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異界を覗いた出張帰り r+2352

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これは、転勤族であるAさんが三重県に住んでいた頃に体験した話だ。

出張で大阪へ向かったAさんが、昼過ぎに電車で戻る際のことだ。途中の駅で乗り換えるために降り立つと、薄暗く古びた駅が広がっていた。駅員の制服は何か違和感があり、改札口を通る客たちの服装も、どことなく昭和の雰囲気を漂わせている。そして、放送されるアナウンスも、低くこもった声で妙に耳障りだった。しかし、目的の電車が来たため深く考えることなく乗車し、無事に宇治山田駅に到着した。

電車を降りると、駅の中は明るく近代的で、少しホッとしたAさん。だが、駅から一歩出た瞬間に、彼は異様な静寂に包まれた。外は真っ暗で、商店街の明かりも飲み屋の提灯も消えており、車も人もまったくいない。時計を見ると、まだ夕方過ぎのはずで、普段なら通行人や車が行き交う時間帯だ。何かが明らかにおかしいと感じながらも、Aさんは駅前のタクシー乗り場へと向かった。

宇治山田駅のタクシー乗り場は観光地らしく、通常は数台のタクシーが待機しているはずだ。しかし、その日ばかりは一台もおらず、Aさんは仕方なく携帯でタクシーを呼び出した。そのとき、何気なく携帯の時間を確認すると、表示されていたのは「午前3時少し前」だった。Aさんは思わず二度見してしまった。まだ日が落ちたばかりの時間帯だったはずが、なぜ夜中の3時になっているのか?

ふと背後の駅舎に目を向けると、改札はがっちりと閉ざされ、明かりも消えている。ついさっきまで電車で到着したばかりのはずなのに、今はただの静まり返った無人の駅に見えた。混乱する頭で何度も状況を確認するが、目の前の景色は変わらない。しばらくして呼び出したタクシーが到着し、運転手はごく普通の調子で「飲み会帰りですか?それともお仕事で?」と尋ねてきた。Aさんは曖昧にうなずきながらも、「一体何が起きているんだ…」という疑問が心から消えなかったという。

この体験から程なくして、もう一つ奇妙な出来事がAさんを襲うこととなる。

Aさんの職場はビルの6階と9階にオフィスがあり、彼は普段6階で仕事をしていた。しかし、その日は定時後に用事があって9階に立ち寄り、しばらくしてから6階に戻ろうとエレベーターに乗り込んだ。エレベーターを降りた瞬間、彼は息をのんだ。真っ暗なのだ。6階の廊下には電気はもちろん非常灯すら点いておらず、まるでビルごと廃墟と化したかのように何も見えない。

「どうなってるんだ?」と思いつつも、恐怖よりは「見えない」といった感覚が勝っていたため、彼は手探りで周囲を確認しながらオフィスへと向かった。暗闇の中、なんとか上着とカバンを手に取って退出し、エレベーターでビルを後にした。

翌朝、同僚たちに「昨夜は皆、早く帰ったのか」と尋ねたAさん。しかし、彼の言葉に皆は驚きの表情を見せた。昨晩は重要なプレゼン準備のため、複数人が遅くまで残っており、チーフの帰社を待つため全員が退勤していなかったというのだ。Aさんが「オフィスの電気も非常灯も消えていて、誰もいなかった」と話しても、「そんなことはあり得ない。非常灯も含めて照明が完全に消えることなど絶対にない」と返され、思わず背筋が寒くなった。

考えれば考えるほど、いくつかの疑問が浮かび上がってくる。まず、エレベーターから降りたときに暗闇が広がっていたこと。普通ならエレベーターの明かりが廊下の一部を照らすはずだが、あの日に限って廊下の先が完全に真っ暗だった。そして、もし6階に本当に誰もいなかったのなら、なぜ彼のデスクには自分の荷物がそのまま置かれていたのか?不思議な思いが頭を巡る中、Aさんは「何かが歪んでいる」としか思えなかったという。

こうした体験を重ねたAさんは、「三重県には時空の歪みのような場所があるのではないか」と疑念を抱くようになった。

後日談

エレベーターの体験を聞いたあと、Aさんはあの出来事にさらに奇妙な矛盾を感じたという。

彼の職場は大規模なフロアで、複数の部署がオフィス内に存在する。フロアのどこかでは常に誰かが残業しているため、深夜でも廊下や非常灯は必ず点灯しているのが常だ。消火器のあるエリアには避難灯がつき、少なくとも廃墟のような静寂と闇がフロア全体に広がることなどありえない。その夜、手探りで自分の荷物を取り、慌ただしく退出した際にはあまりに混乱していたため、細部まで考えられなかったが、翌日になって周囲から「昨夜の事実」を指摘されて初めて、異様な不気味さに襲われたという。

もし異次元やパラレルワールドならば、Aさんのデスクに荷物が置かれていたことも不可解だ。そして、実際の世界では確かに残業をしていた同僚たちが存在していたという事実も揺るがない。加えて、チーフが帰社したのは午後8時過ぎであり、それを証明する記録まで残っている。

Aさんは、三重県に住んでいた当時、このような「時空の歪み」を感じさせる出来事が頻発していたのだと言う。それ以来、彼はエレベーターに一人で乗るのがどうしても怖くなってしまったのだという。

[出典:http://toro.2ch.sc/test/read.cgi/occult/1468334761/]

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