お盆休みでの話
高校の同級生五人で集まるのは、実に五年ぶりだった。みんな地元を出て、それぞれの場所で生活してる。会えば昔のまんま、アホみたいな話しかしない。そんなやつらと、今年の盆休みにドライブへ行った。
墓参りだけ済ませて、あとは予定も立てず気ままに回ることにしてた。どうせ県内一周したところで何も変わらない。だから景色のいいとこ走って、適当にラーメンでも食って帰る。そんな感じの、いつも通りの流れになるはずだった。
だけど、あいつが言い出した。
「滝不動行ってみね?」
滝不動。地元じゃ有名な心霊スポットだ。検索すればいくらでも出てくる。幽霊よりも祟りとか怨念とか、そっちの話が多い。
俺は正直、嫌だった。けど、みんな面白がって賛成するもんだから、断れなかった。
現地に着いたのは夕暮れの少し前。住宅街を抜けて坂を登ると、途中に火葬場があって、さらにその奥に滝不動の敷地がある。祠と幟と木々だけ。観光地ってわけでもないし、そこまでの道も狭い。
白い車で来ると、帰るときに赤黒い手形がつくって噂がある。よりによって俺のインプレッサと、もう一台のスカイラインが白だった。嫌な予感はしてた。けど、口に出すと馬鹿にされるから黙ってた。
写真を撮ろうってことになって、スマホで何枚か記念撮影した。ジョジョのポーズでふざけて、笑って、少し寒くなって。異常はなかった。少なくとも、最初は。
煙草が吸いたくて、みんなより先に車へ戻った。エンジンかけて、煙をふっと吐いた瞬間、気づいたんだ。
一本だけ、幟が風に煽られてパタパタ揺れてる。ほかの幟は静かなのに、一本だけ。それも、俺の車の正面。
おかしい、と思った。風なんてない。煙は真上に上がってる。ざわっと背中が冷えた。
「ヤバい、もう帰るぞ!」
叫んで、みんなを呼んだ。三人がインプレッサに乗り込んで、残り二人がスカイラインに分かれる。俺はとにかく早く発進したくて、サイドブレーキに手をかけた。
その瞬間、左手を掴まれた。後部座席の誰かだと思った。
「おい、やめろや!」
怒鳴った俺に、背後から声が返る。
「俺じゃない!俺じゃないって!!」
その声が震えてた。振り返る勇気はなかった。無理やりブレーキを下ろして、発進。スカイラインはエンジンがかからない。セルの音が虚しく響く。
「早くしろ!!」
ようやくスカイラインが動き出したと思ったら、車体が……叩かれてた。ボムッ、ボムッ、ボムッ。まるで三三七拍子。外には誰もいない。雨も風もない。なのに、はっきりと感じた。何かがそこにいた。
アクセルを踏み込んで、無我夢中で山を下った。
街の明かりが見えたとき、涙が出そうだった。コンビニの駐車場に車を停めて、みんなで顔を見合わせた。誰も喋らなかった。口を開けば、何かが溢れ出しそうで。
スカイラインのやつが言った。途中、勝手にライトが点滅したり、マフラーの音が変わったりしてたって。俺たちが騒いでた間、あっちも別の“何か”に触れられてたらしい。
そして、スマホの中の写真。全部、真っ赤に塗り潰されていた。何も写ってない。みんなの顔も、背景も、すべてが赤いノイズの海に沈んでいた。
誰がどれを撮ったのかもわからない。ただ、最後の一枚だけ、画面の隅に白い手のひらが浮かんでいた。
それ以来、俺の左手の感覚が鈍い。力が入らない。医者に診せても原因はわからないって言われた。
あの手が、まだ握ってるのかもしれない。
[出典:18 :名無しさん@おーぷん :2015/08/17(月)23:07:41 ID:C4I]