あらすじ
バブル期に計画された新興住宅地では、駅を中心に住宅が建設されたが、バブル崩壊で計画が縮小し、不自然な街並みとなった。その中の一角、新Q地区で短期間に住民が次々と亡くなる異常事態が発生。不動産業を営む友人アキバから相談を受けた主人公は、怪異の可能性を追う。
事故や病死が集中する区画について、曰くや過去の地形を調査した結果、この土地の一部が「ごうち」と呼ばれる忌み地であることが判明。「ごうち」は、過去に人柱が立てられ、穢れた念を集める土地として扱われていた。その土地の上に強力な結界が張られ、負の念を水路を通じて浄化していたが、ニュータウン開発で水路が失われ、結界が崩壊したことで災いが漏れ出し、人々に影響を及ぼしていたことが明らかになった。
さらに、分譲された住宅区が偶然にも人型の配置となり、その形状が「ごうち」の人型結界に影響を受け、負の念を拡大させた可能性が指摘される。専門家の協力で簡単な祓いを行い、土地を元に近い状態へ改修する計画が立てられる。古くからの住民と協力し、水路の再建や公園の整備を行った結果、問題は収束し、以後は平穏が保たれている……
ある新興住宅地での出来事。
この住宅地はバブル期初期に計画された。既存の鉄道路線に新駅を建設し、広大な農地を住宅地に造り替え、駅周辺には高層マンションやショッピングモールが建つ予定だった。しかし、バブル崩壊により、高層マンションやショッピングモールの建設は中止。新駅周辺には住宅だけがある程度建てられたものの、農地や空き地が点在し、統一感に欠けた街並みが残った。
不動産業を営む友人アキバ(仮名)に誘われて飲みに行った際、彼が言った。
「新Q地区で分譲した区画なんだけど、そこの建売を買った人たちが次々と死んでるんだよ。数日前にも一人亡くなった」
新Q地区は、この住宅地に含まれる場所で、Q町の新しい街区に由来する名称だという。アキバの話では、分譲後1年ほどは何もなかったが、ある時から次々と住人が亡くなり始めた。
最初に事故死と病死で2人。その後、さらに1カ月ほどして一家4人が自動車事故で死亡。続けて、また2人が病死や事故死で亡くなった。分譲地全30軒のうち、半分近くが半年以内に葬式を出したという異常な事態だった。
アキバが言うには、「住民たちは祟りではないかと怯えている。クレームも増えてきた。それで怪しげな話が好きなお前に相談しようと思った」とのこと。しかし、霊が見えるわけでもなければ、お祓いや除霊ができるわけでもない俺に、何をしろと言うのか。
一応話を聞いた。
- 分譲地に曰くはなかったか?
→ 特に聞いていない。
- 地鎮祭は行ったのか?
→ 行ったが、神主は特に何も言わなかった(ただし本人は現場に不在)。
- 死者が出ているのはその区画だけか?
→ その通り。
- 前の地主から何か聞いていないか?
→ 特にない。
- 死亡者に共通点は?
→ 現時点では不明。
ちなみに、アキバの父親も1年ほど前に癌で亡くなっている。分譲地が完成した頃に突然倒れ、頭部に腫瘍が見つかった。その後、癌が全身に広がり、3カ月もたたないうちに亡くなった。親父が社長だった頃にこの区画の分譲を行っており、亡くなった後にアキバが社長を引き継いだ。
アキバは「地鎮祭を行った神主に相談してみてはどうか」と言われると、「その神主も亡くなった」と告げる。さらに、「檀家になっている寺の住職にも頼みたいが、胡散臭い上に馬が合わない。お前、誰かお祓いできる人を知らないか?」と言う。
知り合いの自称霊能者オオツカ氏を紹介することに決めた。
数日後、アキバ、俺、オオツカ氏の3人で現地に向かった。現地を一通り歩いた後、オオツカ氏が言う。
「確かに何か感じる。しかし、何か違う……妙な感じがする」
胡散臭い言葉に心の中で突っ込みつつ、アキバの顔を見ると、彼も同じような疑念の表情を浮かべている。
「対処できるか?」とアキバが尋ねると、オオツカ氏は「無理そうです」と一言。適当にごまかすよりは良心的だと考えつつも、頼りないことに変わりはない。
だがオオツカ氏は「近隣の市に住むウエノさんという女性を紹介する」と言い、彼女が頼れる人物であると説明した。その間に、またも悲劇が起こる。ある住人の高校生の息子が急性アルコール中毒で亡くなった。
数日後、ウエノさんを交えて再び現地へ。件の区画を歩いた後、彼女はさらに周囲を調べ始めた。小雨の中、小さな公園を抜けて荒地に至り、その先に隣接する別の区画へ。
荒地の前で立ち止まったウエノさんが言う。
「ここが原因みたいだね」
アキバが疑問を投げかける。「ここがおかしいとしても、影響を受けるのはもっと近接した区画では?」
「確かにそうだが、原因を詳しく調べる必要がある。土地の所有者が分かれば教えてほしい」
アキバはその日のうちに調査を行い、地主が隣県に住むカンダ氏という人物であることを突き止めた。彼は日曜日なら会えるとのことで、アキバとウエノさんがカンダ氏宅を訪ねることに。
地主カンダ氏は還暦を過ぎたばかりの男性。彼自身は「土地について何も知らない」と繰り返していたが、話の途中で80歳を超えた母親(カンダ婆さん)が登場した。
カンダ婆さんはこう語る。
「あそこは忌み地だよ」
かつてその土地には、穢れた物や不幸の念を捨てる習慣があったという。それは物理的な物だけでなく、怨念や憎悪のような抽象的なものも含む。その風習はほぼ廃れていたが、カンダ婆さんが嫁いだ頃には、子供を近づけてはならない土地だと教えられていた。
その土地は「ごうち」と呼ばれていたが、その由来や漢字表記は不明。農地解放後も土地の管理は集落全体で行われていた。再開発時、カンダ氏の父は土地の売却に反対したが、彼が亡くなった後、カンダ氏が土地を売却。再開発によって周辺が大きく変わり、「ごうち」は荒地として残った。
ウエノさんは帰り道に、アキバにこう提案した。
「時間があるなら、近くのW市に寄ってほしい。そこにいる人を紹介したい」
W市で紹介されたのはオオサキ氏という30代の男性だった。背が高く、礼儀正しいが、霊能者らしい雰囲気はない。その翌日、オオサキ氏も加わって現地を調査した。
一通り歩き回った後、オオサキ氏がこう言った。
「この土地と周辺の昔の地形を調べてほしい。特に、戦前やニュータウン計画前の状態を知りたい」
アキバは早速調査を開始。結果を基にオオサキ氏がまとめた仮説は衝撃的だった。
「ごうち」の地形は、人型を模していた。その形は偶然ではなく、意図的に作られたものだという。土地そのものが強力な「代」(呪いや念を受け止める器)としての役割を持つように設定されていた。また、結界が張られ、穢れや念は頭部にあたる部分の水路を通じて外へ流れる仕組みになっていた。
しかし、再開発によって水路が失われ、その結果、穢れが外へ逃げられず溜まり続け、暴走し始めたというのがオオサキ氏の結論だった。さらに、偶然にも分譲された区画が「ごうち」と隣接し、親が子供に添い寝しているような形状になっていたことが影響を悪化させていた。
分譲地が「人型」であったことが、負の念の転移を助長したのだ。人型同士のつながりによって穢れが移動し、不幸な出来事を引き起こしていた。
オオサキ氏は応急処置としてお祓いを行うことを提案。また、土地を元の形状に近づける改修が必要であると助言した。
その後、地元住民やアキバ、カンダ婆さんの協力で「ごうち」は親水公園に改修され、土地の役割を終えるよう祈願された。かつての水路も一部復元され、周囲の念が自然に分散する仕組みが整えられた。
土地の改修が完了して以降、分譲地では不幸な事故や病死が起こらなくなった。偶然と言えるかもしれないが、あまりにも奇妙な出来事の連続だった。
その後、オオツカ氏はオオサキ氏への弟子入りを志願したが、断られたという。土地改良後、カンダ婆さんは「これで安心して死ねる」と笑った。アキバは感謝の意を込め、オオサキ氏とウエノさんにお礼を伝えた。
そして今、この街は以前のような穏やかさを取り戻している。
(了)
[出典:855:添い寝 2007/03/29(木) 15:30:36 ID:RJO9BJ3Y0]