インターネットという広大な海で偶然出会った、八人の若い男女。
画面越しの文字だけでは足りなくなり、彼らは実際に会う約束をした。
最初の顔合わせの場所は、誰の提案だったのか思い出せないが、遊園地に決まっていた。
約束の日、駅前の広場には七人が集まった。
互いに顔を知らないはずなのに、なぜか誰が誰かすぐに分かった。
一人だけ来ていない。
ハンドルネームは「タケシ」。
「もう七人で行こうか」
誰かが言いかけたとき、少し離れた植え込みの横に、男が立っていた。
最初からそこにいたような顔で。
「タケシさんですか?」
「ええ。行きましょうか」
それだけ言って、男は歩き出した。
七人は、なぜか彼を疑わなかった。
遅刻した理由も、どうして誰も気づかなかったのかも、誰も聞かなかった。
遊園地では、笑った。
写真も撮った。
ジェットコースターで叫び、お化け屋敷で肩を掴み合った。
タケシは、笑っていた。
画面の向こうより静かで、しかし誰よりも自然にそこにいた。
途中で、誰かが言った。
「やっぱり八人いると楽しいね」
誰も数え直さなかった。
閉園の音楽が流れた。
解散しようとしたとき、タケシが言った。
「同じ方向の人、送りますよ。車なので」
カズオと杏子が手を挙げた。
ほかの五人は電車で帰った。
車は古かったが、内装は異様なほどきれいだった。
生活の匂いがしない。
市街地を抜けると、急に静かになった。
街灯が途切れ、林が続く。
やがて、ヘッドライトに石の地蔵が浮かび上がった。
ひとつ、ふたつではない。
延々と並んでいる。
どれも顔が欠けている。
目がない。
口が割れている。
杏子が小さく息を呑んだ。
「この辺、出るらしいですよ」
タケシが言った。
「なにが?」
「出るんです」
それ以上は続かなかった。
車は走り続ける。
ガソリンスタンドの灯り。
自動販売機の白い光。
数分後、また同じ灯りが現れた。
「……さっきも通りましたよね?」
「一本道ですから」
タケシは穏やかに言った。
「曲がっていません。戻るはずがないでしょう」
バックミラー越しに目が合う。
瞬きをしていない気がした。
やがて彼は、カセットテープを取り出した。
「録音なんです」
再生ボタンを押す。
音はしない。
ただ、回転する機械音だけ。
「留守中の家で、回しておいたんです。
誰もいない部屋で。
誰かが話していないかと思って」
「……何も聞こえないよ」
「ええ」
タケシは言った。
「今も、聞こえないでしょう?」
そのとき、杏子が叫んだ。
窓の外。
また地蔵が並んでいる。
同じ欠け方。
同じ割れ目。
「止めて!」
カズオが叫ぶと、車は静かに停まった。
二人は転がるように外へ出た。
振り向くと、車はすでに走り去っていた。
林はない。
地蔵もない。
遊園地の観覧車が、遠くでゆっくり回っていた。
閉園後の、暗い園内。
二人は無言で駅へ向かった。
その間、一度も後ろを振り返らなかった。
翌日、グループチャットに写真が上がった。
八人で並んだ集合写真。
カズオは数えた。
一、二、三、四、五、六、七、八。
中央にタケシがいる。
その隣に、もう一人、知らない男が写っている。
誰もそのことに触れない。
「昨日は楽しかったね」
「また集まろう」
メッセージが続く。
カズオは打ち込んだ。
『昨日、タケシの車に乗ったの、俺と杏子だけだよな?』
既読が七つ付いた。
誰も返事をしない。
しばらくして、タケシから音声ファイルが送られてきた。
再生時間は二分三十秒。
再生した。
最初は無音。
やがて、車内の音が聞こえる。
エンジン音。
微かな衣擦れ。
そして、後部座席から自分の声がした。
「……止めろって言ってるだろ」
そのあと、もう一つ、知らない声が重なる。
「まだ八人いる」
誰の声か分からない。
だが確かに、自分たちのすぐ後ろから聞こえている。
ファイル名は
「昨日の続き」。
チャットの参加人数は、いまも八人になっている。
誰も退会していない。
タケシのアイコンは灰色のまま、
ずっと「オンライン」表示のまま動かない。
杏子から個別メッセージが届いた。
『あの写真、拡大した?』
拡大した。
観覧車の下、ガラス越しの暗闇に、
こちらを見ている八人目が立っている。
自分を数え直す。
一、二、三、四、五、六、七。
画面の中で、もう一人が瞬きをした。
[出典:213 名前:あなたのうしろに名無しさんが…… 投稿日:01/12/04 16:23]