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中編 洒落にならない怖い話

バス停の先【ゆっくり朗読】2800

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彼とは高校からの知り合いで、大学も同じ所に進学した。

お互いあまり社交的な性格ではなく、地味なもの同士かなり親密で仲の良い間柄だった。

そんな彼が、大学に通い始めて半年ほど経った頃から急に変わり始めた。

それまで気にもかけなかった服装にお金を掛け始め、口数が少なかったのが嘘のように社交的な態度になり、学内の色々な所で彼がそれまで口を聞いたことのなかった人と話しているのを頻繁に見かけるようになった。

恋人でも出来たのかと思い尋ねてみると「いや、残念ながら違うよ」とぎこちない笑顔を見せた。

では心境の変化は一体何なんだと訊くと、何か上手くごまかされて答えを聞くことが出来なかった。

自分も彼と同じように少しは社交的になるべく努力しようかと思ったものの、どうも気が乗らなかった。

それに彼も社交的になったからといって友人である自分と距離を置くということはしなかったし、一緒に話をしたりする時間は減ったもののそれまで通りの付き合いがあった。

彼の変化はその後も続いていき、「社交的」という言葉ではちょっと当てはまらないほどになっていた。

躁状態が常に続いているようで、昔の彼を知っている自分としては彼の変化に僅かな恐怖心さえ抱いた。

その彼がある日、突然姿を消した。

初めはただの欠席だと思い誰も心配などしなかった。

しかし何の連絡もなく二週間ほど休みが続き、流石におかしいなと思ったので彼のアパートを訪ねてみた。

部屋には鍵がかかっており、何度ノックをしても返事がない。

心配だったので新聞受けから部屋を覗き込むと、家財道具などが一切なくなっていた。

そして薄暗くてよく見えない部屋のちょうど真ん中あたり、畳の上に何か妙な形をした像のようなものが置かれているのが見えた。

アパートの人に尋ねてみると、少し前に引っ越したと言われた。

しかも引越しの時には彼以外に何人か、明らかに引越しの業者には見えない手伝いの人が来ていたとも知らされた。

何か厭な感じと不安な気持ちを抱いたので彼の両親に電話してみると、彼からは何も知らされていないと告げられた。

とりあえずお互い何か分かったらすぐに連絡するとだけ言い、そのまま電話を切った。

結局何の進展もなく数週間過ぎた後、彼から突然電話が入った。

「ごめんな、ごめんな、お前のことをあいつらに知らせてしまった。ごめん、ごめん、本当にごめん」

そう震える声で何度か繰り返した後、こちらから何か言うことも出来ずに電話は切られてしまった。

次の日、学校から彼が退学したという連絡があった。

そこで彼の両親に電話すると、

「外国へ行ってボランティア活動してくる、と電話があった。声は確かに息子の声だったが何か変だった」

という話だった。

それから先、彼が学校に姿を見せることは一度もなかった。

彼との最後のやり取りでの言葉が不気味で自分でも気になったが、その後自分の身に何か起こるということも変な電話や勧誘が来ることもなかった。

彼のアパートで、あの隙間から見えた像も妙に脳裏に焼きついて離れなかったが、あれが何だったのか確かめる為に彼のアパートに再び行くという気には何故かなれなかった。

その彼が、ある療養施設に入っているという知らせが先日突然やってきた。

それは一枚の手紙だった。

差出人の名前はない。あて先はきちんと自分の住所になっている。

大学を卒業してから何度か転職もしたし、引越しもしている。

彼の両親とはあの後、殆ど連絡を取っていない。それどころか自分自身の両親とさえ疎遠になっている。

久しぶりに両親に電話してそれとなく尋ねてみたものの、どうやら手紙の差出人ではないようだった。

他に彼と自分の両方を知っている人間でこの手紙を出しそうな人物は思い当たらなかった。

ちょっとした恐怖心を抱いたが、それよりも好奇心の方が強かった。

それに自分の中に何か彼に対して申し訳ない気持ちがあった。

あの時もっときちんと調べたり、彼の状況を知ってあげたりすることが出来たのではないか、そんな気がした。

彼に対する友情よりも変なことに関わりあいになりたくない気持ちの方があの時は強かった、そのことに対する後悔がその手紙によって強く思い起こされた。

手紙には彼と彼がいるという施設の名前、そしてその住所が簡潔に書かれているだけだった。

とにかく週末の休みを利用して、その手紙を頼りにそこへと向かうことにした。

ローカル線の終着駅から運行されているバスの最終停留所、そこからさらに歩いて三十分ほどのところにその施設はあった。

山の中腹、木々に囲まれたかなり大きな建物。入り口には老年の警備員が一人駐在していた。

建物を囲う塀も低く、こういった施設に感じられるある種の威圧感のようなものはまるでなかった。

警備員に見舞いに来たことを告げると、何の手続きもなくすんなりと中へ通してくれた。
門から敷地内へと入った瞬間に不思議なものが目に入ってきた。バス停だ。

それもさっき、三十分ほど前にたどり着いた停留所とそっくりに出来ている。

ベンチには三人の老人が黙って座っているのが見えた。

それぞれ視点定まらない目つきで宙を呆けたように見つめている。

妙な光景だなと思いつつも先へ進んでいき、建物の中に入り受付で彼の名前と見舞いに来たことを告げた。

すると、ここでもすんなりと部屋の番号とそこまでの行き方を教えてくれた。

部屋に向かっている間に、この施設にいるのはどうやら殆どが痴呆性老人だということが見て取れた。

数人若い人も見かけたが、目つきや言動から凶暴性などは感じられないものの、明らかに普通の社会生活を送ることが難しい状態の人たちのようだ。

それでも窓などに鉄柵も張っていなかったし、特別にドアが厳重になっている様子もない。

ここに滞在している人たちも比較的自由に歩き回っているように思えた。

教えられたとおりに進むと、やがて彼の部屋にたどり着いた。

半分ほど開かれたドアをノックすると、中から「どうぞ」という女性の声が聞こえた。

中は大部屋になっていて六つのベッドが置かれている。

そのうち三つは誰も使用していない様子で綺麗にベッドメイクされた状態になっていた。
彼は一番奥の窓側に立っていた。後ろ姿ですぐに彼だと分かった。

ふと横を見ると老婆がこちらに手を振っている。さっきの「どうぞ」はこのおばあさんが発したようだ。

軽くお辞儀をして彼の元に向かうと、彼が何か呟いているのが聞こえてきた。

彼は窓に向かって、

「ごめんな、ごめんな、お前のことをあいつらに知らせてしまった。ごめん、ごめん、本当にごめん」

と繰り返し呟いていた。

口調もあの時のままだった。

しかし彼の姿は驚くほど老け込んでいた。

目つきや雰囲気、そしておそらくその精神状態もやつれきっていて、とても自分と同じ年とは思えない外見をしている。

久しぶり、と声をかけたが彼は何の反応も示さなかった。

相変わらず同じ言葉を繰り返し続けているだけだ。

彼の視線の先、窓の向こうに目を向けると、ちょうど自分が通ってきた門と敷地内の庭が見える。

例のバス停にはさっきと同じように老人が座ったままだ。

不思議そうに見ていると、いつの間にか部屋に来ていた施設のスタッフが

「バス停ですか?」と声をかけてきた。

「ええ、どうしてあんなところにバス停があるんですか?」

そう尋ねると、彼はバス停に関する経緯を説明してくれた。

危険性のない人々が入院しているということもあって、この施設自体の警備はそれほど厳しくない。

それで以前、入院している老人達が脱走してしまうことがあった。

そんな老人達が向かう先は決まって、歩いて三十分ほど先にあるバスの停留所。

そこからバスに乗って知人に会いに行くつもりなのだ。

しかしその知人というのは、もうとっくに死んでしまってこの世にはいない人たちばかりだった。

そのことを老人達にいくら説明しても、すっかり痴呆が進んでしまっているのでまったく話にならない。

繰り返し施設を抜け出して、知人に会うためバス停へと向かってしまう。

何かいい方法はないかと考えた末、敷地内にあのバス停そっくりの偽物のバス停を作ってしまうことにした。

すると見事思惑通り老人達は門から外へ向かうことなく、新しく出来た敷地内のバス停で日がな一日、来ることのないバスをベンチに座って待つようになったという。

「ちょっと残酷ですよね、でも同じようなことは他の施設でもあるようですよ」

そう言って、彼は用が済んだのか部屋から出て行った。

何か切ない思いで窓越しにバス停に座る老人達を見つめていると、突然

「哀れだと思っているんだろ」

ずっと同じことを繰り返し呟いていたはずの彼がはっきりとした口調で、こちらに向かってそう言った。

呆気にとられていると、今度は

「バスは来る、バスは来る、バスは来る、バスは迎えに来る」

と以前のような口調で呟き始めた。

その後こちらから何を話しかけてもずっと同じことを繰り返すだけで、まったく会話にならなかった。

結局、会ったら訊きたいと思っていたことなどを打ち明けることも出来ずに「あの時、力になれなくてごめんな」とだけ言って部屋を後にした。

帰り際、施設スタッフに彼がここに来ることになった経緯を尋ねると、一年ほど前に両親が同伴でやってきて入所したと教えてくれた。

しかし入院以来、両親は一度も見舞いには来ていないらしい。

悲しい気持ちにうな垂れながら建物を出て行くと、やはりバス停ではさっきまでとまったく同じように老人が並んで座っているのが見えた。

家に帰る途中、電車の中で例の手紙を広げて見ていると、妙に乗客の視線が気になった。
何だか自分がこそこそ見つめられているような気がしたのだ。

その視線は電車を降りてからも続いた。

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自分の家に戻り、手紙を机の引き出しにしまってからも何だか妙に気持ちがそわそわする。

窓に駆け寄りそっとカーテンを開いて外を覗くと、怪しげな男が二人、こちらを見ていた。

堪らず外に出て確認してみたが、そこに男達を見つけることは出来なかった。あたりは静かで誰の姿も確認できない。

その日以来どうも落ち着かない毎日が続いた。

そしてついに会社の同僚から

「どうしたの、何か最近心あらずって感じじゃない、恋人でも出来たの?」

そんなことを言われた。

同僚の「恋人でも出来たの?」という言葉にどきりとした。自分があの時彼に投げかけた言葉とまるで同じに思えたのだ。

そう思うと急に気分が悪くなってきた。吐き気さえ感じながら何とか終業まで耐え、「大丈夫?」と言う同僚の言葉にも答えず、すぐさま家に帰った。

家の周りに数人怪しげな人物がいたが、それが本当に怪しいのか、それとも調子の悪い自分の所為でそう見えているか、それすら不確かに思え、怯えるようにして部屋に駆け込んだ。

服を適当に脱ぎ捨て、頭痛薬を何錠か口に放り込んでから布団にもぐりこむとすぐに眠りに落ちた。

そして不思議な夢を見た。

夢の中で自分はあの施設の、例のバス停留所に座っていた。

横にはあの時見た老人達があの時と同じような表情で座っている。

そこに座っていると不思議と心が落ち着いた。ここ数日の不安定な気持ちがまるで嘘のようだった。

やがて隣の老人が「バスじゃ」そう呟いて、指を差し出した。

指の先に視線を向けると確かに一台のバスがこちらに向かってくる。至って普通のバスだ。

ブレーキ音を響かせてバスが止まると、老人達はすっと立ち上がり開いたドアから中へと入っていく。

自分もなぜか同じようにしてドアに向かっていった。

一段目のステップに足をかけると、中から「乗車券をお出しください」という声がした。
声の方に顔を向けると、制服を着た辛気臭い男が運転席からこちらに向かって切符を出せと身振りで示していた。

切符など持っていたかな、と着ている服を探っていると、運転席の男が

「これは独り言ですが、シャツの胸ポケットに入っているかもしれませんね」

といやらしく呟いた。

その言葉に促されるように手を胸ポケットへ伸ばそうとした瞬間、「待て、それは僕がもらっていく」
という声がした。

振り向くと、すぐ後ろに彼がいた。彼は昔のままの姿で、もの凄く自然な笑顔を見せながら、すっと僕の胸ポケットからキップを取り出してバスの中へと乗り込んでいった。

「ステップから降りてくださいね、切符がないとバスには乗れませんので」

運転席の男が告げた。言われたとおり後退ると、ドアが目の前で閉まりバスは発進していってしまった。

朝、目覚めると目元が濡れていた。

わけが分からないはずなのに、何か妙に色々なことがすとんと心の中で収まったような気分だった。

そのまま会社に行くと、同僚には「普通に戻ったね」と言われた。

次の週末に再びあの施設を訪れた。

門を通り過ぎてすぐにバス停を確認すると、以前と同じように老人が三人座っていた。

しかしあの時の三人ではなかった。まったく別の老人達が三人そこにいた。

受付で彼について尋ねると「居なくなった」と言われた。

突然姿を消して、そのまま戻ってきていないらしい。

警察にも届けたがまだ見つかっていないということだった。

彼がいた部屋に行くと、彼が居たベッドはすっかり綺麗に片付けられていた。

彼の消失には別に驚かなかった。あの夢を見たときからこうなるのではないかと感じていた。

帰り際、以前バス停に居た三人の老人達について尋ねると、全員亡くなったと知らされた。

皆穏やかに老衰で死んでいったらしい。

建物から出て門に向かうと、視界にまたあのバス停が入ってくる。

老人達は静かにバスを待っているようだ。

(了)

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