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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

戻されていないもの nw+

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夜があれほど重く沈むとは、あのときまで知らなかった。

中学二年の冬、京都への修学旅行。古い木造旅館に泊まり、軋む廊下の音にいちいち騒いでいた。二日目の夜、夕食と風呂を終えたあとの自由時間、隣室の連中とカードをして、その流れで怖い話になった。明かりを落とし、円になり、わざとらしい沈黙を作る。よくある遊びだった。

四人目が終わったところで、Aが言った。「こういう旅館って、御札とか隠してあるらしいぜ。絵の裏とか、押し入れとか」半分冗談の調子だったが、誰も止めなかった。面白半分で部屋を探したが、何も出ない。やがて枕投げが始まり、騒ぎは加速した。

その最中だった。

「あれ……天井、なんかない?」

部屋の隅、四角い板が不自然に浮いて見えた。点検口だった。Aは目を光らせた。「向こうの部屋まで繋がってるかもな」誰も乗り気ではなかったが、二段の馬を作らされ、Aは板を押し上げた。埃が落ち、黒い空洞が口を開ける。

「暗いな……」

次の瞬間、Aが小さく息を呑んだ。「……ある」

引き抜いた両腕に、いくつかの物が握られていた。黄ばんだ和紙の人形、墨のにじんだ御札、赤黒い表紙の小さな本。どれも湿っているように見えた。Aは笑いながらそれを投げた。本は畳に落ち、人形はひらりと舞って、部屋の隅で止まった。倒れず、斜めに立ったまま。

「戻せよ」

誰かが低く言った。Aは黙って拾い、再び天井裏へ押し戻した。板を閉めたあと、部屋は急に静かになった。誰も口を開かない。点検口のある天井だけが、わずかに歪んで見えた。

消灯後、巡回の足音が廊下を通り過ぎ、ようやく眠りに落ちた。

どれほど経ったか分からない。鈍い衝撃音で目が覚めた。続けて二度、三度。同時に、絶叫。

隣室だった。

駆け込むと、Aが壁に向かって暴れていた。白目を剥き、何もない空間を振り払う。「やめろ!手が……出てくる!」教師が押さえても止まらない。泡を吹き、畳を蹴り、壁を掻きむしる。

救急車はすぐ来た。呼んだ覚えのない速さだった。隊員の顔を見た記憶がない。担架に固定されても、Aは叫び続けた。「戻せ!元に戻せ!」

何を、とは言わなかった。

翌朝、Aはいなかった。体調不良で帰宅したと説明された。だがその日、全員が別室に集められ、白装束の神主が三人来た。二時間、何かを唱え続けた。何のためかは説明されない。

それきりだ。

Aは学校に戻らなかった。転校と聞いたが、家もなくなっていた。表札も郵便受けも、空だったという。

あの夜以降、点検口を見ると目を逸らすようになった。今でも、天井の四角い影を見上げると、あの人形が浮かぶ。紙のはずなのに、湿った重さがあった。

戻せ、とAは叫んだ。

俺たちは何も持ち帰っていない。だが、何も起きなかったとも言い切れない。あの板の向こうにあったのは物ではない。触れたことで、こちら側に向き直った何かだ。

開けたのはAだ。

だが、覗き込んだのは、全員だった。

今でもときどき、夜中に天井から小さな音がする。木が鳴るだけだと分かっている。それでも、あの四角い板の裏に、まだ「戻されていない」ものがある気がしてならない。

[出典:576 :通りすがりの名無し:2006/12/13(水) 18:31:56 ID:pf1GsXTF0]

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