ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ 洒落にならない怖い話

元旦の悪夢、失われた家族とセピア色の風景 r+4,777

更新日:

Sponsord Link

あれは、僕がまだ中学三年生だった頃。

多感な時期の終わりに差し掛かり、漠然とした未来への期待と不安が入り混じる、そんな年齢だった。僕の家族は、無口だが頼りになる父親と、少し心配性な母親、そしてまだ小学校低学年で、いつも僕の後をついて回る無邪気な弟の四人。ごくありふれた、どこにでもあるような家庭だったはずだ。

紅白歌合戦の華やかな喧騒が終わり、家の中が静まり返った元旦の夜。新しい年へのささやかな期待を胸に、「いい初夢でも見られるかな……」などと軽口を叩きながら、僕は自分の部屋の布団にもぐり込んだ。しかし、その夜僕を待っていたのは、甘い夢ではなく、魂を揺さぶるような悪夢だった。

真夜中、僕は心臓が喉から飛び出しそうなほどの激しい動悸と共に、悪夢から叩き起こされた。全身には脂汗がじっとりと滲み、まるで冷水を背中から浴びせられたかのように、布団から飛び起きた体勢のまま、体が硬直して動かせない。
「新年早々、悪夢かよ……最悪だ……」
暗闇の中で一人悪態をつきながらも、再び眠りにつけるような気配は全くなかった。カラカラに渇いた喉を潤そうと、僕は重い足取りで冷蔵庫のあるリビングへと向かった。そこで僕が目にしたのは、信じられない光景だった。

真夜中だというのに、リビングには煌々と明かりが灯り、家族全員が、まるで凍りついたかのように、テレビの前に肩を寄せ合って座り込んでいたのだ。テレビはつけっぱなしになっていたが、深夜のため当然どのチャンネルも放送を終了しており、砂嵐のようなノイズ交じりの、おそらくニュース番組のテロップか何か(その記憶すら曖昧だ)が、無音のまま虚しく画面に映し出されているだけだった。そして何より異様だったのは、リビングの窓という窓が全て、真冬の凍てつく夜気の中に全開にされていたことだ。部屋の中は、外と変わらないほどに冷え切っており、僕は思わず身震いした。

明らかに、家族の様子がおかしい。言葉では言い表せない、ぞっとするような寒気が背筋を駆け上った。
「な、何やってんだよ、みんな! 頭おかしいんじゃないのか?!」
恐怖と混乱で声は震えていたが、半ばキレたように僕は怒鳴りつけた。すると、弟が聞き取れないほど小さな声で、
「だって……ぁ……」
と何かを言いかけて、わっと泣き出してしまった。それを見た両親は、しかし、終始無言で、何の感情も浮かんでいない能面のような無表情のまま、ゆっくりと立ち上がると、窓を一つ一つ丁寧に閉め、テレビの電源を切った。そして、床にうずくまって泣きじゃくる弟に、「もう寝なさい」とでも言うように、静かに寝室へと連れて行った。

新年早々、あまりにも気味が悪い出来事に遭遇し、とてもではないが眠れるような精神状態ではなかった。僕はその夜、自分の部屋に戻り、積んであった漫画を片っ端から読み漁りながら、不安な気持ちで朝を迎えた。

翌朝、僕は両親に昨夜の異様な行動について問い詰めた。
「昨日、真夜中にリビングで一体何やってたんだよ?」
すると、両親は二人とも、「はぁ?」とでも言いたげな、心底怪訝そうな顔で僕を見つめ返してきたのだ。昨夜の、喜怒哀楽の一切を削ぎ落としたような無表情と、今の、僕の正気を疑うかのような表情とのあまりのギャップに、僕は「もしかして、あれは幽霊ってやつだったのか?!」と、本気でパニックに陥りそうになった。

まあ、こんな話を同級生にしたところで、頭がおかしいと思われるのが関の山だろう。それに、十二月に付き合っていた彼女に振られたばかりで、精神的に不安定になっていたのかもしれない。きっと、疲れからくる幻覚か何かを見たのだろう……僕は無理やりそう自分に言い聞かせ、この不可解な出来事に蓋をすることにした。

それからしばらく経ったある夜のこと。僕はまたしても、悪夢にうなされて真夜中に飛び起きた。今度は、夢の内容を微かに覚えていた。見知らぬ男に、後頭部を鈍器のようなもので何度も殴られるという、不快な夢だった。そして奇妙なことに、目が覚めてもなお、つむじの辺りがジンジンと鈍く痛むのだ。まるで、夢の中の出来事が現実にも影響を及ぼしているかのように。

そして、なぜかその時、僕の頭の中には「コンビニなら安全だ……」という、全く意味不明な考えが浮かんできた。頭の中は、「また幽霊に襲われたんだ」という恐怖で完全に支配されており、パニック状態のまま、僕は助けを求めるようにリビングへと逃げ込んだ。しかし、リビングには誰もいなかった。ただ、昨夜の夕食が焼肉だったせいか、微かに焦げ付いたような匂いが、部屋の中に浮遊しているだけだった。そして、新年早々にこのリビングで体験した、あの奇怪な出来事の記憶が鮮明に蘇り、僕はまたしても眠れぬ夜を過ごすことになった。

そして、二月に入った頃からだろうか。僕の体に、耐え難いほどの異常な痒みが現れ始めた。最初は、冬場の単なる乾燥肌だろうと高を括っていたのだが、特に背中と頭皮が、まるで火で炙られているかのように焼けるような感覚を覚え、僕は無意識のうちにそこをボリボリと掻きむしっていた。痒みは一向に治まる気配がなく、皮膚科で処方された塗り薬を、風呂上がりに塗るのが日課になった。

ある日、僕が風呂から上がり、薬を塗ろうとしていると、弟が「僕が塗ってあげる」と珍しく懇願してきた。面倒くさかったが、たまには兄らしいところを見せてやるかと思い、僕は弟に背中を突き出した。すると、弟は何を思ったのか、僕の背中にバチーン!と、思い切り張り手を食らわしてきたのだ。あまりの痛さに、
「てめぇ、ふざけんな!!」
と、僕は思わず怒鳴り声をあげてしまった。

僕の怒鳴り声を聞けば、いつもならすぐに泣き出してしまう弟だ。案の定、見る見るうちにその目に涙をためて、あぁ……また泣くぞ、泣くぞ、と僕が思っていると、弟は声を立てることなく、ただポロポロと大粒の涙を流し始めた。しかし、何かがおかしかった。弟の顔からは、みるみるうちに血の気が引いていき、まるで色味を失った蝋人形のようになっていく。そしてついには、何の感情も浮かばない無表情のまま、ただ静かに涙を流し続けるだけ、といった異様な状態になってしまった……。

その光景は、あまりにも気味が悪く、僕は言葉を失った。恐る恐る両親の方を見ると、信じられないことに、両親もまた、弟と全く同じように、無表情のまま静かに涙を流しているではないか。三人とも、完全に放心状態に陥っているように見えた。よく見ると、彼らの口元が微かに動いているのだが、何を言っているのかは全く聞き取れない。
「ぁ…………ぃ……」
かろうじて聞き取れたのは、その程度の、意味をなさない音の断片だけだった。

その瞬間、僕の視界が、まるで血の海に沈んだかのように真っ赤に染まった。そして、その鮮烈な赤は徐々に色褪せていき、古い写真のようなセピア色へと変わっていく。意識が……遠のいていく……。

そう思った次の瞬間、僕の周りの景色は、まるで映画のワンシーンが切り替わるように、一変していた。
どこかで見覚えのあるような……懐かしいような……。
そこは、従兄弟の家だった。
叔父が、深刻そうな、そして悲しそうな表情で、僕の顔を心配そうに覗き込んでいる。

「え……何で、僕、ここにいんの……?」

目の前で起きている事態が、全く飲み込めない。そのうち、ぞろぞろと、見知った顔が僕の周りに集まってきた。最初は、これまでの出来事は全て、長い悪夢だったのではないか?と楽観的に考えようとした。しかし、なぜ自分が叔父の家にいるのか、その経緯が全く思い出せない。そして、なぜかここには祖父母の姿まである。そして、自分の体は、あちこち包帯だらけで、まるでミイラ男のようだ。僕は完全にパニックに陥っていた。

「記憶がないのなら、むしろ、ない方がいいんじゃないか……?」

祖父が、何かを慮るようにそう呟いたのが聞こえた。しかし、叔父は厳しい表情でそれを制し、
「いや、こいつには、何があったのかを全て話しておかなければならない。まだ犯人も捕まっていないんだ。一週間後には、また警察の人も事情聴取に来るだろうからな」
と、重々しく言った。そして、叔父の口から、僕が失っていた間の全ての出来事が語られた。

僕の家は、一月一日の元旦の未明、何者かによって放火され、全焼したのだという。
僕はその時、たまたま夜中にコンビニエンスストアへ買い物に出かけていたため、奇跡的に難を逃れた。しかし、その際に犯人と思われる人物を目撃してしまったため、後頭部を鈍器で殴られ、さらにバットのようなもので全身を滅多打ちにされ、そのショックで記憶を失ってしまったのだそうだ。

搬送先の病院では、数日間にわたって生死の境をさまよったが、幸いにも一命を取り留め、回復してからは叔父の家に引き取られていた。そして、今はもう三月だという……。つまり、僕は二ヶ月もの間、記憶を失ったままリハビリを続け、つい先程、ようやく全ての記憶が戻った、ということらしかった。

僕は、その場で泣き崩れた……。
たった一瞬にして、愛する家族も、思い出の詰まった我が家も、全てを失ってしまったという事実を、二ヶ月も経ってからようやく理解したのだ。ただただ、子供のように泣きじゃくる僕の顔を、祖父母と叔父は、かける言葉もなく、静かに見つめていた。叔父は黙って視線を逸らしていたが、祖父母はもらい泣きし、僕と一緒にわんわん声をあげて泣き続けていた。

体中に残る無数の青黒い痣。ミイラのように巻かれた包帯。関節を少し曲げるだけでも、チリリとした鋭い痛みが全身に走った。

なぜ、あの真冬の真夜中に、家の窓が全て開け放たれていたのか。なぜ、家族は無表情のまま、テレビの前に固まっていたのか。見知らぬ男に殴られる、あの鮮明な悪夢の意味。そして、突然視界が真っ赤に染まった、あの最後の光景……。
まるで、バラバラだったジグソーパズルのピースが、一つ、また一つと音を立ててはまっていくように、全ての謎が、恐ろしい一つの結論へと繋がっていった……。

結局、僕の家族を襲い、家に火を放った犯人は、未だに捕まっていない。

そして、もう一つ、僕の記憶に深く刻まれていることがある。背中に巻かれていた包帯が取り外された時、僕の青痣だらけの背中には、ただ一箇所だけ、まるで弟の小さな手のひらの形そのままに、全く傷のない、綺麗な肌色の部分が残っていたのだ。

事件から五年という歳月が流れ、体中の痣が消えるのと共に、あの不思議な手のひらの跡も、いつしか跡形もなく消えてしまった……。

長々と、そして拙い文章で申し訳ない。しかし、これは僕にとって、決して忘れることのできない、あまりにも悲しい記憶なのだ。この話自体は、もしかしたらそれほど怖いものではないのかもしれない。だが、あの残虐な犯人が、今もどこかの街で普通に生活しているのかもしれないと考えると、僕はそちらの方に、言いようのない恐怖を感じ続けている。

(了)

[出典:64 :本当にあった怖い名無し:2014/06/27(金) 01:12:32.89 ID:YZIwNUmx0.net]

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, 洒落にならない怖い話

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2025 All Rights Reserved.