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虚ろなオフ会、招かれざる第八の客 r+2,759

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インターネットという広大な海で偶然出会った、八人の若い男女。

画面越しの文字のやり取りだけでは飽き足らず、彼らはついにオフラインでの邂逅を果たすことになった。ほとんどが互いに顔も知らない者同士。一抹の不安を抱えつつも、高揚感がそれを上回っていたのだろう。話し合いの末、最初の顔合わせの場所として、誰もが気兼ねなく楽しめるであろう、賑やかな遊園地が選ばれた。

約束の日。指定された駅前の広場には、期待と緊張の入り混じった面持ちの参加者たちが、一人、また一人と姿を現し始めた。しかし、オンライン上ではムードメーカーとして知られていた「タケシ」というハンドルネームの男だけが、予定の時刻を過ぎても一向にやって来ない。痺れを切らした誰かが、「もう七人で行ってしまおうか」と口にした、まさにその時だった。ふと気づくと、少し離れた場所に、いつの間にか一人の若い男が、まるで最初からそこにいたかのように佇んでいる。

「もしかして、タケシさんですか?」

誰かが恐る恐る声をかけると、男は「ええ、そうですけど。じゃあ、行きましょうか」と、どこか他人事のような、妙に芝居がかった口調で短く答え、おもむろに立ち上がった。そのあまりにも不自然な言動に、一瞬、誰もが怪訝な表情を浮かべた。しかし、その時の彼らは、早くこの気まずい待ち合わせの時間を終わらせたいという焦燥感に駆られており、その些細な違和感を深く追求しようとはしなかった。

互いにぎこちない自己紹介を済ませると、一行は足早に遊園地へと向かった。ゲートをくぐり、喧騒の中に身を置くと、最初のうちは遠慮がちだった彼らの間にも、徐々に打ち解けた雰囲気が生まれ始めた。ジェットコースターの絶叫に始まり、お化け屋敷の悲鳴、メリーゴーランドのメルヘンチックな音楽。それらは、見えない壁で隔てられていた彼らの心を、少しずつ解き放っていった。やがて、あちこちで楽しげな笑い声が上がり、彼らはワイワイと賑やかにアトラクションを巡るようになっていた。

だが、その輪の中に、一人だけ溶け込めない男がいた。タケシだ。彼は、普通に会話には参加するし、他のメンバーから話題を振られれば、そつなく反応もする。しかし、その言葉の端々や、僅かな表情の変化から、どうにも相手を見下し、小馬鹿にしているような、冷ややかな雰囲気が滲み出ているのだ。チャットや掲示板では、もっと積極的で、ユーモラスな言動で場を盛り上げるキャラクターだったはずなのに。そのリアルでの人格とのあまりのギャップに、誰もが戸惑い、不審の念を抱き始めていた。

しかし、ネット上でもタケシは、自身のプライベートな事柄については多くを語ろうとしなかったため、彼が一体どのような人物なのか、その実像を正確に把握している者は誰もいなかった。その得体の知れなさが、徐々に彼らの間に重苦しい沈黙を生み出していく。一度は盛り上がったはずの場の空気も、いつしか冷え冷えとしたものに変わり、気づけば陽は西に傾き、遊園地には閉園を告げる音楽が流れ始めていた。彼らは、なんとなく気まずい雰囲気のまま、今回はこれでお開きにしようという結論に至った。

それぞれが別れの挨拶を交わし、帰路につこうとした、その時だった。それまでほとんど口を開かなかったタケシが、おもむろにこう切り出したのだ。
「もし、僕と同じ方向へ帰る方がいらっしゃれば、車で送っていきますよ」
ほとんどの参加者は電車で来ていたが、タケシだけは車で来ており、近くの駐車場に停めているらしかった。確かに、これまでのタケシの冷めた、どこか人を食ったような態度には、誰もが良い感情を抱いていなかった。しかし、彼の言葉に甘えれば、深夜の割増料金がかかる電車賃が浮くというのも事実だ。

結局、カズオという名の気弱そうな青年と、杏子という少し内気な雰囲気の女性が、タケシの申し出を受け、彼の車に便乗させてもらうことになった。こうして、初対面の男女三人による、奇妙な夜のドライブが始まった。

タケシの車は、年季の入った中古車らしかったが、車内は意外なほどに清掃が行き届き、大切に乗られていることが窺えた。カズオと杏子は後部座席に並んで座り、タケシの運転する様子を黙って見守っていた。タケシは、変に格好をつけるようなこともなく、慎重すぎるほど安全運転を心がけているように見えた。

車は、やがて賑やかな市街地を抜け、街灯の数もまばらな郊外へと入っていく。片側二車線の、だだっ広い道だった。まだそれほど遅い時間ではないはずなのに、彼らの乗る車の他には、対向車も後続車もほとんど見当たらない。窓の外には、人家の明かりもほとんど見えず、時折、煌々と光るガソリンスタンドや、自動販売機の無機質な光が、闇の中にぼんやりと浮かび上がっては消えていくだけだ。

車内で、カズオと杏子は、今日の遊園地での出来事などを、たわいなく雑談していた。しかし、運転席のタケシは、自分からは一切口を開こうとはせず、たまに話を振られても、曖昧な相槌を打つか、ごく短い言葉で受け答えするだけだった。その沈黙が、後部座席の二人にも重くのしかかる。

ふと、窓の外に目をやると、いつの間にか、道端には暗い林が延々と続いている。そして、その林の縁に沿うようにして、おびただしい数の石の地蔵が、まるで葬列のようにずらりと並んでいるのが見えた。ヘッドライトの光に照らし出されるその光景は、ひどく異様で、不気味だった。よく見ると、それらの地蔵は、一つとしてまともな形を保っているものがない。頭部が酷く欠損しているもの、口元に深い亀裂が入り、まるで嘲笑っているかのように見えるもの、顔面が真っ二つに割れているもの……。そのどれもが、長い年月の風雪に耐えかねたのか、あるいは何者かによって意図的に破壊されたのか、おぞましい姿を晒していた。

その異様な光景に気づいたカズオと杏子は、同時に気分が悪くなるのを感じた。そして、言いようのない嫌な予感が、彼らの胸を締め付け始めた。

「この辺りは、結構『出る』そうですよ」

それまで黙り込んでいたタケシが、珍しく自分の方から、ボツリとそう呟いた。
「……出るって、なにが?」
カズオが、恐る恐る尋ねた。
「出るんだそうです」
タケシは、感情の起伏のない声で繰り返すだけだった。
「……だから、何が出るんだよ?」
カズオが再度尋ねても、タケシは何も答えようとしない。ただ、バックミラー越しに、後部座席の二人を無表情に見つめているだけだった。

「あのう……この車、もしかして、さっきから同じところをずっと走っていませんか?」
それまで黙って窓の外を凝視していた杏子が、震える声で言った。
「ほら、あのガソリンスタンドと、あそこの自動販売機……さっきも、通り過ぎましたよね?」
確かに、彼女が指差す先には、先ほど見たはずのガソリンスタンドと自動販売機の明かりが、再び闇の中から現れ、そしてゆっくりと通り過ぎていくのが見えた。

「そんなことはありませんよ」
答えたのは、タケシだった。その声は、抑揚のない、まるで機械が読み上げるような棒読み口調だった。
「この道路は、ずっと一本道ですからね。一度も曲がったりしていないのに、同じところを走れるわけがありませんよ。郊外の道なんて、どこもみんな似たような景色ばかりですからね。きっと、気のせいですよ」
タケシは、今日初めてと言っていいくらい、ペラペラと饒舌にしゃべり、そして最後に、「ヒヒヒッ……」と、低く、湿ったような笑い声を漏らした。その不気味な笑い声を聞いた瞬間、カズオも杏子も、それ以上何も言い返すことができなくなってしまった。まるで、喉に氷の塊でも詰まったかのように、言葉が出てこない。

車内には、息苦しいほどの沈黙がしばらく続いた。やがて、タケシは運転席で何やらゴソゴソと手を伸ばし、一本のカセットテープを取り出した。
「何か、音楽でもかけましょうか」
そう言うと、タケシはテープをカーステレオの挿入口へと押し込んだ。
ところが、いつまで経っても、音楽は一向に流れてこないのである。二分、三分と時間が経過しても、スピーカーからは何の音も聞こえてこない。ただ、カセットデッキが回転する、シャーという微かな機械音だけが、不気味な静寂の中に響いている。

沈黙と、得体の知れない圧迫感に耐えかねたカズオが、ついに口を開いた。
「……何も、聞こえないんだけど」
「…………」
タケシは無言だった。
「……ちゃんと、テープ入ってるの?」
「…………」
「……ねえ?」
カズオが重ねて尋ねると、タケシはゆっくりと、まるで悪魔が囁くかのように言った。
「聞こえないでしょう? なんにも」
「……ああ、まあね」
「深夜にね、家の中で、このテープをずっとまわしておいたんですよ。自分は外出してね。誰もいないはずの家の中の音を拾うように、ただひたすらテープをまわしておいたんです」
「……なんで、そんな気味の悪いことしたわけ?」
「だって、そうすれば、僕が留守の間に、家の中で『何か』が会話しているのが、録音できるかもしれないでしょう?」
「……『何か』って……一体、なんだよ……?」
「…………」
タケシは、またしても答えなかった。しかし、その時カズオは、初めて相手が答えなくて良かったと、心の底から思った。これ以上、このタケシという男と会話を続けてはいけない。本能が、そう強く警告していた。

するとその時、隣に座っていた杏子が、突然甲高い悲鳴をあげた。
「いやあああああっ!」
彼女が指差す窓の外には、またしても、あの不気味な石の地蔵の列が、闇の中に延々と続いていたのだ。

「おい、車を止めろ!」
カズオが、我を忘れて叫んだ。しかし、タケシは何も言わず、ただ前を見据えたままアクセルを踏み続けている。
「止めろって言ってるんだ!」
カズオが、今度は運転席のシートを掴んで、さらに声を張り上げた。すると、タケシはゆっくりとブレーキを踏み、車は静かに路肩に停止した。カズオと杏子は、もはや一刻の猶予もないとばかりに、転がるようにして車から降りた。

彼らが降りたのを確認すると、タケシの車は、まるで何事もなかったかのように静かに再発進し、あっという間に闇の中へと遠ざかっていった。

後に残されたカズオと杏子は、ぜえぜえと荒い息をつきながら、茫然と辺りを見回した。そして、二人は互いの顔を見合わせ、顔面蒼白になりながら、ぶるぶると震え出した。
そこには、先ほどまで見ていたはずの、おびただしい数の石の地蔵など、どこにも存在しなかった。それどころか、驚くべきことに、彼らが立っていたのは、数時間前にみんなで遊んだ、あの遊園地のすぐ近くだったのだ。一本道をずっと走り続けていたはずなのに、一体どうやってここに戻ってきたのか、全く見当もつかない。

そして、不可解なことは、それだけではなかった。
後日、他のオフ会参加者に連絡を取って、あの日のタケシの行動について尋ねてみたところ、さらに信じられない事実が判明した。なんと、本物のタケシは、待ち合わせの時間を一時間も間違えて駅前の広場へ来てしまい、誰もいないことに気づいて、そのまま一人で帰ってしまったというのだ。

だとしたら、あの日、彼らと一緒に遊園地で過ごし、そしてカズオと杏子を恐怖のドライブへと誘った、あの不気味な男は、一体何者だったというのだろうか?

さらに後日、カズオは仕事の都合で、あの夜のドライブとほとんど同じ道を車で辿る機会があったという。しかし、その道路のどこを探しても、おびただしい数の石の地蔵が並んでいるような場所は、ただの一箇所も見当たらなかったそうだ……。

(了)


[出典:213 名前:あなたのうしろに名無しさんが…… 投稿日:01/12/04 16:23]

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