初めて店長に紹介された「島のバイト」。
当時、車の修理代に困っていた自分には願ってもない話だった。だって、「ただの花摘み」なのに日給1万円から10万円だという。だが、その言葉の裏には奇妙なルールと不気味な出来事が隠されていたのだった──。
最初の仕事の日、店長はにこやかにこう言った。
「まあ、普通のバイトよりは大変だけど、運が良ければすぐ金は貯まるぞ。俺もやってたんだけどな、腰が悪くてな……」
店長の態度が妙に軽いのも気になったが、港で出迎えてくれた「やしきたかじん似のおばあさん」の存在感が、そんな疑問をかき消した。ばあさんの鋭い目と独特な大阪弁には、どこか威圧感があった。
「ルールはよう聞いときや。守らんとマジで死ぬからな」とばあさんが真顔で語る注意事項は、全くの意味不明だった。
「キツネやったら、首を刈る」
「道に迷ったらタバコ吸え」
「浮遊する獅子を見たら拝め」
「襲ってくるもんは全部殺せ」
まるで冗談のような内容だったが、島に着いた途端、空気が変わった。鳥の鳴き声も風の音も一切聞こえない。無人島というよりは「誰も立ち入ってはいけない場所」のように思えた。
最初の仕事は特に問題なく終わった。が、2回目に訪れた別の島では異変が起きた。ある日、ばあさんが山頂でおがんでいるとき、ばあさんが海を指差してこう言った。
「あれ、なんや?」
指さした先には、2kmほど離れた海の上に、人の形をした雨を避ける巨大な空間があった。高さ50m、幅30m。その形は不自然で、人の目では見えない「何か」を思わせた。ばあさんはしばらく黙ってそれを見ていたが、何も言わずに祠に戻った。
その夜、ばあさんがふとこんなことを言った。
「店長、あんたになんて言うてた? ‘なんで自分でやらんのか’とか聞いたか?」
「いや、特に聞いてませんけど……」
「聞かん方がええ。あいつ、昔……」
ばあさんは何かを言いかけてやめた。その晩、夢の中で再びあの「雨を避ける巨大な存在」が現れた。そして、何事もないように時間が過ぎていった。
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