことも記憶の奥に沈んでいった。

十年後、幼馴染の木内の結婚式で久しぶりに故郷へ戻った。酒が進み、昔話になった時、僕は何気なく口にした。「まだ、あの祠の家はあるんだな」

木内は少し黙り込み、視線を落としてから言った。「地蔵の家もだけど、向かいの家、覚えてるか」

すぐに思い出した。「大場君の家だろ。すぐ引っ越した」

木内はうなずいたが、その表情は硬かった。「あそこな、その後も誰も長く住んでない」

聞けば、十年ほどの間に十世帯以上が入れ替わっているという。だが入居期間はどれも短く、理由は揃って曖昧だった。ただ、住み始めてしばらくすると、家の中で「誰かを見る」と言い出す。

廊下に立つ老婆。庭の端に佇む子ども。屋根の上から覗き込む影。だが証言は一致しない。人数も、姿も、立っている場所も、微妙に違っていた。共通しているのは「いつも見られている」という感覚だけだった。

ボヤ騒ぎも何度か起きたが、原因は特定されなかった。お祓いも行われたが、何が変わったのか誰にもわからない。ある時は霊能者を呼んだが、敷地に入る前に体調を崩し、詳しい話は残らなかった。

「俺も見た」と木内は言った。「夕方、窓に人が立ってた。何人いたかは覚えてない。でも全員、俺の方を見てた」

三角屋敷という呼び名も、その頃から定着したらしい。土地の形だと言う者もいれば、別の理由を囁く者もいたが、どれが正しいのかは誰にもわからなかった。

式の帰り、僕は家Bの前に立ち寄った。正面は土嚢で固められ、入口は塞がれていた。人が住む気配はない。それでも、家はまだそこにあった。

その時、忘れていた記憶が浮かび上がった。

小学生の頃、集団下校の途中で、確かに見ている。屋根の上に人影が並び、こちらを見下ろしていた。笑っていたのか、口を開けていただけなのかは思い出せない。ただ、見られているという感覚だけが強烈に残っている。僕らは泣きながら走って逃げた。

長い間、あれは夢だと思っていた。だが、木内の話を聞き、違うとわかった。夢だったのなら、あの家は今もそこにある必要がない。

帰り道、僕は振り返らなかった。理由は説明できない。ただ、視線を向けた瞬間に、何かが完成してしまう気がしたからだ。あの家は、人が住まなくなっても、見続けることだけはやめていない。

[出典:319:2005/02/12 01:04:26 ID:yLlZQABK0]

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