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渡れない道 r+1,536

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叔母からずいぶん前に聞かされた話だ。

なぜか折に触れて思い出してしまう。ふと夜道を歩いている時とか、車が横断歩道で減速する瞬間とか、そういう時に。
誰かに話してしまえば薄まると聞いた。だから今、こうして文字にしてみようと思う。

あの頃、従兄はまだ小学生で、叔母には小さな悩みがあったらしい。
家の近所にある横断歩道のことだ。見通しは悪くない。むしろ妙に開けていて、一本道を走る車は気持ちよさそうにスピードを出す。歩行者も安心しきって、ろくに左右を見ずに渡る。
叔母は何度も、ヒヤリとする場面を目撃していた。ブレーキの音、タイヤの焦げた匂い、運転席で何か怒鳴っている影。事故は起きなかったが、それが逆に奇妙に感じられたという。毎朝の集団登校は当番制で大人がつくが、問題は帰り道。子どもは一人ずつ散り散りに帰ってくる。危険だと思っても、学校も役所も腰を上げてくれない。

叔母は、ある日ママ友と話し合って奇妙な工夫をした。
その横断歩道に花束を置いたのだ。まるで誰かが轢かれた現場であるかのように。
冗談半分だった。だが効果はすぐに出た。車はかならず止まるようになり、子どもも左右を何度も確認してから渡る。
「うまくいったね」と二人で喜び、夜にこっそり乾杯したらしい。

だが長くは続かなかった。
横断歩道の真ん中で頭を抱えてしゃがみ込む子どもが次々と現れた。吐き気を訴え、登校を拒む子まで出た。
学校は慌てて動き、ぐるりと遠回りになる歩道橋を正式な通学路に指定した。奇妙なことに、子も保護者も誰も反対しなかった。まるで全員が納得していたかのように。

叔母はこっそり横断歩道に置いた花束を回収しに行った。だがそれはもうなかった。代わりに、一回り大きな花束が新たに置かれていた。誰が置いたのかは分からない。
共犯のママ友に聞いても首を横に振るばかりだった。それ以来、叔母はあの道を避けるようになったという。

三か月ほど経った頃、珍しく叔父が相談を持ちかけてきた。
叔父は叔母とは正反対で、強烈なオカルト嫌いだ。怖いからではない。憎むように嫌っているのだ。幽霊話も、そういう話をする人間も、まとめて馬鹿にしていた。だから叔母は花束の件など一切話していなかった。

叔父は小さな運送会社を営んでいた。社員は十人ほど、自分もトラックを運転する。繁忙期だったせいか、疲れているのは見てわかった。
その日、従業員のまとめ役であるキタさんが金を差し出してきた。みんなで出し合ったので、この金でお祓いをしてほしい、と。
あれほどオカルト嫌いな叔父に土下座するように頼んだという。
叔父は渋ったが、キタさんが年上で普段は無骨な男だと知っていたから無下にはできなかった。

お祓いを頼みたい場所を聞いて、叔父はがっくりした。
それが、件の横断歩道だったからだ。毎日そこを通るたびに、理由のわからない疲労を覚えていた。誰かが飛び出す予感……いや、それよりも既視感に近い。見たはずのない場面を繰り返し見せられているような奇妙な感覚。
通り過ぎてもサイドミラーを何度も覗き込んでしまう。そこに誰かが立っているような気がして。
「気のせいだ」と自分に言い聞かせても、同じように感じているのは自分だけではなかった。他のドライバーも口を揃えて疲れたと言い出したのだ。

お祓いはすぐに行われた。神主が呼ばれ、紙垂が風に揺れ、塩が撒かれた。叔父は黙って立ち会い、従業員たちも黙って見守った。
それから叔父は、その話を二度としなくなった。
叔母に語ったのもその一度きりで、まるで口を閉ざしたように。横断歩道の前を通る時も何も言わない。視線を逸らし、淡々とハンドルを握るだけ。

叔母からその話を聞いたのはずいぶん昔だ。
けれど今でも、あの横断歩道の光景が妙に鮮明に浮かぶ。
花束が置かれ、誰もいないのに気配がある。渡ろうとする子どもが急に頭を抱え、地面にしゃがみ込む。サイドミラーに映るはずのない人影が、こちらを覗いているように思える。

叔母は言った。
「わたしが置いたのは、ただの花束だったんだよ。けれど、あの場所はもう最初から……そういう場所だったんだと思う」

その横断歩道を、今も地元の車は徐行して通り過ぎる。事故が起きたという話は聞かない。
だが、誰があの大きな花束を置き続けているのかは、いまだに誰も知らない。

[出典:883 :本当にあった怖い名無し:2022/04/10(日) 08:25:37 ID:hYOaPwe40.net]

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