短編 都市伝説

ヤマニシさん【ゆっくり朗読】3400

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四年前、先輩と彼女と、彼女の知り合いの男女と四人でデートすることがあった。

476 名前:ヤマニシさん 1 投稿日:02/05/01 06:33

で、帰りにメシ食ってたら、知り合いの女の子が「ヤマニシさん見に行きたい」って言い出したんだって。

あ、先輩と、その男女ってのは面識なくて、その日が初対面だった。

先輩の彼女が、男女の男の方と同じ中学だったとかの仲で、男の方は大人しい感じだったらしい。

もう夜も遅いし先輩も彼女もヘロヘロだったから帰りたかったし、その女の子が勘違い爆発なやつ。

途中から先輩もキレ気味だったんだけど、その女の子がけっこう可愛くて、もう一人の男のほうがヘラヘラ機嫌取ってるような感じだった。

で、こいつらつきあってるわけじゃねーのかよ、なんだかなー思ったんだけど、まこの場はこいつの顔立ててやっとこか、みたいなノリで、行くことにしたんだって。

そのゴキゲンくんと勘違い女の名前を、仮に清蔵と末子にしとく。

今は珍しくないけど、ネットの掲示板か何かで知り合ったらしいのね。

まぁようするに、ちょっとインドアーな感じのカップルだった、ってことです。

そのころ地元でちょっと有名になった話で、ロベホテル山の裏の廃屋に「ヤマニシさん」がいて、こちらから「ヤマニシさんヤマニシさん」て呼ぶと「もーすもーす」とか何かいう声で応えるらしい。

末子はその話をどっかから聞いてきたらしくって、車あるんならいきましょーよー、って言ってたそうな。

町中から車でちょっと行ったところに、ロベホテルがバンバン立ってる山があって、その裏の方にお屋敷通りがあるんだけど。

そこは、基本的に表から車でぐるっと上って、降りていかないとそっちに行けないようなふうになってるから、確かに車じゃないと、裏から歩いて上るしかない。

まぁ車があればこれ幸い、というのはわかるんだけど、なんかとことんまで図々しい奴だなぁ、と先輩も思ったらしい。

でなんだかんだで行くことにした。

末子はそうとうはしゃいでいたらしい。

だーれもオマエの話なんて聞きたくないっちゅうのに、自分の知ってる怪談話をペラペラしゃべりだしたりして、まぁ後になって考えるとおかしい状態に入ってたのかもしれんとは、先輩言っていた。

結局夜中だし、車で乗り付けるわけにもいかないので、山頂から少し下った駐車場に車を止めて、末子が教わったっていう廃屋の場所まで歩いて行った。

その廃屋っていうのが、元華族の家だったのをバブルの時に全部つぶして二軒並びに家を建てたんだけど、持ち主が借金か何かでいなくなったんで放置されてる家らしい。

一軒は貸家にするつもりだったらしいけど、それもそのまま。

精肉工場とか、外から見えないようにやたら高い生け垣になってるでしょ。

あれに近いような感じの屋敷が、ちゃんと二軒並んで建っている。

末子は誰に聞いてたのか、どんどん歩いていって、一方の屋敷に入っていく。

先輩と彼女もだんだん、まずかったかな、という気になってきて、一応年上だし止めとこうかな、と思ったんだけど、末子がどんどん歩いていくので、仕方なかったらしい。

末子やたら髪が長かったんだけど、もうそれが肩に付かないくらいの早足だったそうです。

表は草ぼうぼうなんだけど、屋敷そのものは案外きれいで、建物は暗かったけど、街灯はけっこう明るかったらしい。

なんだか思ったほど凶悪な雰囲気でもなかったし、門扉も開いていたので、そのまま中に入っていった。

後ろから清蔵が黙って歩いてきているので、先輩が「君大丈夫?」って聞くと、「すいません、僕がこの話教えたんですよ……」って、ものすごくすまなそうにしてる。

「ああ、別に暇だし、気にせんでね。ヤマニシさんの話ならけっこう知ってるし」

って先輩が言うと、清蔵がブルブル震えだして

「すいません、すいません、すいません」

て、なんでかやたら謝るんですよ。

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で、そっからよくわからないんですけど、肝心なところなのに先輩はその場面をよく見てなかった。ここは先輩の彼女の記憶。

玄関先にいた末子が、いきなり庭の方にダーって走って回りこんで行って、縁側のサッシを開けると、そっから顔だけ差し入れて

「*おおぬさたてまつり もうす もうすー」
(*大幣奉り申す申す)

って、でかい声でわめきはじめたらしいんです。

声が聞こえたんで先輩が血相変えて走って行って、末子に追いついた時、末子は縁側から靴脱いで上がろうとしてたらしい。

こう、足を4の字固めみたいにして右足のスニーカーを左手で脱がすためにつかんで、もう上がる寸前だったんです。スニーカーの裏が妙に白かったんで覚えているらしい。

これはヤバイ、って思って、慌てて清蔵と二人がかりで引き留めて押さえたんですけど、けっこう強い力だったみたいです(憑き物だったかどうかは不明)。

放っておくと何回も「もーすもーす」って言うので、彼女にハンカチ借りて、自分のとあわせて、末子の口の中に押し込んで、両脇から抱えて連れて帰ったったらしいです。

その後は、特に事件も起きずに、なんとか車のところまでたどりつけたそうです。

末子は、ばたばたしっぱなしでしたが、車に入ると落ち着きました。

反対側で抱えてる清蔵も、ぼろぼろ泣きながら「もうす……」って言ってたのが、なんか気味悪かったそうです。

それからすぐ、散会するのは気味が悪いので、四人で同じロベホテルに入ったそうです。

清蔵と末子は、朝が来ても放心状態のままだったそうです。

その後、清蔵と末子は別れたということでした。

やっぱり末子はちょっとおかしくなったみたいで、半年大学を休学したらしい。

けっこう地元では通りのいい大学の、理系の学部に入ってたんだけど、そのまま退学して、芸術系の専門学校に入り直したそうな。

先輩の彼女が会ったときには、髪はぐりぐりに短くしてたらしいです。

ちょっとお茶飲んだらしいのですが、やたら後ろ髪を気にして、しゃべりながら自分の手で引っ張ってたのが怖かったとか。

その会ったっていうのも、これ見に行った翌年だったらしいから、それからどうなったのかは先輩も知らないそうです。

清蔵とは全然会ってないそうです。

この話聞いたのは、先輩が部活の合宿に差入れに来た時。

3コ上で直接面識もなかったし、うさんくーさい人だったし、この人担いでるんやろと思ってたけど、免許取ったあと実際友達と行ったら、それっぽい家はあった。

書き忘れてたけど、現地から山の方角には神社が建ってるんですよ。

車でくぐれるような石の大きな鳥居があって、夜とかあんまり見たくないんだけど……

末子落ち着いたって云ってたけど、駐車場が神社の傍にあるので、それでなのかもしれない。

でもなんか、その神社もかなり不気味なんですよ。

裏から(つまり例の屋敷のある方向から)入っていくと、巫女さん宮司さんとかがいる控えの建物の傍に、周囲を縄で囲んだような木製の小さい建物があるんですよ。

いっぺん、彼女と別の機会にその神社行ったときに気づいたんですけど、その縄だけ、おみくじが全然結んでないんですよね。

周囲の笹とかにはけっこういっぱいついてるし、その縄も縄っていうか紐みたいな太さで、いかにも「ここに結んで」と言わんばかりなんですけど、ひとつもないんですよ。

周りをうろうろしてると、年寄りの宮司さんが、控えの建物の窓の向こうからじーっとこっち見てて。

思い出したらあっちの方が怖かったです。

先輩がその神社の中を通って車ん所行ったかどうかは聞いてないですけど、道的には中を通るか脇をぐるっと回るかしかないんですよね。

(了)

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