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壺の中の借金《月うさぎ5》 iwa+

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おばあちゃんのことを書きます。

あまり書きたくないです。
でも、たぶん、ここまでの話と関係があると思います。

先週、おばあちゃんが急に亡くなりました。
家で倒れて、そのままでした。

通夜も葬式も終わりました。
白い花と、笑っている遺影。
そこだけ切り取られたみたいに、きれいでした。

でも家に戻ったら、リビングの空気が変でした。
重いというより、沈んでいる感じです。

棚の上に、あの壺がありました。
ずっと前からあった壺です。
つやつやしていて、少しだけ光を吸い込むみたいな色をしています。

誰も触りませんでした。
片づけようという話にもなりませんでした。

数日後、父と母が小声で言い合っているのを聞きました。

「なんでこんなになるまで黙ってたんだ」
「返せる額じゃない」

数字ははっきり聞こえました。
家が一つ建つくらい。

あとで分かりました。
おばあちゃんは、あの集まりに長い間お金を出していたそうです。
壺や印鑑を何度も。
「これで家系が守られる」と言われて。

借りてまで払っていたみたいです。

その夜、リビングで音がしました。

カン、と乾いた音。
金属がぶつかるみたいな。

壺のふたが、少しずれていました。

家族は誰も触っていません。
私は、触っていないはずです。

近づくと、あの匂いがしました。
濡れた鉄みたいな匂い。

中を見ないほうがいいと分かっていました。
でも、のぞきました。

暗くて、何も見えませんでした。
ただ、奥のほうで、ざら、と音がしました。

砂を少しだけ動かすような音。

そのとき、後ろで声がしました。

「まだ」

振り向くと誰もいません。
でも声は、知っている声でした。

やさしい声です。
怒っていませんでした。

「もう少し」

それだけでした。

次の日、父が通帳を机に並べていました。
赤い数字が続いていました。

その横で、机の端に丸いしみができていました。
黒っぽくて、じわっと広がるしみです。

拭いても消えませんでした。

私は、その丸を見ていて、思いました。

印鑑の跡に似ていると。

夢を見ました。

白い部屋に、壺が並んでいます。
どれも同じ形で、少しだけふたが開いています。

中は見えません。

ただ、全部の壺から、同じ声がしていました。

「まだ」

目が覚めたとき、手のひらが熱くなっていました。
前に押された印鑑の跡が、うっすら浮いていました。
消えたはずなのに。

最近、家の人数を数えるのをやめました。

四人のはずなのに、どうしても数が合わない日があります。

足りないのか。
多いのか。

どちらなのか分からなくなるからです。

借金は、お金のことだと思っていました。

でも、夜中にリビングで音がすると、
あれは数字じゃなかったんじゃないかと思います。

払うものが、まだ残っている気がします。

誰が払うのかは、聞いていません。

でも、壺のふたは、
今も少しだけ、ずれています。

[出典:608 :月うさぎ ◆x7J8mY2Q:2004/05/28(金) 23:42:26 ID:Zq3mLpXs]

[投稿者:志那羽岩子 ◆PL8v3nQx6A]

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