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知り合いの大工の話 r+3611

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彼は三代目の大工であった。

祖父の代から続く家業を受け継ぎ、腕を磨きながらその技を守ってきた。だが、彼の心の中にはつい先日亡くなった父親、二代目の存在が深く刻まれている。師匠としても父としても尊敬の念を抱いていた彼は、暇を見つけては初代と二代目が眠る墓を訪れ、手を合わせることを欠かさなかった。

その日もそうだった。上棟を終えた翌日、工事が無事に進んでいることを報告するため、彼は墓へ足を運んだ。昼時の陽光は明るく、雲一つない空が広がっていた。念入りに墓を掃除し、お供え物を並べ、静かに手を合わせる。風も穏やかで心地よい、そんなひと時だった。

しかし、不意に空気が変わった。どこからともなく生臭い匂いが漂い始めたのだ。最初は気のせいかと思い、気にせず手を合わせ続けた。すると、その静寂を裂くような笑い声が響いた。「ヒャハハハハハハ!」甲高い声。女なのか、赤ん坊なのか、何とも形容しがたい響きだ。彼の背後から放たれるその声に、怒りが湧き上がった。墓参りを邪魔する不届き者への怒りである。

振り向いた。だが、そこには誰もいない。強まる生臭い空気だけがその場を支配していた。苛立ちを抑えきれず、再び墓前に向き直ったその瞬間、彼は目を疑った。猿のような体に女の顔を持つ奇怪な者が、墓石の上に腰かけていたのだ。赤い歯を剥き出しにし、不気味に笑っている。

彼は震えた。恐怖ではない。怒りだ。「どけや!」怒号とともに拳を握り、目の前の者のスネに叩き込む。確かな手応えを感じた。だが、次の瞬間、そいつは霧のように消えた。彼は呆然と立ち尽くす。その背後から再び笑い声が響く。振り向こうとしたその時だった。

「振り向くな!」突然耳に飛び込んできたのは、亡き父親、二代目の声だった。彼はその言葉にハッとし、背後を気にするのをやめて黙々と手を合わせ始めた。脂汗を滲ませながら、ただ祈る。次第に生臭い空気が消え、墓場は元の静けさを取り戻していた。

彼はその足で車に戻り、慌てて携帯を取り出した。電話の相手は馴染みの神主だ。「地鎮祭か?」と呑気な声が返ってきたが、彼は怒鳴るように言った。「墓の上に化け物がいた!今すぐお祓いに来てくれ!」

その後、速やかにお祓いが行われ、以降は特に何も起こることなく日常が続いている。神主は墓を眺めながら言った。「いい師匠を持ってよかったな。あの時振り向いてたら、今頃お前もここにいただろうよ」と。

実はその日の夜、彼は家族に隠れてズボンを洗っていた。

恐怖で漏らした小便の跡を消そうと必死だったのだ。それを馴染みの飲み屋で自嘲気味に語る彼は言った。「四十近い男が情けねえ。次に会ったらタダじゃおかねえ!」

周りの笑いを誘ったが、心の中では誰もが思っただろう。「次なんて、もう会わない方がいい」と。それでも彼が再び墓参りに行く姿を想像すると、ズボンを洗う姿と相まって思わず笑いが込み上げてくるのだった。

[出典:95 :2007/06/27(水) 13:34:11 ID:ZJFJVzGw0]

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