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短編 r+ ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

またお願いします rw+8,637-0110

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※猫好きの方は、読まない方がいいかもしれません。


特殊清掃の会社に勤めていた。

人が想像するような生々しい遺体処理は、実際には仕事の一部でしかない。主な業務はそのあとだ。人がいなくなった部屋、生活が途中で切断された空間を、何事もなかった状態に戻す。それが仕事だった。

だが、動物が絡む案件だけは違った。

家主の不在中に放置された犬、捨てられたペット。人間よりもずっと処理が生々しい。毛皮の下に残る小さな身体は、片づけたあともそこにいるような錯覚を起こさせる。幻覚だと分かっていても、慣れてくるとそれも作業の一部として受け入れてしまう。

働き始めて二年ほど経った頃、一本の電話を受けた。

声の主は中年の女性だった。落ち着いていて、よく通る声。「ペットの件で」とだけ言い、依頼内容を淡々と告げてきた。丁寧すぎるほど整った話し方が、妙に記憶に残った。

見積もりは営業担当と二人で向かった。車の中で、営業がぽつりと呟いた。

「今日の客、なんか変かもな」

目的地は三階建ての瀟洒な洋風住宅だった。手入れの行き届いた庭。門の前には、上品な身なりの女性が微笑んで立っていた。声の印象そのまま、どこか現実感の薄い人だった。

玄関に入った瞬間、鼻を刺す臭いで頭が揺れた。マスク越しでも分かる。人間のものではない臭いだ。営業は何も言わず、俺にだけ目配せをした。

「三階です」

女は明るくそう言い、階段を指した。

一段上がるごとに臭いが濃くなる。視界の端に斑点のような残像がちらついた。三階のドアを開けた瞬間、息が止まった。

床一面が、動かない毛皮で埋まっていた。

猫、猫、猫。

白も黒も茶も混ざり合い、境界が分からない。吐き気で膝が震えたところで、営業が手で下りろと合図を送った。

二階でしばらく、時間の感覚を失って座り込んでいた。戻ってきた営業が静かに言った。

「二百匹」

春先で、腐敗はそれほど進んでいない。蛆も湧いていなかった。ただ、その数がきっちり二百というのが、妙に作為的だった。

一階に戻ると、女は変わらぬ笑顔で待っていた。営業が金額を提示すると、その場で了承し、迷いなくサインをした。

帰りの車中で、営業が聞いた。

「やれるか」

答えられなかった。

三日後、作業が始まった。作業員四人と営業。正直、営業が来てくれたのはありがたかった。

うちの会社には暗黙のルールがある。霊感がある、幽霊が見える、そういうことを口にする人間は採らない。怖がりは作業の邪魔になる。それでも作業前に塩を撒き、手を合わせる程度の習慣だけは残っていた。

完全装備で五人、三階に上がった。

猫は音もなく袋に入れられていった。四匹ずつ。袋が膨らむたび、何かが確実に終わっていく感覚だけが残る。

途中で気づいてしまった。目が開いたままの猫がいる。閉じても、別の個体の目が開いている。全部がこちらを見ているような錯覚が消えなかった。

二百体すべてを運び終えたとき、足が鉛のように重かった。

作業員たちがトラックで出発し、営業と俺だけが残って防臭と簡易清掃を続けた。気づけば十八時を回っていた。

すべてを終え、女を三階へ呼んだ。

「ありがとうございました」

あの笑顔のまま、女は頭を下げた。営業が現金を受け取り、領収書を書く間、俺は耐えきれず階段を下りた。

しばらくして営業も降りてきた。

「挨拶、いいんですか」

そう聞いたが、彼は何も答えず車を出した。

帰り道、コンビニで停まり、営業がコーヒーを買った。車内で彼がぽつりと話し始めた。

「猫、好きなんですって。身内がいないから、家族代わりだって」

世間話を切り上げようとした時、女が言ったそうだ。

「またお願いします」

頼み事をするような口調で、満面の笑みで。

その夜の冷気と声が、ずっと耳に残った。

翌日、営業に聞かれた。

「幽霊とか、最近見てない?」

少し考えてから、「最近、見ます」と答えた。

それから間もなく、社長に呼び出され、会社都合での退職を告げられた。退職金も、余分な金も出た。

猫の死体を前にして、自分の中の何かが壊れたのは確かだ。

今は中古品のリサイクルショップをやっている。元の会社と遺品整理で細く付き合っている。

特殊清掃という仕事の中で、あの日のことだけは、どこにも置いていけない。

あの女が、
何に対して「またお願いします」と言ったのか。

それだけが、今も頭から離れない。

(了)

[出典:399 :本当にあった怖い名無し:2016/07/01(金) 16:01:00.28 ID:z1XYFOpt0.net]

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