ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026 オリジナル作品

最後のオナカマ iwa+

更新日:

Sponsord Link

山形の内陸、雪に閉ざされる町に、最後のオナカマがいると言われていた。

「もうやめたはずだ」と皆が言う。だが、人が死ぬと、夜中にだけ灯りがともる家がある。呼ばれた家族しか、その戸を叩けない。

祖母が亡くなった冬、母は眠らなかった。葬儀が終わっても、何度も同じ言葉を繰り返した。「まだ何かあるはずだ」と。

私は止めた。死んだ人間が喋るはずがない。だが母は、雪の上に足跡をつけて歩いた。

町外れの古い家だった。表札はない。戸を開けると、畳の部屋に火鉢がひとつ。白髪の女が奥に座っていた。皺は深いが、目は澄んでいる。

「誰を呼ぶ」

母が祖母の名を告げると、女は頷いた。

鈴が一度鳴る。女は目を閉じる。呼吸が浅くなり、やがて背筋が反る。

低い声が、喉からこぼれた。

「……寒い」

祖母の口癖だった。母が泣き出す。

「畑の道具は、納屋の奥だ」

母が何度も頷く。私は動かなかった。祖母は生前、納屋の話をしていたのだろう。母が口にしたのかもしれない。そう考えた。

次の瞬間、女の顔がこちらを向いた。目は閉じたままだ。

「見ていたな」

胸がひやりとした。

「川の堤で」

それ以上は言わなかった。

小学生のころ、堤防でふざけた。背中に触れた記憶がある。祖母は転んだ。膝を打った。私は何も言わなかった。

女の喉が引きつり、声が途切れる。

「来ている」

線香の煙が、天井へ上がらず、床へ沈んだ。火鉢の灰が舞い、女の体が崩れ落ちる。

しばらくして、女は目を開いた。

「今のは、呼んだ人ではない」

母が息を呑む。

「呼ばれれば、来る。だが、呼ばれなくても、来るものがある」

女は私を見た。

「戸を叩いたのは、誰だ」

その夜、私は何も答えられなかった。

翌日、母は納屋の奥から農具を見つけた。祖母は生前、場所を伝えていたという。私は聞いていなかっただけらしい。

数日後、オナカマは倒れた。あの日以来、口寄せはしていないという。

それでも、夜になると、あの家の戸を叩く音がするという話がある。雪のない夜でも、濡れた足跡が残るという。

私はまだ夢を見る。堤防の上。背中に触れた自分の手。振り向く前の、祖母のうなじ。

あのとき、押したのかどうか、思い出せない。

ときどき、部屋の戸が鳴る。

私は開けない。

開けなくても、誰かは入ってくる。

呼んでいないのに。

[出典:志那羽岩子 ◆PL8v3nQx6A]

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2026, オリジナル作品
-, ,

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.