中編 心霊

悪魔憑きと呼ばれた俺のオヤジは神父をやっていた【ゆっくり朗読】2700

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親父が死んでからちょうど今日で一年たった。

2007/11/05(月) 22:26:21 ID:hsrpxV6l0

キリシタンだから一周忌とかないんだけど……

親父はキリスト教の神父だったけど、幽霊の存在も認めていた。

同じ体質の俺も、キリスト教に入るかどうか未だ迷っている。

ほかの神父や教会の人たちからは、異端というか悪魔憑き扱いされていた親父だったが、不可解な存在に悩む人たちを、無償で助け続けた人生だった。

我が家と親父を襲ったさまざまな悲劇…………

誰にも言うなと言われたが、親父の生き様を書いてみたい。

はじめに

キリスト教にもたくさんの種類があるので、よそのことはよくは知らないが、キリスト教の考え方は基本的に、死んだ人間がこの世に化けてでることはないとされている。

つまり、幽霊というものはいない、という考え方だ。

幽霊が見えたなら、それは悪魔が幻覚を見せていると考える。

親父は小さな頃から、幽霊というものがよく見えたらしい。

気が狂いそうになる中で救いを求めたのが、キリスト教だったと聞いている。

だがそれでも幽霊は見え続け、いつしかそれ(霊)を救えるようになったのだという。

「それは神様のお力添えがあったからで、自分は幸せなのだ」と常に言っていた。

教会には、二週間に一度はこの手の悩みを持った人が現れていた。

親父は一人一人の話を親身に聞いて、悩みが解決するように頑張っていた。

でもやっぱり狂ってしまって、一年前に首を吊って死んだ。

神でも救えないほどいろんな出来事があった。

自慢話に聞こえるかも知れないが、自慢の父の話を書かせて欲しい。

ある日のこと

親父が早朝から神様に祈っていた。

これは決まって、昨日の夜に怖いことがあった時のお決まりのパターン。

幽霊を見える人が慣れるとか普通に見えると言うが、親父は

「その気持ちはよくわからん」と言っていた。

「気分は悪くなるし、突然でてくるとやっぱり怖い」と言っていた。

親父は怖がりだったのかもしれない。

親父の早朝お祈りも3日目に突入すると、母も俺もさすがに心配になってくる。

おそらく親父は一睡もできていないと思うし、俺たちにも聞こえるほどの強烈なラップ音が鳴り響く。

その日は土曜で休みだったので、親父に「どんな霊が来ているのか?」と聞いてみた。

俺にできることなど何一つないが、なんとか親父を楽にしてあげたいという気持ちだけはあった。

親父いわく、「ドア一枚分くらいの大きさの顔をした女の霊が、部屋の前のドアまで毎日来ている」とのこと。

「おそらく最近死んだ人間だと思う」と言っていた。

それはドアの前まで顔だけで現れ、日が昇るまで母を侮辱する言葉を吐き続けるらしいのだ。

親父は、狙われているのが母かもしれないので無視して寝るわけにもいかず、部屋に入らぬように見ているのだという。

次の日は日曜だったので、親父の提案で礼拝堂の隅に布団を敷いて、三人で寝ることになった。

俺も母も、今夜なんらかの決着をつけるつもりなのだ、ということを実感していた。

いきなりこんな天井の高いところで寝ろと言われてもさすがに寝れず、布団の中で目をつぶっていると、教会のドアをキンキンと叩く音がした。

ドンドンでもカンカンでもなく、キンキンだった。

その音は木琴の高い音のような、金属ではないキンキンという擬音がぴったりくる音だった。

キンキンは少しづつ間隔が狭くなり、キンキンキンキンと連続した音になった。

俺は怖くて布団の中で目を瞑っていた。

隣の布団から母が手を伸ばしてきた。

母も怖かったのか、俺を守ろうとしたのか………

俺は年がいもなく、母の手を強く握り返した。

その瞬間、握り返した手に温度を感じないと思った瞬間!

30メートルくらい引っ張られた感覚に襲われた!

『騙された』という、なんともいえない感情が頭の中を回った。正直、死んだと思った。
その時、親父が吼えた。

吠えたとも言える。人の怒号ではなかった。獣のような謎の怒号だった。

俺は布団の中で、片手をあげた状態で金縛りになっていた。

母が頭までかぶっていた俺の布団をはいだ瞬間、天井に、感覚的に女だと思われる、たたみ2枚分ほど巨大な顔があった。

怒りと憎悪にまみれた嫌な感覚の塊だったと、今でも思い出す。

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夜が明けて、親父に昨日のはなんだったのか聞いてみた。

「最近死んだ女を中心に、100を越えるものが集まるとああなるのだと思う」と言っていた。

「今は目的があるが、そのうち溶け込んで、ただの悪意の塊になってしまう。ああなると神のそばにはいけないな」

と、ぶつぶつ説明してくれた。

俺としては今夜のことが心配だったのだが、親父は「昨日が最後だから心配ない」と言っていた。

根拠は教えてはくれなかった。

次の日、親父は夜まで寝ていた。

夜ご飯時に、外国人の女性が死体で見つかったニュースがやっていた。

その時、やっと起きてきた親父が「これだったのかな?」とつぶやいた。

それで教会に来たわけ?と思ったが、もううんざりだったので口には出さなかった。

105 :神父の子:2007/11/06(火) 08:31:07 ID:cX30Hz2o0

えーと、いくつか疑問点が出ているようなんでお答えします。

わかりやすく神父と書いてますが、実際には司祭というやつになります。

基本的には未婚ですが、別の宗教から転会したパターン(簡単にいうと移動)なので、妻帯でも問題はありません。

もともと東方典礼なので、妻帯もOKかもしれません。

なぜ親父が神父の立場になれたかですが、これは周りの人間からの支持が大きかったと思います。

ここには書くことはないと思いますが、ハッピーエンドも多かったので………

もう1つ、僕は洗礼を受けていません。

ただ、教会に来てくれる人は、受けていると思っていたかもしれません。

またある日のこと。

「拾った子猫を飼ってもらえないか?」と、小学生くらいの女の子とその母親が来た。

商売柄?と言っていいのかわからないが、教会にはこの手の相談がよく来る。

残念ながら、拾ってくる小動物全てを飼っていたら、見事なワンニャンランドが出来上がってしまうので、貰い手を一緒に探すのを手伝うという形で、一時的に預かる感じにしていた。

命を大切にするのはとても大切なことだから、親父も母も嫌な顔1つせずに里親探しを手伝った。

俺はもっぱらインターネット部隊として、里親探しを頑張った。

猫は去勢や予防接種なども里親がみつかる重要な部分でもあるので、親父は貧乏だったが、自腹を切って払う時もあった。

俺は早速、インターネットの里親募集に写真を載せた。

親父と母親はいつものペットショップとパン屋さんに、写真を張ってもらえるように頼みにいった。

猫を拾った女の子は、学校の帰りにいつも猫に会いに来ていた。

子猫を中心とした、あたたかい人情の輪のようなものを感じていた。

2週間ほどでインターネットで里親が見つかり、むこうから車で引き取りに来てくれることになった。

おまけに「予防接種や去勢はこちらで致します」と言ってくれて、とても大助かりだった。

正直、我が家はみなさんのお裾分けで食いつないでいるような貧乏な家だからだ。

子猫の受け渡しの日、親父はたまたま別の教会に出張に行ってしまっていた。

俺と母と女の子で、里親になってくれる山田さん(仮名)に、あまった餌や匂いのついた毛布などを渡した。

子猫がいなくなって、ほっとしたようなさみしいような夕食時に、親父は帰ってきた。

親父も子猫がいなくなったことを、少し寂しいと感じているようだ。

その時、親父がケモノの匂いがするといって、鼻をくんくんしながら部屋を徘徊した。

その夜、親父が「猫がいる」と言って家の中と外を探しはじめたが、もちろんいなかった。

次の朝、親父が山田さんに連絡を取ろうとしたが、置いていった連絡先は、まったく関係のない電話番号だった。

俺は「インターネットで残っている情報から、山田さんに連絡が取れないか?」と聞かれて、あわてて連絡をくれるようにメールをしてみた。

次の日、メールの返事が来ていないことを親父に伝えると、親父は肩を落としながらこう言った。

「あの子猫、ミキサーに入れられて死んだかもしれん。申し訳ないことをした。かわいそうなことをした」

(了)

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