ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

中編 r+ 山にまつわる怖い話 集落・田舎の怖い話

森守り r+5434

更新日:

Sponsord Link

俺の田舎は四国の高知県の山奥にある小さな集落だ。

もっとも、そこは祖母の故郷であり、親父の代から家族は関西で暮らしている。親類もほとんど村を離れていて、長らく疎遠な状態だった。俺自身も幼いころに一度行ったきりで、足の悪い祖母は20年ほど帰省していない。連絡を取り合うこともなく、完全に縁遠い場所になっていた。

そんなある日、俺の生活に変化が訪れた。

大阪で免許を取り、古いデミオに乗って街を走り回っていた俺だったが、営業バンに突っ込まれる事故に遭い、愛車は廃車になってしまった。

貧乏な俺は車を諦めざるを得ないかと思っていた矢先、偶然にも例の田舎から連絡が入った。

親父が電話に出て、俺が事故で車を失った話をすると、なんと向こうでは処分しようとしていた車があるとのことだった。タダで譲ると言われ、話が勝手に進んでいたらしい。

数日後、陸送でやってきたのは古い71マークⅡだった。

デミオよりさらに古い車だったが、車好きな俺はむしろ大喜び。ホイールや車高をいじり、すっかり気に入って通勤や遊びに使い倒した。

そうして二年が経ったある日、車の元の持ち主だった大叔父が亡くなったとの連絡が入った。しかし、電話の内容は曖昧で、死因も教えてもらえないまま終わった。

親族で「久々に村へ行こう」という話も出たが、祖母の足が悪いことや、両親が仕事で忙しいこともあり見送られた。そんな中、俺自身はちょうど退職を考えていたタイミングだったので、一人で高知に行くことにした。

夜明けに到着する予定で、俺は愛車のマークⅡに乗り込み高速を飛ばした。しかし、村に向かう山道に入ったころ、深い霧に包まれてしまった。霧は想像を超えて濃く、前も横もまったく見えない。ライトが反射して逆に眩しいほどだったため、仕方なく車を停めて一服することにした。

窓を少し開けてタバコに火をつけると、鬱蒼とした森の中にいることを改めて感じ、不気味さが押し寄せてきた。カーステを絞り込むと、辺りには何の音も聞こえない。大阪の喧騒とはまるで違う、静寂と霧が支配する空間。車内にはマークⅡのエンジン音だけが響いていた。

すると、不意に「ア……アム……」という子どものような高い声が聞こえてきた。最初はどこからの音なのか見当もつかず、カーステをさらに絞って耳を澄ませた。しかしその声は徐々に近づいてきて、「ア……アモ……ア……」と囁きが鮮明になる。

声が車の外ではなく車内から聞こえることに気づいた瞬間、背筋が凍りついた。「みつけた」――左耳元で、はっきりと声がした。外ではない。車内に何かがいる。

恐怖に体が硬直し、前方の霧から目をそらせないまま、ミラーを確認しようとする自分と見たくない自分の葛藤が続く。次第に声が耳元で大きくなり、「アモ……アム……アモ……」と繰り返す。恐怖が限界に達したところで俺は気を失った。

「おーい、大丈夫かー」という男の声で目が覚めた。車外に知らないおっさんが立っている。時計を見ると朝の8時半。夜明けどころか、とっくに日は昇り、霧も嘘のように晴れていた。

どうやら車を停めたまま寝てしまい、後続車が通れず困っていたらしい。「すみません、すぐ行きます」と答え、エンジンをかけて走り出した。車内は明るく、何事もなかったようだ。夢でも見たのかと思ったが、燃え尽きたタバコの吸い殻がフロアに転がっているのを見て、それが夢とは思えなかった。

村に到着すると、大叔母たちが明るく迎えてくれた。電話のそっけない雰囲気とは違い、よく喋る人たちだった。線香をあげてから茶を飲みつつ話していると、「道、狭かったでしょう。朝には着くって聞いてたのに全然来ないから、崖にでも落ちたかと思ったわ!」と言われた。

俺は今朝の出来事を話してみた。ところが、大叔母たちの顔色が徐々に曇り始めた。すると彼女たちは「モリモリさまだ……」と呟いた。最初は冗談かと思ったが、次第にその空気の異様さに気づいた。

「まさか……じいさんが死んで終わったはずじゃ……」と大叔母たちは怯えたように顔を見合わせ、「すぐ帰れ」と告げられた。そのうえ「車も処分しろ」と言う。理由を聞くと、大叔母たちは青ざめながら語り始めた。

「モリモリさま」は「森守り」と書き、この集落一帯の森を守る神様のような存在だという。モリモリさまのおかげで山の恵みは豊かで、この村も大きな災害から守られている。ただし、祟りをもたらす存在でもあり、一度目をつけられれば魂を奪われるとされていた。

モリモリさまは、森を荒らす不浄なものを嫌い、それに呪いをかける。不浄なものとは動物だったり人間だったりさまざまだが、姿を見せては子どものような声で呪詛を唱えるという。呪詛を聞いた者は三年以内に命を奪われる。魂は未来永劫、森を育てる「肥やし」として消費されるのだそうだ。

俺の場合は、マークⅡに乗っていた大叔父がモリモリさまの呪いを受け、それが車にも影響を及ぼしていたらしい。大叔父は生前、不法投棄をしていて、その最中にモリモリさまを見たと言っていたという。その後、大叔父は毎晩モリモリさまが夢枕に立つと話すようになり、やがて心臓発作で亡くなった。車もまた呪いの対象となり、結果的に俺がその呪いに巻き込まれた、というのが大叔母たちの見解だった。

俺が今朝聞いた「アムアモ」という声は呪詛の言葉ではないか、と大叔母たちは震えていた。「車に乗ると山を通るたびに呪いが強まる」と言われ、俺は姿を見ていないうちに関西へ帰り、車を処分するようにと勧められた。

さらに、大叔母たちは村の長老でもある老婆を呼び寄せた。白い服を着た老婆は村一番の年長者であり、この件について詳しい人物だという。しかし、その老婆も「どうにもならん。かわいそうだが諦めるしかない」と短く言い残し、帰ってしまった。

村を出る際、大叔母は真剣な表情で「二度とここに来てはならない。このことは忘れなさい」と告げた。その言葉に俺は恐怖を覚えながら、村を後にした。

村を出る山道では、大叔母の車が先導してくれた。だが、その車の上にずっと子どもの姿が見えた。それがモリモリさまだと俺は直感的に理解した。子どもは俺をじっと見つめていた。

村から離れ、高知市内で大叔母と別れると、俺はそのまま一気に関西へ帰った。帰宅後すぐに、71マークⅡは処分した。そして、代わりに新しい100系マークⅡを購入した。

モリモリさまのことを家族に話すと、父親は直接村の親戚とも話したそうだが、どこか理解できない様子だった。祖母も高齢で認知症が進んでおり、会話らしい会話にはならなかった。

恐怖の記憶は今でも残っている。何より、村を出るときに見た子どもの姿が忘れられない。あれがモリモリさまだったのだろう。村から離れ、車も処分したことで呪いが解けたのかどうかは分からないが、今のところ特に異常は起こっていない。

それでも、信じているかと聞かれたら、完全には信じきれないというのが正直なところだ。

ただ、あの体験をしてからは、山を走るときにふと車内が静まり返ると、あの声が聞こえるような気がしてならない。

(了)

Sponsored Link

Sponsored Link

-中編, r+, 山にまつわる怖い話, 集落・田舎の怖い話

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2025 All Rights Reserved.