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【視聴・閲覧注意】福島の保育所であった事【ゆっくり朗読】5504-1231

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福島から五月頃、関東に避難してきた。

それまでの地元は、避難制定地域よりもわずか数キロ離れているってだけ。

数キロ先は『もと人里』で誰もいない。でも自分達の場所は衣食住していいよ、の地域。

目に見えない恐ろしいものと戦い続けるくらいなら、と転居を決意。

転居に伴い、子どもは四月末まで保育所に預けていたんだけれど、その保育所の登所最終日に起こったことを今から書こうと思う。

その最後の日も、変わらず朝から預けにいった。

「寂しくなります、お世話になりました」

と先生方へ挨拶し、園児達へのささやかなものを渡し、いつものように子どものクラスでおむつなどを準備していた。

そこへおじいちゃんと一緒に翔太くん(仮名)が登所してきた。

四歳クラスに四月から入所した子で、何度か「おはよー」と声かけしたことがある。

その時もいつものように「翔太くんおはよう」と声をかけた。

すると翔太くんは私のところにまっすぐ歩いてきて、両手でおにぎりのようにしている手を差し出してくる。

なんだろう、泥だんご?折り紙のなにか?など色々考えていると、翔太くんは無表情のまま、三角にしているおにぎり型の手、指と指の間からその中身を見せてきた。

知っているだろうか、カマドウマという虫を。

うさぎ虫とか、ぴょんぴょん虫とか、そんな呼び名もある。

鳴きもせず、音も出さず、個人的に生命力の強い虫だと思っている。

ティッシュ箱で思い切り「べし!!」と上から潰し、死骸が気持ち悪いので旦那にとってもらおうと呼んできて、ティッシュをそっとどけると既にいない。

え!?どこ行った!?と見回すと、天井に張りついていたり。

前に飛ぶかと思いきや、真横ジャンプもしてくるというキモさ。

私はこの、はちきれんばかりの腹をしたグロテスクで跳躍力の高いカマドウマが大嫌いだった。

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翔太くんの手の中には、カマドウマの中でも特大クラスに入るようなものが入っていた。
多分私の顔が物凄いことになっていたんだろうと思う。

先生が「どうしました?」と駆け寄ってきた。

まさに、その時!

『はがしょっ』

というような音がしたと思う。言葉に書くとうまく伝わらないけれど。

翔太くんは物凄い速さで、私の目の前でカマドウマを食べた。

「ぎゃあああああああ!!!!」と先生の声。

翔太くんの口から四本くらいはみ出ているカマドウマの足。

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私、頭真っ白。

でも次の瞬間、私は翔太くんの口に左手を突っ込んでいた。

焦点は翔太くんに定まっておらず、ずっと床のシミみたいなものを見つめていた記憶がある。

だけど、どこかで冷静な思考の自分がいて、『なんとかしなくては』とも思っていた。

直視しないように視界のはじっこに見える翔太くんを捉えながら、右手で翔太くんの頭を押さえ、左手の指で翔太くんの口の中身をかき出していた。

そのうち翔太くんが「うえっ、ぐぇっ」と言ったと思うと、大量に嘔吐。

私の左手から肘にかけて、ゲロまみれ。

「おめぇ翔太さ何してんだ!!」と、翔太くんのおじいちゃんが私を引き離し、突き飛ばされた。

そこでようやく先生方数人が間に入ってくれた。

はーっ、はーっ、と半ば放心しながら必死に呼吸して、手を洗いに行ったのだが、

「だってうぢのばーちゃが!食べろって言っでだ~うあ~」

と泣いている翔太くんの声が聞こえた。

その後は当時の状況など話すべきことを話し、先生達にお礼を言われ保育所をあとにした。

足が地に着かず、脳内ヒューズ飛んだみたいなまま車に乗って……色々考えた。

こんなことがあってもその場の処置は三分とかからず、次見た瞬間には、主任先生の呼びかけでみんなが楽しそうに歌を歌っていたので、さすが長年の保育士はすごいなあとか、おじいちゃんに突き飛ばされてひっくり返った私の格好ダサッとか。

でも、それでも忘れられない。

翔太くんが無表情でカマドウマを食べた、あの瞬間の音。はみ出た足。

その一件を含む最近の園児について、所長先生からお話されたことも。

「震災から1ヶ月……翔太くんだけじゃない、たくさんの子が不安定になっている。
切り刻んだ人形を持ってきた子もいた。友達の首を絞めて『苦しい?』と聞いている子も。子ども達もギリギリのところなんだと思う」

そのお話が頭から離れず、自分の子達の顔を思い出しては切なくなるばかりだった。

一変した環境、生活、ピリピリした街の雰囲気、屋内遊びしか出来ないもどかしさ。

コントロールできる範囲では笑えている子ども達でも、その奥には深い傷を負っている。

そんなストレスをどうにかできる術や思考を、子ども達は持っていない。

だから翔太くんのようにいきなり虫を食べてしまったり……ん?

と、ここでようやく所長先生の最後のお話が気にかかった。

お話のあと、「余計なお世話かとは思うんですが」と私が切り出した話。

「翔太くんのおばあちゃんには、ちょっとお話したほうがいいかと思いますが……」

「うん、翔太くんちね、おばあちゃんは居ないんですよ」

なんだろね、と苦笑いされていた。

(了)

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