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五角の井戸と塚 r+2,873

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子供の頃、よく神社で遊んでいた。

といっても、遊び場としてそこを選んだのは偶然じゃない。家から歩いて七分、すぐ裏が山になっていて、鬱蒼とした木々の下に、ひっそりと佇む社があった。あんなに頻繁に通ったのに、今となっては神社の名前も思い出せない。

その社には、奇妙な造りのものがいくつかあった。まず社殿の裏に回ると、そこだけ土が盛り上がっていて、ちょうど小さな丘のようになっている。ふざけ半分でよじ登ると、見下ろした足元が妙に整っているのに気づいた。まるで人工的に積まれたような土の感触。よく見ると、それは正確な正五角形の形をしていた。

五角形だなんて、自然の中じゃまずお目にかかれない。子供ながらにそれを「変だな」と思った記憶がある。けれど、塚の意味なんてわからなかったし、大人たちも特に何も言わなかった。だから僕らは、その上でヒーローごっこをしたり、相撲を取ったり、ただの遊び場として使っていた。

もう一つ、不思議なものがあった。社の横から山に向かって続く獣道のような細い道があって、それを奥へ奥へと進んでいくと、ひんやりと冷たい空気の中にぽつんと現れる石の井戸がある。これもまた、正五角形だった。

見るからに古く、誰かが意図的に封じ込めたような空気を放っていたけれど、水は透き通っていて、いつでも冷たかった。山で遊んで喉が渇いた時は、必ずその井戸まで行って手ですくって飲んでいた。山に入る前に、なぜか自然と「一口だけ」と決めていた。

今思えば、あれも……自分の意思ではなかったのかもしれない。

実は、僕には少し変なところがあった。
子供の頃から「勘が強い」と言われていた。というより、実際に色々なことが起きていた。

道端にある祠の前を通ると、犬のようなものがついてくる。気配を感じて振り向くと、藪の中に白い尻尾がふっと消えていく。神社や寺では、妙に喉が乾いたり、妙な頭痛がして眠れなくなったりもした。お世話になっていた近所のお婆さんは、笑いながらこう言った。

「この子は犬を引き憑けるから、ちゃんと護りなされ」

それが何を意味するのかは分からなかったけれど、ある日、修験道の山伏さんを紹介され、以来、護摩の炊き方や歩き方、息の整え方を学ぶようになった。奈良の吉野の山伏とも縁ができ、何年かに一度は参拝もした。

その時の話を、何気なく山伏の一人にしたのだ。五角形の塚と井戸のこと。まるで封印のようなあの構造、透き通った水の味……僕が話している時、その人は一言も挟まず、静かに頷いていた。

数ヶ月後、知らない名の来訪があった。京都の本山から、かなり位の高い僧がやってきた。さらに、出雲の名を持つ神職までもが同行していた。

最初は、地元の古い伝承を調べるためだと思っていた。だが、数日後、神社で神事が行われた。社殿の前で読経と祝詞が重なり、白装束の一行が裏の塚へ向かっていく。普段は人気のない境内に、息を呑むような緊張が走っていた。

僕と友人たちは、少し離れた木陰からその様子を見ていた。
社の裏手に立つ僧が、何かを静かに念じると、風もないのに枝葉が音を立てて揺れた。五角形の塚の前で、誰かが低い声で何かを唱えていた。今もその言葉は記憶に残っていない。けれど、塚が震えていたのは確かだ。

後日、山伏の方にだけ、少し話を聞くことができた。

あの神社は、実は天津神系の中でも特に神格の高い存在を祀っていたのだという。名前は伏せられたが、天照に近い存在――だとか。なぜ出雲系の神職が同行していたのかと問うと、彼は少し困った顔をしてから、こう言った。

「どちらでもない、もしくは両方である、と言えばいいでしょうか」

よく分からなかったけれど、つまりあの神社は、誰にも正体を明かされず、ただそこに存在していたということらしい。

そして、塚や井戸の話をした時、こんなことも言われた。

「本来、あの塚には近づくことさえ許されていないのです。大人が無断で立ち入れば、災いが起こる。しかし、あなた方はまだ子供だった。遊んでいたこと自体は……赦されたのでしょう」

実際、その後僕たちは怪我一つしなかった。
それどころか、あの井戸の水についてこんな話まで出た。

「……水、出てましたか?」

「ああ、いつも冷たくて綺麗で、遊んだ後はよく飲んでました」

「奇妙ですね。あの井戸は、もう何十年も前に涸れたと記録されています。地元でも水を飲んだ者はいないと聞きました。あなた方のために、神様が湧かせたのでしょう。……せめて、無垢であるうちに、と」

まるでそれが神の慈悲であるように、彼は言った。

僕は笑って誤魔化したが、心のどこかで、冷たい指に喉を撫でられたような感覚があった。

あの水、甘いような、でも土の匂いが混ざったような、変な味がした。美味いとも、不味いとも言えない。けれど、一口飲むと、体の中の熱がすうっと引いていく。

今思い返すと、あれは水じゃなかったのかもしれない。
むしろ、何かの「気配」だったのかもしれない。

何かが、僕たちの中に入り込む一歩手前で、こちらを覗いていた。

ただ、それでも不思議と怖くはなかった。

あの五角形の底に、何が眠っていたのかは、誰も教えてくれなかった。

ただ一度、あの山伏の方がぽつりと漏らした。

「五角形は、古くは封印のかたちとも、召喚のかたちとも言われております。……どちらであったかは、今となっては」

そう言ったあと、彼は口を噤んだ。

きっと、本当のところは、誰にも分からないのだろう。
そして今も、あの神社の裏には、あの塚が……ある。

──鍵のかかっていない木戸の向こうに。

[出典:186 :本当にあった怖い名無し:2006/01/01(日) 13:43:22 ID:owCMNkWP0]

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