四年前、先輩が彼女と一緒に、彼女の知り合いである男女二人と合流して四人で出かけた時の話だ。
その男女というのは、先輩たちにとって初対面。男の方は彼女と同じ中学校の同級生だったらしいが、大人しい性格だったという。一方、女の方は「ちょっと空気を読まない」というか、いわゆる「勘違い系」な感じだったようだ。
夜も遅くなり、みんな疲れていたが、その女の子が「ヤマニシさんを見に行きたい」と言い出した。ヤマニシさんとは、当時地元で少し有名だった怪談の一つ。町外れの山の裏にある廃屋で、「ヤマニシさんヤマニシさん」と呼びかけると、「もーすもーす」という声が聞こえるという噂だった。
女の子(仮に末子と呼ぶ)がやたらはしゃぎながら提案してきたので、帰りたかった先輩たちも渋々同意する形になった。末子の相方だった男(仮に清蔵とする)は、彼女の機嫌を取るようにヘラヘラしていたため、先輩は「なんで付き合ってるわけでもないのにこんな状況なんだ」と微妙な気分になりつつも、末子の勢いに流されてしまったらしい。
一行は車でその山の近くまで向かった。山にはロベホテルが立ち並び、その裏手にはお屋敷通りがあった。そこは車がなければアクセスしにくい場所だったため、先輩も「確かに車があって良かったけど、末子の図々しさには呆れる」と思ったという。
山頂近くの駐車場に車を停め、一行は末子が聞いたという廃屋の場所へ歩いて向かった。その廃屋は、バブル時代に元華族の屋敷を取り壊して建てられた二軒の家の一つだったらしい。持ち主が借金か何かで失踪し、長い間放置されているとのこと。
末子は先頭を歩き、廃屋の門をくぐりそのまま敷地内へ。草ぼうぼうの庭や暗い建物にも全くひるむ様子がなく、どんどん進んでいく。その姿を見て、先輩たちは「やばいかも」と思い始めたが、止めるタイミングを失ったらしい。
玄関先に立ち止まった末子が、突然庭の方へ走り出し、縁側のサッシを開けて叫び出した。
「おおぬさたてまつり もうす もうすー!」
先輩が慌てて駆け寄ると、末子は靴を脱いで上がり込もうとしていた。必死に清蔵と二人がかりで引き止めたものの、ものすごい力で暴れたため、ハンカチを使って末子の口を塞ぎ、ようやく抑え込んで車へ戻ったという。
車に戻ると、末子は落ち着きを取り戻したかのように見えた。
しかし、抱えていた清蔵が、ボロボロ泣きながら「もうす……」と繰り返していたのが、先輩たちには不気味だった。
その後、一行はすぐに解散するのも気味が悪かったため、近くのロベホテルに泊まることにした。翌朝になっても、末子と清蔵は放心状態のままだったという。
この出来事を境に、末子と清蔵はその後間もなく別れたらしい。末子はこの体験をきっかけにか、精神的に不安定になり、通っていた大学を休学した。地元でも評判の良い理系の学部に在籍していたが、半年後に退学。代わりに芸術系の専門学校に入り直した。
末子が退学後に先輩の彼女と会った時には、髪を短く切り揃えており、後ろ髪をしきりに気にしながら話をしていたそうだ。その姿がどこか異様で、先輩の彼女も怖かったと語っていた。会ったのはこの事件の翌年だったが、それ以降末子がどうなったかはわからないという。
清蔵についても、その後先輩たちは全く連絡を取っていない。先輩曰く、「やっぱり何か異常なものがそこにあったのかもしれない」と話していた。
この話を先輩から聞いたのは、部活の合宿中に差し入れに来た時のことだった。直接面識はなく、少し怪しい人物という印象だったが、後日友人たちと実際にその場所へ行ったところ、先輩が言っていたような廃屋を見つけたらしい。
先輩が語った話の中で印象的だったのは、その廃屋の近くに神社があったことだ。その神社は山の方角に建っていて、車でくぐれる大きな石の鳥居がある。ただし、夜に見るとどこか不気味で、特に周囲を縄で囲った木製の小さな建物が異様だったという。
その縄には通常、観光客が結んでいくはずのおみくじが全く結ばれていなかった。一方で、近くの笹や木には大量におみくじが結ばれていたため、特定の場所だけ避けられているように見えた。
また、神社の控えの建物の窓から、年配の宮司がじっとこちらを見ていたのが不気味だったとも語っていた。先輩たちがその時、その神社を通って車へ戻ったかどうかは定かではないが、通る道がその神社を経由するか、脇を回るかのどちらかしかなかったとのこと。
先輩の話をまとめると、例の廃屋の件も異様だったが、神社の存在もまた、不可解で恐ろしい何かを感じさせるものだったようだ。
(了)
[出典:476 名前:ヤマニシさん 1 投稿日:02/05/01 06:33]